「文化祭、4人で一緒に回らない?」
と、石川さんと枝村さんに誘われた。その瞬間、頭をよぎったのは、
(浩介と回りたかったな……)
ってことだった。おれの浩介欠乏症はそうとう重症だ。
女子と一緒に回るなんて面倒くさくて嫌な上に、文化祭実行委員の仕事もあるし、クラスの出し物の宣伝もあるし、で、断りたかったんだけど、ヤスにしつこく後ろからつつかれたため、
「一日目の午後の少しの間だったら……」
と、約束した。ヤスは石川さん狙いなんだ。ただ、問題なのは、石川さんはおれ狙いということだ。それはヤスも知っているのに……
でも、ヤスはケロリと、
「お前に振られた石川さんを優しく慰めるって作戦だよ! 協力してくれよ!」
「……前向きだなあ」
感心してしまう。
「だってお前、石川さんタイプじゃないんだろ?」
「……まあな」
「なんだっけ? 背が10センチ以上低い女の子らしい子だっけ?」
「うん」
そうだ。おれの理想は身長149センチ以下の女の子。
「そんな子いないぞ~?」
「だからいるって」
おれの姉貴だけど。
「じゃあ、渋谷はまだそいつのことが好きってことで石川さんのこと振ってくれよ」
「だから別に好きじゃないっての」
姉貴好きだったら倫理的にまずいだろ。
「じゃあ、お前、今、好きな子いないのか?」
「好きな子?」
好きな子って……なんだ? あらためて考えるとよくわからない。理想の子とは違う話だよな……。
「好きな子の基準がわかんねえ」
「基準?」
「どう思ったら好きなんだ?」
言うと、ヤスにマジマジと顔をみられた。
「渋谷って……まさか初恋もまだなのか?」
「………」
高校一年で初恋もまだって……遅れてる? 遅れてるのか?!
「びっくりだな……その顔だから遊びまくってんのかと思った」
「…………」
ムッとして睨むと、ヤスは「まあまあ」と手をあげた。
「どう思ったら好き、か、な? まあ、普通は、一緒にいると嬉しいとか、一緒にいたいとか、相手のことが知りたい、とか?」
「…………」
「だから、オレ、文化祭も石川さんと回りたいんだよー。一緒の思い出作りたい!」
「…………」
一緒に回りたい女の子なんていない。
(でも、浩介とは一緒に回りたい……っておいっ)
思ってしまって、ハッとする。いやいやいや、奴は男だし!!
「渋谷、顔赤いぞ?」
「いやいやいやいや、なんでもないっ」
ヤスに突っ込まれて、慌てて否定する。
「好きな女、思い当たったとか?」
「当たってない当たってない!」
ぶんぶん首を振ると、ヤスがまた顔をのぞきこんできた。
「なあ、ホントにいないのか?」
「だからいないって」
「いるってことにしてくれよー」
そんな無茶苦茶な。
わーわー騒ぎ立てるヤスを置いて、生徒会室に向かう。文化祭はもう明日に迫っている。実行委員は忙しいんだ。
生徒会室での最終確認が終わって階下に降りたのは、最終下校時刻の6時を回る寸前だった。
「渋谷くーん、急がないとバス乗り遅れるよー」
「え、もうそんな時間?」
一緒に委員をしている女子達に急かされ、昇降口を出たところで、
「…………あ」
こちらをジッと見ていた人影が、おれを認めて大きく手を振ってきた。
「渋谷っ」
「…………っ」
その声に、心臓がぎゅっとなる。浩介……。
何日ぶりだ……?
「一緒に帰れる!?」
「…………」
…………くらくらする。何だその、しばらく会えなかったことなんてなかったかのような自然さは。
女子達がバスの時間を気にして、おれを振り返った。
「じゃ、渋谷君、私達いくね~」
「……あ、うん。明日よろしく」
適当に返事をして、浩介の前にいく。そして見上げる………浩介の瞳。
「なんか久しぶりだよね~?」
「………そうだな」
駐輪場に向かって並んで歩き出す。以前はテスト期間中や、毎週木曜日はこうして一緒に帰っていたのにな……。
文化祭が終わったらまた木曜日、バスケの練習して一緒に帰れるようになるかな……。
そんなおれの心中を読んだかのように、浩介があっけらかんと言った。
「あ、そうだ。来週から木曜日、体育館使えなくなっちゃうんだよ」
「は!?」
なんだと!?
