せっけい日和

MKデザインスタジオ一級建築士事務所柿本美樹枝のブログです。設計者として、生活者として、多用な視点で綴っています。

本物のバリアフリーとは何だろう。創造力の前に想像力が必要!?  〜調査と研修で検証する01〜

2019年10月07日 | ユニバーサルデザイン


↑車椅子用に低く設定された受付カウンターだが
長い板のため、前エプロンの補強があり、足が当たる。
そのため、受付の記帳ができない。惜しい。。


今日から、ノーベル賞の発表週間。
本日は、「医学・生理学賞」が発表されましたね。

ニュースでは、賞の審査基準を聞かれて
「新たな発見」と答えておられました。
そこが選定のポイントなのですね。

賞といえば、バリアフリー賞を受賞したという施設への
バリアフリーアドバイザーの派遣に、先週末伺いました。

その調査対象の施設は、賞を取ったものの
利用者から幾つかの要望や、使いづらさを訴えられており、
施設運営者が、どのように対処したら良いか、という相談でした。

神奈川県からの派遣事業のため、
登録しているバリアフリーアドバイザーが数名伺うことになっています。

今回、ちょうど横浜在住時であったので、参加させてもらいました。

この派遣は、もう数年来続く事業です。
当初の派遣では、古い施設の不便さを改修するには
どうすべきかといった相談内容が主でした。

まだ、バリアフリー条例が整っていない時期の建物もあり
今の基準に合わないのは、仕方がないと思われました。

こちらとしては、理想的な改善提案はするものの、
実際にどこまで改善できるか
予算に応じて、施設側がチョイスする
といったような報告書となっていました。

ところが、今回は、新築の建物であり、
しかも、建築の賞をとったというので
一体何が問題なの?
調査の必要があるのか、事前に疑問に思っていました。

実際は、私たちアドバイザーへの相談の「あるある」の部分と
驚くかな、施設全体の配置計画にまで及ぶ内容がありました。

正直なところ、他の設計者のあら探しになることは避けたいのです。

しかし、根本的に建築としての不具合というものもあり
動かしようのないハードの側面を、
人的にフォローしなくてはならない。

フォローしようと懸命に努力されている
施設運営者が気の毒にさえ思えてくるのでした。

条例で県の基準審査を受けての建設であっても
抜け落ちや、見落とし、または、
条例でカバーできない部分が多くあるということなのでしょう。

調査していて、さすがに設計はいろいろと工夫がなされている様子に
新施設への意気込みを感じるのでしたが、、、、

弱者への視点が、、、やはり欠けていると感じました。

聴覚障害のある方の動線と、
駐車場の車の出入り口が交差し、命の危険すら感じます。


電柱すぐ横の誘導ブロック。聴覚障害の人が、誤ってぶつからないか
周りもハラハラ。電柱は、新築の場合協議すれば、移動できるのですが
できなかった理由は?、、、。



階段もEVもトイレも全て同じ導線上にあり
車椅子の人は、その都度、
各出入り口の人との接触の危険もあります。
(施設は、名誉のため写真は避けます)

これらは、当事者アドバイザーにより
ミラーの設置(人の動きが事前に分かるように)を求められました。

動線を重ねない間取りにならかったものか、
あるいは少しの溜まりを作る、
見通しを良くするなどの工夫はできなかったものかと
ちょっと、悔やまれます。

たまたま私たちが、その視点で見るので気が付くのです。

設計や建設者のせいではない、
国そのものの指導がそうなのだから。。。

いつでも、費用対効果を考えなくてはならない建築関係者は
まずは、国の指導にのっとるのであるから、
お墨付きをもらっておいて
あとから、文句を言われてもね〜と
思うのが本当のところではないでしょうか。

そもそも、バリアフリーの考えが、ハードな側面の
整備にとどまっており、運営や使い方にまで及んでいないのが
日本の問題なのです。

私自身、アドバイザーとしての研修を受けたり
車椅子体験をしてみたり、当事者になって考える訓練をしてきました。

そして、バリアフリーの最新建材や情報を知っていなかったら
同じ過ちを冒していたかもしれないのです。

しかし、あえて言うのであれば、想像力でしょうか。。。

ハードな側面の形への創造力から、人が使うことへの
想像力。。。

これがやはり、ものづくりには欠けてはならないと思います。

この派遣事業は、調査だけではなく、報告書のまとめ
そして発表など、非常に、時間を割いてしまいます。

そのため、設計実務との兼ね合いを考えると
あまり気安くは引き受けられません。

それでも、こうやって、出かけていくと、
発見もあり、もどかしさもあり、

そして少しでも世の中の施設が
ユニバーサルな方向へ改善していければと願う想いを
強くするのでした。

今日は、調査での想いを綴りました。

では、今後私たち設計者はどうしていったらいいのか
バリアフリーは国際的には通用しない言葉、
アクセシビリティであると言うべきなど

日本の社会はどうあるべきか、研修で得た気づきや学びは
次回、アップします。

今回は、施設の方、アドバイザーのみなさん、
お世話になりました。

現在、報告書は、項目を整理し、書き留めたところです。
提出までは、しばらくお時間くださいね!

