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BL小説・風のゆくえには~遭逢9-2(慶視点)

2015年12月10日 07時19分44秒 | BL小説・風のゆくえには~ 遭逢

 浩介が、土手の階段の途中に座って川の流れを見ていた。

 呼びかけようとしたけれど、何となくできなかった。
 一番はじめに浩介を見た時にも感じた、浩介を纏う切ないオーラ。一人深淵に沈み込んでいるような……

「渋谷」
「……おお」

 視線に気が付いたのか、浩介がこちらを振り返ったので、隣に下りていく。

「ごめん。寄り道してた」
「いや……」

 レギュラー決めの紅白戦のあと、おれは先に帰って、浩介がうちに来るのを待っていた。でも、いつもの時間になっても来ないので、川べりまで出てみたら、浩介の自転車が停まっていることに気がついて、ここまできたわけだけれども……

(……ダメだったんだな)

 横に座って、一緒に視線を川に向けながら、そう思う。
 選ばれたのなら、こんなところで一人で座っていたりしないだろう。


「渋谷」

 数分の沈黙を破り、浩介が口をひらいた。

「……ごめんね」
「………」

 浩介は川に目を向けたまま、小さく言った。

「せっかく教えてもらってたのに……ダメだった」
「………。まだ、これからだろ。お前はじめたばっかりなんだから」
「うん……ありがと」

 えいっという掛け声とともに、浩介が立ち上がる。

「おれ、一回も部活サボらなかったし、休みの日も渋谷に教えてもらったりしてたし、結構真面目に頑張ったんだけどなあ」
「………」
「でも、部活休んでばっかでも中学からやってた人の方がおれよりずっと上手いんだよね。やっぱ上手い人の方が選ばれるのは当然だよね」
「………」

 真上を見上げる浩介……

「ちょっと期待してたなんて、図々しかったな……」

 そして、顔をおろすと、『にっこり』とおれに笑いかけてきた。

「せっかく教えてくれたのに、ごめんね」
「………お前」

 なんだ、その『にっこり』は……

 おれも立ち上がり、浩介を間近から見上げる。

「無理に笑うな」
「無理になんて笑ってないよ」

 またヘラッとする浩介。

「だからっ」

 なぜだか分からないけれど、無性に腹が立った。
 その作り物の『にっこり』をおれに向けるな。そんな仮面をかぶっておれを見るな。

「悔しいんだったら悔しいっていえよっ」

 言うと、浩介がきょとんとして、

「え? あ、うん。悔しいよ?」
「………っ」

 また『にっこり』!

「お前………っ」

 カチンときて、両頬に手を伸ばし思いっきり引っ張ってやる。

「な、なにす……っ」
「悔しい時は悔しいって顔しろっ」
「やめてよ~」

 おれの手を引きはがす浩介はまだヘラヘラしてて……もう我慢ができなかった。

「笑うな! 泣きたいときは泣け!」
「……っ」

 鳩尾に拳をねじ込むと、浩介が声にならない声をあげて身を折った。

「なにす……っ」
「だから泣けっつってんだよ」

 もう一度拳を構えたところ、手首を掴まれた。
 ギリギリギリギリ……と強い力で掴んでくる。

「いてえっお前……っ」
 空いているほうの手で、その手を剥がそうと上から掴んだところで、

「………っ」
 
 息をのんだ。

「お前……」
 すぐ近くに浩介の瞳がある。もうあの『にっこり』はなく、その代り深い光を帯びていて……。

「渋谷……」
 つぶやいたのと同時にその瞳から涙が一粒、こぼれた。

「あ……」
 きゅうっと心臓が掴まれる……。 

「渋谷……おれ……」
 浩介はゆっくりとオレの腕から手を離した。そしてペタンッと座りこむと、

「おれ……」
 涙をいっぱいにためた瞳でおれのことをまっすぐに見上げてくる。おれも目をそらさなかった。

「おれ……」
 ポロポロポロ……と七色の光が流れ出す。夕日に照らされて光っている……

(ああ……きれいだな……)

 妹が昔集めていたビーズによく似ている。

 浩介はそれをぬぐおうともせず、おれのことを見あげている。


「ちゃんと、泣けよ」
 階段を一段おり、座っている浩介の前に回りこむ。手をさしだし、頭を引き寄せると、浩介がおれの胸に顔をおしつけた。

「渋谷……っ」

 絞り出すような浩介の声。

「おれ、悔しい……っ」

 浩介……

「わかってる。わかってるから」
「渋谷……っ」

 小さな子供のようにしゃくりあげながら泣く浩介の頭を抱え、そのやわらかい髪に頬をおしつけ、力いっぱい抱きしめた。おれの腰に回された浩介の腕の力が強すぎて痛いけれど、それでも構わなかった。