「バトン部が使うんだって。ほら、バトン部最近すごいじゃん?あっちこちで活躍してて」
「……………」
バトン部の活躍なんてどうでもいい。もう、二人でバスケできないってことが問題で……。
(浩介は別に問題って思ってないのか?)
もう、おれとバスケしなくてもいいって……?
心が下へ下へ沈み込んでいく。そこへ、
「あれ? 桜井、もう行ったのかと思ってた」
「あ、篠原」
自転車にまたがった一年生。こいつは……あれだ。浩介とコンビの「しのさくら」の「しの」だ。
(普通だな……)
思わずジロジロと観察してしまう。普通の高校生だ。浩介より少し背は低めで、地味でもなく派手でもなく……
「いつものとこ行く? たぶんみんなもう行ったよ?」
「あ……ごめん。今日はちょっと……」
浩介が申し訳なさそうに頭を下げると、篠原は「そっか」と肯き、
「じゃあ、また明日」
あっさりと行ってしまった。おれの方には見向きもしなかった。連れだと思われなかったのかもしれない。
いつものとこ。いつものとこって……
「………いつものとこって、何?」
気が付いたら口に出していた。
「駄菓子屋さんだよ。渋谷も行きたい?」
「………別に」
駄菓子屋……いつものとこ。ああ、おれの知らないことばかりだ。
「はい。乗って」
おれの内心のもやもやなんて知らず、浩介がにっこりという。
「……うん」
後ろに座り、規則的な自転車を漕ぐ音に身をゆだねる。
体育館が使えなくなった木曜日。
いつものとこ。駄菓子屋。
しのさくら。
グルグルと思いが渦巻く。
こらえきれなくて浩介の広い背中にコツンと額をあてる。伝ってくる体温……
なあ、浩介……
お前にとっておれってなんだ?
おれにとってお前って……なんなんだ?
------------------
お読みくださりありがとうございました!
またまた次回も慶視点で……
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と、石川さんと枝村さんに誘われた。その瞬間、頭をよぎったのは、
(浩介と回りたかったな……)
ってことだった。おれの浩介欠乏症はそうとう重症だ。
女子と一緒に回るなんて面倒くさくて嫌な上に、文化祭実行委員の仕事もあるし、クラスの出し物の宣伝もあるし、で、断りたかったんだけど、ヤスにしつこく後ろからつつかれたため、
「一日目の午後の少しの間だったら……」
と、約束した。ヤスは石川さん狙いなんだ。ただ、問題なのは、石川さんはおれ狙いということだ。それはヤスも知っているのに……
でも、ヤスはケロリと、
「お前に振られた石川さんを優しく慰めるって作戦だよ! 協力してくれよ!」
「……前向きだなあ」
感心してしまう。
「だってお前、石川さんタイプじゃないんだろ?」
「……まあな」
「なんだっけ? 背が10センチ以上低い女の子らしい子だっけ?」
「うん」
そうだ。おれの理想は身長149センチ以下の女の子。
「そんな子いないぞ~?」
「だからいるって」
おれの姉貴だけど。
「じゃあ、渋谷はまだそいつのことが好きってことで石川さんのこと振ってくれよ」
「だから別に好きじゃないっての」
姉貴好きだったら倫理的にまずいだろ。
「じゃあ、お前、今、好きな子いないのか?」
「好きな子?」
好きな子って……なんだ? あらためて考えるとよくわからない。理想の子とは違う話だよな……。
「好きな子の基準がわかんねえ」
「基準?」
「どう思ったら好きなんだ?」
言うと、ヤスにマジマジと顔をみられた。
「渋谷って……まさか初恋もまだなのか?」
「………」
高校一年で初恋もまだって……遅れてる? 遅れてるのか?!