映画に学ぶパイオニアになる生き方 

2019年10月01日 | アート・文化


忙しい時ほど、仕事の課題が大きいほど、
映画を観たくなるのものです(笑)

1)映画との偶然の出会い

情報が溢れる世の中で、一つだけ不思議に思うことがあります。

建築家としての生き方、
女性としての生き方、
仕事へのプロとしての向き合い方
ほつれた人間関係のほどき方、、、などなど

多くのことを、思い悩んでいる時、
その時の課題にぴったりの映画と出会うのです。

ある年は、お正月休みもなく、仕事の予定だった年始。

パートナーもさすがに休みなので、幼子も託すこともでき
お正月からは混まないだろうと、

仕事を始める前の気合い入れに、

早朝、映画館へ一人赴き「孔子」を観ました。
信念の貫き方を学びました。

人を引っ張る底力とは何か、
人の評価を超えて、怯まない自分とは何か。

その年の仕事に、大いに役に立ったのです。

2)女性パイオニアの実話

そして、この秋、
また素敵な映画に巡り会えました。

「レディ・マエストロ」(原題は指揮者「De dirigent」)

没後30年の女性指揮者のパイオニアの実話に基づく、
女性の奮闘の物語です。

劇場で沢山頂いた
バレエやオペラのチラシの50枚ほどの中に
一枚だけ入っていた映画の案内。

「映画?」と不思議に思ったのですが、
劇中のテーマがクラッシク音楽だから
挟まれていたのだと思われます。

他のものは、気にならなかったのに、
そのチラシ一枚だけが、輝いて私の目に止まったのです。

確かに、鑑賞中は、オーケストラの名曲演奏たっぷり。

それだけでも、劇場の客席にいるようで、ドキドキでした。
クラシックファンには二度美味しいと思われます。

3)努力、信念、哲学

物語は、女性が受けるあらゆる差別や
家庭を持つこと、家庭的な事をすることを
強要されそうな状況を丁寧に描いています。

技能はあっても、華やかさのない容姿に、
タイピストに採用されなかったり。

母親には、仕事で疲れて帰ってきてすぐに
スープ作りを手伝うために
苦手は玉ねぎを切ることを押し付けられたり。

指揮に見とれて会場に入ってしまい、
即刻劇場のスタッフをクビになったり。

彼女の情熱の火がチラつけばチラつくほど、
周りが意地悪になるという構図。

これは、働く女性の周りのでは、
今でも「あるある」ではないでしょうか。
と共感し、同情し、
そして心の中で、「めげるな!」と声援を送るのでした。

しかし、その一途な魅力は、
周りをも巻き込み、試練は繰り返し訪れるのですが

受け入れてくれる人、応援者も現れて。。。

何事にも寡黙に
飛び込んでいく様は、これぞ、ザ・パイオニアです。

念願叶い、合格した指揮を学ぶ学校での彼女の姿を
守衛さんが、「ブリコさんは、いつも一番最初に来ますね。」

そして、「一番最後に、帰りますね。」とそのセリフだけで、
勉強熱心な彼女の姿、努力を描いていて、ジーンとします。

「できない、無理」と言われて笑われても、

追い払われそうになって、
「あなたから学べなくとも、絶対に指揮者になってみせる」と
啖呵を切り、返って相手を惹きつけたり

古い慣習や伝統を乗り越える
パワーが、彼女にはあるのでした。
きっとそれは信念ですね。

そこには、音楽や芸術の愛が根底に感じられて、小気味良いのです。

そして、彼女なりの音楽への哲学
無学を指摘されると、
図書館で読んだ有名な音楽家の言葉を引き合いに出すなど。

おきまりの女性の足を引っ張るのも女子。
コンサートの中止を強要してくる夫人たち。

一方で、応援するのも、女性という構図も浮かび上がらせています。
無名で、学費の支援をする女性が現れます。

大統領夫人の
「どうせ、批判されるなら、自分の心のままに行動しなさい」
という励まし。

最後には、女性演奏者への差別も乗り越える彼女。
アッパレです。

愛する人との家庭を得ることはできなかったが
多くの演奏者、観客に愛される人生だったろうと
膜引きでは、涙腺が緩むのでした。

3)感想と学びを綴ると。。。

何事も、「無理」と言われてめげそうになる時、

周りの理解者が誰もいないと感じる時、

自分の情熱に、自分自身が押し殺されそうになる時

偶然の重なりが導きになっていたり、
ダメだと思った先に
思いがけない出会いが待っていたりと、

頑張っている人に向けられる
宇宙の応援の法則も散りばめられています。

もし、あなたが何かのパイオニアになろうとしたら
それは自分自身の幸せだけではなく、

その後に続く女性や虐げられている人の
道筋でもあると信じて、向き合うべきである。

そして、その情熱を魅力に変えて、
迷わず、突き進め!

と、背中を押してくれる映画でした。

ありがとう。

先駆者として、戦うように礎を築いてくれて。

ブラボー、アントニア・ブリコ!!

追伸:
女優さんも男優さんも美しくて、ラブストーリーとしても楽しめます。
自分だったら、この時、どう人生を選択する?
という視点で考えさせられます。

恋や仕事に悩んでいる若い女性にも、ぜひ、観て欲しいですね!