 おれ達はそうやって長い間、抱きあったままジッとしていた。夕焼けが胸に沁みるほどキレイだった。



------------------------


お読みくださりありがとうございました!
まだ自覚ナシの二人。まだ高校一年生。ゆっくりゆっくり近づいていきます。

そんなお話にも関わらず、クリックしてくださった方々、本当に本当にありがとうございます!!
あいかわらず地味なお話で、何も大きな事件は起こりませんが、お見守りいただけますと幸いです。
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BL小説・風のゆくえには~遭逢9-1(慶視点)

2015年12月09日 07時21分53秒 | BL小説・風のゆくえには~ 遭逢

 期末テストの翌日、バスケ部では、夏季大会のレギュラー決めのための紅白試合が行われた。
 三年生は、インターハイ予選敗退の時点で引退となったので、今回からは1、2年生のみとなる。2年生の部員数が少ないため、1年生でも選ばれる可能性はかなり高い。というか、ベンチメンバーまでに入れない部員の方が少ないくらいだ。

 紅白戦でそれなりにアピールできれば、浩介にだって可能性がないわけじゃない。

 と、思ったのに。

 不運なことに、浩介は、よりにもよって上岡武史と同じチームになってしまった。最悪だ……。


(よりにもよって、武史と……)

 中学時代の嫌な記憶が甦ってくる。

 武史とは中学の部活で知り合った。武史は今でこそ背も高くなり横にも大きくなったけれど、中学1年から2年の途中まではおれとたいして変わらない背格好をしていたため、先輩方や顧問の先生によく比較されていた。それなのに、おれがスタメン起用されることが多かったせいか、一方的に敵愾心を持たれて、練習中わざとぶつかってきたり足をひっかけてきたり、地味な嫌がらせを散々された。殴り合いの喧嘩になったことも数えきれないくらいある。

(ああ、やっぱり……。武史のやつ変わんねえな……)

 試合を見ながらため息をついてしまう。
 武史の強引なキャラにチームメートが引っ張られ、武史を中心に試合が進んでいく。奴は確かに上手い。目を引くプレーをする。中学の時から変わらない。

 このままだと他のメンバーは何の見せ場もなく終わってしまう……と思っていたけれど、試合が進むにつれ、浩介が相手チームのパスをカットする回数が増えてきた。浩介は頭の回転が早いので、相手チームのパスの癖を見抜きはじめたのだろう。心の中で「よしよし!」と何度も肯いてしまう。

 試合の最後には、特訓の甲斐あっての綺麗なフォームでシュートを決めることもでき、試合には負けたものの、わりと良いアピールにはなったと思う。

 おれは、女子バスケ部を中心としたギャラリーの横でコッソリ観戦していたのだけれど、浩介はシッカリおれがいる位置を把握していたようで、シュートが決まった瞬間、パッとおれの方をみて、小さくピースサインをしてみせた。

「……バーカ」

 試合中だぞ。よそ見すんな。

 そう思いながらも、笑顔の浩介につられて笑ってしまう。
 無事にシュートが決まって嬉しい。人のことでこんなに嬉しいと思ったことは生まれて初めてだ。



 浩介達の試合のあと、一回休憩となった。

「………あ」

 こちらに来ようとした浩介を武史が呼び止めている。嫌な予感がする……
 武史は浩介に一言二言何か言うと、固まった浩介を置いてこちらに向かって歩いてきた。

「よう、渋谷」

 ニヤリとして見下ろしてくる武史。
 くそー……出会った時は目線同じだったのに、今では見上げなくてはならない屈辱……

「お前、あいつにバスケ教えてるんだって?」
「………」

 武史のアゴが浩介の方をさす。浩介、端っこにしゃがみこんでバッシュの紐を結び直している……

「そのわりには上手くなんねえな、あいつ」
「………。まだはじめたばかりだ。これから伸びる」
「無理だろ。どうしようもねえよ、あいつ」
「…………」

 バカは相手にしてらんねえ。
 横を通り過ぎようとしたところ、腕を掴まれた。

「……んだよっ」
「あんなやつに教えててもしょうがねえんじゃねえか?」
「ああ?」

 見上げると、武史の真剣な顔がそこにはあった。

「それより、お前が戻ってこいよ。足、もう大丈夫なんだろ?」
「……うるせえよっ」

 腕を思いきり振り払う。

「戻る気はない。戻るとしても、お前のチームメートになるのだけは真っ平ごめんだ。ばーか」
「渋谷……っ」

 何か言いかけた武史を置いて、浩介の元に急ぐ。様子が、変だ。さっきからずっと紐を結び直している……

「おい……」
「あ、渋谷」

 座ったままこちらを見上げ、ニコリ、と笑う浩介。そのニコリ、が妙にウソっぽくてイラッとする。いつもおれに見せる笑顔じゃない!