「びっくりだな……その顔だから遊びまくってんのかと思った」
「…………」
ムッとして睨むと、ヤスは「まあまあ」と手をあげた。
「どう思ったら好き、か、な? まあ、普通は、一緒にいると嬉しいとか、一緒にいたいとか、相手のことが知りたい、とか?」
「…………」
「だから、オレ、文化祭も石川さんと回りたいんだよー。一緒の思い出作りたい!」
「…………」
一緒に回りたい女の子なんていない。
(でも、浩介とは一緒に回りたい……っておいっ)
思ってしまって、ハッとする。いやいやいや、奴は男だし!!
「渋谷、顔赤いぞ?」
「いやいやいやいや、なんでもないっ」
ヤスに突っ込まれて、慌てて否定する。
「好きな女、思い当たったとか?」
「当たってない当たってない!」
ぶんぶん首を振ると、ヤスがまた顔をのぞきこんできた。
「なあ、ホントにいないのか?」
「だからいないって」
「いるってことにしてくれよー」
そんな無茶苦茶な。
わーわー騒ぎ立てるヤスを置いて、生徒会室に向かう。文化祭はもう明日に迫っている。実行委員は忙しいんだ。
生徒会室での最終確認が終わって階下に降りたのは、最終下校時刻の6時を回る寸前だった。
「渋谷くーん、急がないとバス乗り遅れるよー」
「え、もうそんな時間?」
一緒に委員をしている女子達に急かされ、昇降口を出たところで、
「…………あ」
こちらをジッと見ていた人影が、おれを認めて大きく手を振ってきた。
「渋谷っ」
「…………っ」
その声に、心臓がぎゅっとなる。浩介……。
何日ぶりだ……?
「一緒に帰れる!?」
「…………」
…………くらくらする。何だその、しばらく会えなかったことなんてなかったかのような自然さは。
女子達がバスの時間を気にして、おれを振り返った。
「じゃ、渋谷君、私達いくね~」
「……あ、うん。明日よろしく」
適当に返事をして、浩介の前にいく。そして見上げる………浩介の瞳。
「なんか久しぶりだよね~?」
「………そうだな」
駐輪場に向かって並んで歩き出す。以前はテスト期間中や、毎週木曜日はこうして一緒に帰っていたのにな……。
文化祭が終わったらまた木曜日、バスケの練習して一緒に帰れるようになるかな……。
そんなおれの心中を読んだかのように、浩介があっけらかんと言った。
「あ、そうだ。来週から木曜日、体育館使えなくなっちゃうんだよ」
「は!?」
なんだと!?
「バトン部が使うんだって。ほら、バトン部最近すごいじゃん?あっちこちで活躍してて」
「……………」
バトン部の活躍なんてどうでもいい。もう、二人でバスケできないってことが問題で……。
(浩介は別に問題って思ってないのか?)
もう、おれとバスケしなくてもいいって……?
心が下へ下へ沈み込んでいく。そこへ、
「あれ? 桜井、もう行ったのかと思ってた」
「あ、篠原」
自転車にまたがった一年生。こいつは……あれだ。浩介とコンビの「しのさくら」の「しの」だ。
(普通だな……)
思わずジロジロと観察してしまう。普通の高校生だ。浩介より少し背は低めで、地味でもなく派手でもなく……
「いつものとこ行く? たぶんみんなもう行ったよ?」
「あ……ごめん。今日はちょっと……」
浩介が申し訳なさそうに頭を下げると、篠原は「そっか」と肯き、
「じゃあ、また明日」
あっさりと行ってしまった。おれの方には見向きもしなかった。連れだと思われなかったのかもしれない。
いつものとこ。いつものとこって……
「………いつものとこって、何?」
気が付いたら口に出していた。
「駄菓子屋さんだよ。渋谷も行きたい?」
「………別に」
駄菓子屋……いつものとこ。ああ、おれの知らないことばかりだ。
「はい。乗って」
おれの内心のもやもやなんて知らず、浩介がにっこりという。
「……うん」
後ろに座り、規則的な自転車を漕ぐ音に身をゆだねる。
体育館が使えなくなった木曜日。
いつものとこ。駄菓子屋。
しのさくら。
グルグルと思いが渦巻く。
こらえきれなくて浩介の広い背中にコツンと額をあてる。伝ってくる体温……
なあ、浩介……
お前にとっておれってなんだ?
おれにとってお前って……なんなんだ?
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