「お前、武史に何か言われたのか?」
「え」

 浩介が笑顔のまま固まる。そしてふいっと視線をそらした。

「何も……言われてないよ」
「…………」

 そして、また紐をいじりはじめた。お前は何回紐を結び直したら気がすむんだ!

「うそつくなっ」
「………っ」

 頭を掴んで無理矢理こちらを向かせる。驚きで瞠った目に真っ直ぐ視線を送る。

「何を、言われた?」
「………」

 また、視線をそらした浩介。それは無言の肯定だ。頭を軽く揺さぶってやる。

「こっち見ろ。目みて話せ」
「………」

 浩介は困ったように口を引き結んだが、おれがしつこく睨みつけたら、やっと口を開いた。

「……へたくそって」
「……それだけか?」
「………」

 浩介は再び黙ってしまった。

「おい」
「…………うん」
 促すと、浩介は観念したように大きく瞬きをして、ようやく続けた。

「……練習しても無駄だって。渋谷の迷惑になるだけだって……」
「………んだとっ」

 武史……っ

 腸煮えくり返って立ち上がったけれど、浩介に腕を掴まれ、また座ってしまう。思いの外、強い力で掴んでくる浩介にカッとなる。

「おい、離せ。あいつ一回殴らないと気が済まないっ」
「やめてよ」

 浩介が激しく首を振って言う。

「いいの。本当のことだから」
「何が……っ」
「おれ、渋谷の迷惑になってるだけだし。みんなより全然下手くそだし」
「アホかっ」

 ああああああもう、イライラする!!

「何も迷惑になってない。おれがやりたくてやってることだ」
「でも」
「でもじゃない! だいたいお前は確実にうまくなってきてる。今日だってきちんと基本通りのシュートができてた。パスカットの精度も上がってた」
「でも……」
「だから、でも、じゃない!」

 いらだちのまま、ぐりぐりと浩介の眉間に人差し指を押しつける。

「お前はまだはじめたばっかりだろ。中学からやってるやつらと比べてもしょうがねえだろっ。まわりと比べるな。昨日の自分と比べろ。昨日のお前より今日のお前のほうが確実に上手くなってる。今日のお前より明日のお前の方が上手いに決まってる。自分を信じろっ」
「…………渋谷」

 呆然とした表情の浩介。

 ああああああもうイライラするイライラする!!

「おれ、帰ってるからなっ。今日このあとまだ練習あんだろ? そのあと発表か?」
「う……うん。たぶん……」
「帰り、うち来い。いいな?」

 返事はきかず、ダメ押しでもう一回眉間に人差し指を突き刺してから立ち上がる。

「しぶ……」
「渋谷」

 背後から聞こえてきた声に「あああ?」と「あ」に濁点つけて振り返る。
 そこには諸悪の根源の武史の姿が。

 もう、我慢できない。

「お前、こいつに余計なこと言うなよっ」
「別にホントのことだ……」
「んだとコラ」

 頭に血がのぼったまま、武史の胸倉を掴んだところで、ピーーーっとホイッスルがなった。休憩終了だ。

「あ………」
 女子バスケ部の子たちがこちらを心配そうに見ていることに気がついた。しまったな……。ぱっと手を離し、浩介を振り返る。浩介、困ったような顔してる…

「………じゃあ、後でな」
「うん……」
「しぶ……」

 何か言いかけた武史をもう一度睨みつけてから、出口に向かう。


 ああ、ムカつくムカつく!!
 人のことでこんなにムカついたのは生まれて初めてだ。





------------------------

お読みくださりありがとうございました!
慶さん、人のことで喜んだり怒ったり、忙しいです^^;
次回も慶視点。レギュラー決めの結果がどうなったのか……のお話です。

クリックしてくださった方々、ほんっとーに!ありがとうございます!!
全然イチャイチャもしない普通の高校生のお話なのに、BLと言っていいんだろうか、と悩むところなのですが、こうしてクリックしてくださる方がいらっしゃることに勇気づけられ更新続けております。ありがとうございます!
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BL小説・風のゆくえには~遭逢8(浩介視点)

2015年12月08日 07時22分33秒 | BL小説・風のゆくえには~ 遭逢


 渋谷慶という人は、中性的でとても綺麗な顔をしている。

 5月の連休明けに初めて話しをしてから数週間、しょっちゅう会っているからそろそろ慣れてきてもいいはずなのに、時々そのあまりもの綺麗さに、ぎょっとしてしまう時がある。
 「美人は三日で飽きる」って言葉があるけれど(渋谷は男なので美人というのは語弊があるが)、あれはウソだ。ここまでの美形だと、飽きるどころか慣れるのにも時間がかかる。

 そんな容姿とは裏腹に、渋谷はものすごく男らしい。一刀両断。竹を割ったような性格、という感じ。それでいて気さくで人懐っこくて、誰とでも分け隔てなく話をするから、友達も多い。

 だから、おれは勘違いしてはいけない、と自分に言い聞かせている。
 おれなんて、数多くいる渋谷の友達のうちの一人でしかない。だから渋谷の特別なんかではない。こんな人の特別なんかになれるはずがない……



 衣替えも完全に終わった6月の2週目のこと。

「……あ」
「おお!」

 地理の先生に頼まれて、両手いっぱい世界地図の筒を持って階段をのぼっていたところで、渋谷と出くわした。あいかわらずのキラキラした笑顔でおれに手を振ってくれる。

「すっげー荷物だな。大丈夫か?」
「……うん」

 普段は使っている階段が違うから滅多に会えないのに、こうして偶然に会えると余計に嬉しい。
 渋谷は気軽な感じにトントントンっとおれのほうに下りてくると、

「手伝ってやるよ」
「え」
「悪い、先行ってて! これよろしく!」

 一緒にいた友達2人に言い、持っていた教科書と筆箱をそのうちの一人に押しつけると、おれの腕の中からこぼれそうな筒を数本取ってくれた。

「北野センセー、遅刻うるせーから遅れんなよ」
「もし遅れたら便所って言っといて」
「大って言っとく」
「やめれっ」

 あはは、と笑って「行くぞ」とおれに言って先に歩きだす。
 その後ろ姿に着いていきながら思う。

(勘違いしちゃいけない)

 渋谷は誰にでも優しい。おれだけ特別なわけじゃない。
 渋谷は友達が多い。おれはそのうちの一人でしかない。

 でも、それでいい。それで充分だ。

(友達を独占しようとしてはいけない……)

 本に書いてあった言葉を心の中で繰り返す。

 だから、渋谷。おれと友達でいて。友達の一人、でいいから友達でいて……


「地理、誰先生? うちのクラス、杉井」
「あ、えと、迫田先生、だよ」
「迫田って……あのイカツイ顔した恐そうなおっさんか。こわい?」
「ううん。そうでもない」

 渋谷の声は心地よい。心の中にスーッと入ってきて中をキレイにしてくれる感じがする。このままずっと聞いていたい……と、思ったのに。

「あー渋谷君!」
「渋谷君だー」

 不協和音。クラスの女子たちだ。

「おお。いいところで会った。はい、持ってって」

 渋谷が、ほらほら、と自分の持っていた筒をその女子たちに渡して、おれの手元からもまた数本とって、持っていなかった女子にも渡した。渋谷、いつの間にうちのクラスの女子達とも仲良かったんだ……。

「じゃ。おれこれから化学実験室だから」
「あ……うん。ありがと」

 肯くと、渋谷は、いやいやと言いかけてから、あ、そうだ、と手を打った。

「お前、今日うち寄れる?」
「え、う、うん」
「昨日姉貴が買ってきたすっげー美味いクッキーがあんだよ。お前絶対好きだから食べにこい」
「あ……うん」
「じゃー待ってるからなー」

 渋谷は爽やかな笑顔を残して、颯爽と階段を駆け下りていってしまった。

「渋谷君、あいかわらずカッコいいよね~」
 女子の一人がホウッとため息をつくと、他の2人もうんうんと激しく肯いた。

「桜井君、仲良いんだ?」
「え……あ……」
「うちにまで遊びに行くなんて相当仲良しじゃん。いいな~」

 相当仲良し……そうなのかな。そうなのかな……

 でも、勘違いしちゃいけない。
 渋谷は友達が多い。おれだけじゃない。勘違いしちゃいけない。
 おれは友達の1人で充分。それで満足だ。


 そう、思ってたのに。


 6月23日土曜日。

 急に部活がなくなったので、渋谷がまだ教室にいることを期待して行ってみたら、渋谷と女の子2人が何か話しているところに出くわした。片方の子は泣いているようだった。

 なんだったんだろう……。帰り道、我慢できなくて聞いてみたら、渋谷に何でもないことのように言われた。

「今日誕生日なんだってさ。それでみんなで飯食いにいくから一緒に、とか言われたけど、断った」
「断った……」

 驚いた。そっちを断って、おれと遊ぶことにしてくれたんだ。

 先に嬉しい、という気持ちでいっぱいになって……それから怖くなった。

(勘違いするな。勘違いするな)

 おれは特別じゃない。期待しちゃいけない。

 確かに最近、本当にしょっちゅう一緒に過ごしてるけど、でも、渋谷にはおれの他にも友達がたくさんいる。
 だからそのうちおれも、おれとの約束より他の友達との約束を優先される時がくる。
 そんなことは分かってる。分かってる……だから。 

「おれ、別によかったのに」
 思わず、本心とは別の言葉がスルリと口から滑り出た。

「渋谷、誕生日会の方に行けばよかったのに」
 これは自己防衛。傷つけられる前に自分を守るために自分につく嘘。


 自転車をこぐ音がやけに大きく聞こえてくる。
 そんな中に、渋谷の気配がする。渋谷……何考えてるんだろう。何も話してくれない……

(勘違いしちゃいけない。……けど)

 泣いてた女の子……あの子よりも、おれを選んでくれた。
 今日、渋谷がおれを選んでくれた、というのは事実としてここにあるわけで……

(……だから今はそれでいいじゃないか)

 ふっとそんなことを思って、自転車をこぐのをやめた。
 急に止まった衝撃でごんっと渋谷の頭がおれの背中にあたる。ぬくもりが伝わってくる。そうだ。今あるこのぬくもりは現実なんだから、それでいいじゃないか……

「とか言っちゃって」
 声が震える。こわくて渋谷の顔は見れなくて、前を向いたままだけど……
 おれの本当の気持ち、言ってもいいかな……

「とか言って、おれ喜んでんの」
「え」

 きょとんと聞き返してきた渋谷に小さく告げる。

「よかった。渋谷がそっちにいかないでくれて」

 そう、これが本心。

「うれしかった。渋谷がおれの方にきてくれて」

 言ったら、なんか、すっとした。

 渋谷に何か言われる前に、再び走りだす。すると、少したってから、渋谷の頭がこつん、とおれの背中に預けられた。

(……渋谷)

 このぬくもりは現実。渋谷がおれを選んでくれたという現実……

 だから、今だけでも勘違いさせて。おれは渋谷の特別な友達だって思わせて。

 渋谷。渋谷……おれの大切な、唯一の友達。





------------------------

お読みくださりありがとうございました!

なんか浩介、超鬱陶しいですね……スミマセン。
このお話は前回の「遭逢7」の対になっています。

クリックしてくださった方々、本当に本当にありがとうございます!!
毎日パソコンの画面に向かって拝んでおります。
なんか今回もものすごい地味でしたが、次回もきっと地味です^^;
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BL小説・風のゆくえには~遭逢7(慶視点)

2015年12月07日 07時19分53秒 | BL小説・風のゆくえには~ 遭逢

 連休明けの木曜日にはじめて話しをして、友達になったおれと浩介。
 来週もバスケの練習しよう、なんて約束したけど、考えてみたらその翌週火曜日から中間テストなので、テスト一週間前は部活停止で体育館も使用不可だった。

 と、いうことで。

 中間テスト前の一週間、部活が休みの浩介は、毎日うちに寄ってくれた。

 おかげで、高校生活初めての中間テストは予想よりもずいぶん良い点数がとれた。それもこれも浩介大先生のおかげだ。
 苦手の古典と、それに英語も教えてもらえて、他の教科も一緒に勉強することで、その勉強方法を真似することができて……。

 でも、おれと一緒に勉強しても、教えてばっかりで、勉強の邪魔になってるんじゃないか?と聞いたところ、

「教えることで消化できるし、一人で勉強してると煮詰まるから」

 ニッコリいう浩介。そして、

「何より、渋谷とこうして一緒に勉強してると思うと、嬉しすぎてめちゃめちゃはかどる」

と、また恥ずかし気もなく、おかしなことを言っていた。ホント変な奴だ。


 浩介は自分の成績を言いたがらないから、中間の結果がどうだったのかは知らない。

 浩介と同じクラスの荻野の情報によると、浩介は入学直後の実力テスト、英語は満点で学年1位、国語系・社会系もほぼ満点。理数系は少し落ちて、それでも、総合順位は学年8位だったらしい(荻野の奴、無理矢理奪って見たそうだ)から、そうとう出来る奴なんだ。

 でも、せっかくこんなに頭いいのに、それを隠そうとしている。
 はじめに古典のノートを見せてくれた時も「同級生に教えるのは失礼になる」とか、おかしなことを言っていた。おそらく過去に成績が良いことで誰かに何か言われたことがあるんだろう。
 そんなの言った奴の僻みでしかないんだから、気にすることないのにな……。

 一方、おれが教えているバスケの方は、まあ、だいぶマシにはなってきた、というところだ。

 テスト勉強の合間にも近所の公園で練習してみたんだけど、とにかくボールの扱いと体の動きがぎこちないのが難点。でも、奴の強みは、足腰の強さと頭の回転の速さだ。聞いたら小さい頃からかなり遠距離まで自転車で行っていたらしいので、それで足腰は強くなったのかもしれない。

 部活のない木曜日は体育館で練習して、部活のある日も時々帰りにうちに来て公園で練習したり、一緒に勉強したり………

 この1ヶ月ちょっとの間に、浩介とおれはすごく仲良くなったと思う。

 なぜだかわからないけれども、浩介と過ごす時間はとても心地がよい。気持ちが少しふわふわする。

 同じクラスで今一番仲がいい安倍康彦、通称ヤスとは、昔からの知り合いみたいに気兼ねなく付き合えているけれど、こんな風にフワフワにはならない。他の友達でもこんなこと一度もない。

 出会いも特殊だったし、おれの中で浩介の存在はちょっと別格だ。校内で偶然会えたりすると妙に嬉しくて、手を振ったりしてしまうし……。

 たぶん、浩介の方でもそう思ってくれてるはずだ。何しろ奴はおれのファンだったというくらいだし。

 おれ達はこのままならきっと、親友にだってなれる気がする。
 

 6月23日土曜日。

 浩介は今日までは部活がある。来週からは期末テスト前一週間でまた部活停止になるので、中間テストの時のように毎日おれのうちで勉強しよう、と約束している。
 テストは嫌だけど毎日一緒に勉強できるのは嬉しい。……って、おれ、どんだけ浩介と一緒にいたいんだよって自分でも呆れてしまう。でも、そのくらい、浩介の隣は居心地がいい。


「渋谷君、ちょっといい?」

 帰ろうとしていたところを、同じクラスの枝村さんから声をかけられた。
 枝村さん……ちょっと苦手。おれよりも縦にも横にも大きいバレー部の女子だ。クラスでも発言力があり、押しも強い。

 その後ろに隠れるように、石川さんがうつむきがちに立っていた。枝村さんが大柄だから、余計に石川さんが華奢に見える。

「今日、直子誕生日なの」
「え」

 枝村さんのセリフに一瞬つまる。
 直子って誰だっけ? ……ああ、石川さんのことか。石川直子。
 思い当たって、すぐに石川さんに視線を向ける。

「そうなんだ。おめでとう」
「あ……ありがとう」

 赤くなりながら石川さんが言う。そのはにかんだ笑顔は確かに可愛い。これで身長が低ければ、かなりいい線いってるんだけどなあ。でも、身長に関してだけは絶対譲れないから、無理。それにヤスが石川さんのこと好きみたいだから、その点からも無理。友達と女をめぐって揉めるなんて真っ平ごめんだ。

「それで、これからみんなでお昼御飯食べに行くから、渋谷君もきて」
「…………」

 枝村さんのいつもながらの強引な物言いに閉口してしまう。

 そういえば前にヤスが変なこと言ってたな……
 石川さんがおれのことを気にしてるから、おれに好きな人がいるか調べてほしいと枝村さんに言われたとかなんとか……

 枝村さんの後ろで恥ずかしそうにおれを見ている石川さん……。
 確かにおれのこと『気にしてる』感じではある。だったら余計に変な気を持たせないほうがいいだろう。

「ごめん、おれはちょっと……」
「用事でもあるの?」
「あーうん。あの……」

 枝村さんに詰め寄られて、どう答えたもんかと思っていたところに、ふと視線を感じてドアに目をやった。浩介が遠慮がちに立ってこちらを見ている。

 あれ? 部活は?

「ちょっとごめん」
 枝村さんの横をすり抜け、浩介の元に向かう。予定外に会えるとなんだか余計に嬉しい。

「渋谷」
「………」
 やっぱり浩介の醸し出す空気に包まれると、ふわふわする。

「どうした?」
 見上げて言うと、浩介がニコニコと、

「上野と三田が急な外出で部活なくなったの」
 上野がバスケ部顧問、三田が副顧問の先生だ。顧問の先生が校内にいないと部活動はできないことになっている。

「それでもし今日渋谷空いてたら……と思って」
「おお。空いてる空いてる」

 やった! 浩介と遊べる!

「カバン取ってくるからちょっと待ってろ」
「うん」

 教室に戻ったところで、枝村さんと石川さんが視界に入り、「あ」と思う。すっかり忘れてた。

「あの……ごめん。おれ、行けないから……」
「なんでよっ。せっかくの誕生日なのに……」
「洋子ちゃん、いいから」

 怒る枝村さんを、石川さんがあわてたように止めた。

「でも、直子………」
「いいの。いいんだって」

 石川さんにブンブン首を振られ、さすがの枝村さんもあきらめたように体の力を抜いた。

「ごめんね、渋谷君。気にしないで」

 石川さんが可憐に微笑みながら言う。
 なんかちょっと悪い気もしてきた。せっかくの誕生日なのに……

「ごめんね」
 両手を合わせて、石川さんに頭を下げる。

「楽しんできてね? 誕生日、ホントおめでとう」
 精一杯優しく言うと……

「え」
「直子っ」

 ポロポロポロっと石川さんの瞳から涙が流れ落ちた。なんでっ

「ちょっと、直子……っ」
「ありがと……渋谷君。洋子ちゃん、行こ……」
「直子……っ」

 泣いたまま、石川さんが枝村さんを引っ張って出ていってしまった。

「………なんなんだ」
 女子の考えてることは、ホントわからん……。



 いつものように、浩介の自転車で2人乗りをして帰る帰り道。
 なぜか浩介は沈みがちで、言葉数も少ない……

「なあ……」
「あの……」

 川べりにでたところで、同時に口を開いてしまい、「どうぞ」「お前先に言えよ」の応酬のあと、浩介がポツリと言った。

「さっきの女の子たちと何話してたの?」
「ああ、あれな」

 ちょっと肩をすくめて答える。

「今日誕生日なんだってさ。それでみんなで飯食いにいくから一緒に、とか言われたけど、断った」
「ふーん……」

 暑い日差しの下、自転車をこぐ音がやけに耳に響いてくる。

 しばらくの沈黙の後、浩介がポツリといった。

「おれ、別に良かったのに」
「……え?」

 なんだって?

「おれ、別によかったのに。渋谷、誕生日会の方に行けばよかったのに」
「……………」

 なんだよ……それ……

 胸のあたりがぐっと押されたように痛くなってきた。

 浩介は無言のまま自転車をこぎ続けている。
 そのシャッシャッという規則的な音に追い詰められていく。

『誕生日会の方に行けばよかったのに』

 なんだよ、それ。なんだよ、それ……

 おれはお前と一緒にいたいと思ってるけど、お前はおれのこと、そんな風には思ってないってことか。
 今日もただの暇つぶしに声かけてきただけってことか。別に断ってもよかったって……

(くそー………)

 なんでおれ、こんなにショック受けてんだ?

 浩介もおれと同じ気持ちでいてくれると思ってたのに違ったからか……
 そんなのおれの独りよがりで迷惑な話だよな……

 でも、おれは。おれは………

 胸がくるしい……

 胸を押さえて大きく息を吸ったところで、いきなり自転車がとまり、ごんっと浩介の背中に頭がぶつかってしまった。

「なに……」
「とか言っちゃって」
「え?」

 浩介がポツリ、と言った。

「とか言って、おれ喜んでんの」
「……え」

 浩介、前を向いたままだからどんな顔してるのか分からない。分からないけど……

「よかった。渋谷がそっちにいかないでくれて」
「………」

 小さい小さいつぶやき。

「うれしかった。渋谷がおれの方にきてくれて」
「…………」

 再び動き出す自転車。

(なんだよ、それ……)

 再び聞こえだす、規則的な自転車をこぐ音。

(なんだよ、それ……)

 コツンと浩介の背中におでこをあてる。伝わってくる体温。

(何泣きそうになってんだよ、おれ……)

 おれは最近、浩介の言動一つ一つに揺り動かされている……。



------------------------

お読みくださりありがとうございました!

作中は、1990年。
土曜日も学校だし、自転車二人乗りも今ほど規制されていなかった時代です。携帯電話ももちろんありません。

まだまだお友達時代の話が続きます。

クリックしてくださった方々、本当に本当にありがとうございます!!
めちゃめちゃ嬉しいです。こんな地味な話に……ホントすみません……
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BL小説・風のゆくえには~遭逢6(浩介視点)

2015年12月05日 07時17分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 遭逢

 渋谷がおれのことを『友達』って言ってくれた。

 おれにバスケを教えてくれるって。おれに勉強教えてほしいって。
 おれ、渋谷の『友達』なんだって。

 友達……友達。心が温かい……。



 おれは、小学校と中学校は都内の私立校に通っていた。
 小学校入学早々からはじまったイジメは年々陰湿になっていき、中学一年の途中からは、教室に入れなくなって、保健室登校をするようになった。
 中学二年からは、それすらも難しくなった。登下校に待ち伏せされて嫌がらせをされるからだ。
 それでも学校を退学にならなかったのは、両親の学校側に対する圧力と、おれの成績が良かったおかげだろう。

 心機一転、地元の高校に進学して、3年ぶりに教室という空間にいるようになったわけだけれども……やっぱり、慣れない。
 クラスメートと会話しても、何かこう、上滑っているような感じになってしまう。特に休み時間は教室に居場所がなくて、つい図書室に逃げ込んでしまっている。図書室がわりと近い教室で良かった……。


 いつものように昼休みに図書室にいって、予令の直後に戻ってきたところ、教室の中から大きな声が聞こえてきて、思わずドアの前で立ち止まった。

「今日、日直だれー?」
「えーと、桜井君」
「さくらいー? ……って誰だっけ?」

 この声はクラスでもわりと目立つ存在の宇野君。確かハンドボール部の男子。

「えーいるじゃん。ほら、わりと背の高い、真面目そうな……」
「あーあいつな。なんかちょっと何考えてんのかわかんなくて怖いやつな」
「えーいつもニコニコ愛想いいじゃん」
「そのニコニコがウソっぽくて怖いんだろ」

(…………)
 気がつく人は気がつくんだな……おれのニコニコがウソだって。
 とにかく、嫌われないためには笑顔でいろ、と本に書いてあった。だからなるべくいつも笑顔でいる。もう、中学の時みたいに学校に来られなくなるのは嫌なんだ。誰もおれのことなんか覚えなくていいから。殴られたりするよりそっちのほうがずっとマシだから。だからなるべく目立たないように陰でひっそりニコニコしてやりすごして……

(………あ)
 まただ。すっとブラウン管の中に放りこまれた。世界が色褪せていく。自分と外界との間に壁ができて、現実味がなくなってくる。おれがここに存在してるのかどうかもわからなくなってくる……。

(渋谷)
 約一年前からの癖。こうなった時、いつも胸に手をあてて渋谷のことを思い浮かべる。

 あのバスケットコートでの眩しい光……この世界の中で唯一の……


 すうっと、記憶の中の渋谷がおれの中に現れそうになった、その時。 

「え? わあっ」

 突然、膝が後ろからの衝撃でガクンっとなり、倒れそうになって扉に掴まった。

 な、なに……!?

 振り返ると……渋谷が。本物の渋谷がケタケタ笑っている……

(……あ)
 渋谷が現れた途端、おれを覆っていたブラウン管はなくなってしまった。すごい。やっぱり渋谷はおれの光だ。先週の木曜日に体育館で会って、翌日図書室で会って……、今日は火曜日。4日ぶりに見る渋谷。キラキラしてる。

「……渋谷」
「ここまで見事に決まった膝かっくんは初めてだっ。おもしれー」

 渋谷、まだ笑ってる。

 膝かっくん? 何それ? 今の膝後ろからするやつのこと?

 ハテナ? でいっぱいのおれを置いて、渋谷はおれの腕をバシバシ叩くと、

「5、6時間目、英語ある? なかったら辞書かしてくれ。持ってるか?」
「あ、うん、あるよ。いいよ」

 辞書かして、だって。すごい。友達みたい。なんか……嬉しい。


 一緒に教室の中に入っていくと、キャアッて声が上がった。

「渋谷くーんっ久しぶりーっ」

 さっき、おれのこと「ニコニコ愛想いい」って言ってくれた子だ。自己紹介の時の出身中学名が渋谷と同じだったけど、渋谷、知り合いだったんだ。

「おお。荻野じゃん。お前もこのクラスだったんだ」
「どしたのどしたのー?」
「辞書忘れたから借りにきた」

 渋谷はおれの机までついてきながら、「あ、そういえばさ」と手を打った。

「お前、今日から部活休みじゃね? 中間一週間前だから」
「あ、うん」
「古典で聞きたいとこあんだけど、今日ちょっとだけうち寄れないか?」
「行く行く!」

 わあ。またうちに誘われた!

「あ、でも、今日の朝、雨だったから自転車じゃないのか」
「ううん。カッパ着て自転車できたよ。だから帰り……」
「おー。2ケツよろしく~」

 わあ。わあ。わあ。嬉しすぎる!
 ウキウキしていたら、荻野さんが「へえ~」と声をあげた。

「渋谷君と桜井君って友達だったの?」
「そうだよ」
「!」

 あっさりと肯いてくれる渋谷。

 友達。友達だって。うわあ……

「なに繋がり? あ、そうかバスケか。桜井君、バスケ部だもんね?」
「そうそう」
「渋谷君も入ればいいのに。上岡君もいるよ?」

 途端にムッとした顔になった渋谷。 

「嫌味か。だから入りたくないっつーの」
「あ、そうだった。ごめんごめん」

 ハハハと笑う荻野さんに手を振って教室を出て行く渋谷。おれも見送るために一緒についていく。

「上岡って……」
「上岡武史。同じ中学だったんだよ」
「あ……うん」

 それは知っていたけど……

「すげー仲悪くていっつも喧嘩してたからさ。あいつがいるっていうのも、バスケ部入らなかった大きな理由だったりする」
「え……そうなんだ」

 渋谷はくるりとこちらをむくと、ビシッと人差し指をおれの胸に突き刺した。

「お前、もし、あいつになんか嫌なことされたらおれに言え? ぶっ飛ばしてやるから」
「え………」

 上岡武史っておれと同じくらい身長あって、体重は1.5倍はあるやつで……
 その上岡を、ぶっ飛ばす?

 いや……渋谷ならやりかねない気がする。だって、この目。この目には誰もかなわないよ……

「う……うん、ありがと」
「じゃ、これサンキューな。帰り、昇降口でいいか?」
「うん!」

 帰りも、また会える。一緒に帰れる。うちに遊びにいける。
 おれが嫌なことされたら、ぶっ飛ばしてくれるって。

「じゃあまた後で」

 また、後で。

 渋谷の後ろ姿を見送りながら、渋谷が突き刺してくれた胸をぎゅううっと抑える。
 心が温まって、幸せな気持ちでいっぱいになった。




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お読みくださりありがとうございました!

こんな普通の話でいいんだろうか……と自問自答しつつ……
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