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(BL小説)風のゆくえには~幸せな誕生日(前編)

2016年09月11日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切


昨日、9月10日(土)は「風のゆくえには」の【主役その2】の桜井浩介の誕生日!
現在、「風のゆくえには」スピンオフ、男女カプの「たずさえて」を連載中ですが、今日はお休みして。
せっかくなので、渋谷慶&桜井浩介バカップルが昨日一昨日どのように過ごしたかを書きとめようと思います。


--------


【慶視点】


「渋谷先生、明日午後からお休みなんですよね? 珍しい……」
「あーごめんね」

 金曜日の帰り際、看護師の谷口さんに声をかけられて手を合わせる。明日も午後から休むくせに、今日も早々に帰ろうとしているので、申し訳なさでいっぱいだ。

「何かご予定が?」
「あーうん……まあ……」

 明日は浩介の誕生日なのだ。
 明日の夜は浩介の実家に行く約束をしているので、今晩は二人で前夜祝いをすることになっている。

 でも、あいかわらず、プレゼントの用意ができていない……。
 何が欲しいか聞いてもアホな答えしか返ってこないので、結局用意することができなくて……。今年のおれの誕生日には高価なもの(リーディンググラス……、老眼鏡だ)をもらったので、今年こそは何かプレゼントしたいと思っているんだけど……

「あのさ、谷口さんって、今までもらった誕生日プレゼントの中で一番嬉しかったものって、なに?」
「え……、もしかして明日、彼氏さんのお誕生日なんですか?」
「………」

 あっさり当てられてしまって苦笑する。いつもながら鋭い。
 谷口さんは「あ、すみません」と笑ってから、うーん……と唸りだした。

「もらって嬉しかったもの……。やっぱり指輪ですかね」
「……だよね」

 女性に聞くのが間違っていた……。
 谷口さんは引き続き、うーん、と唸っていたけれど「あ!」と叫んで手を叩いた。

「プリクラ!」
「え」

 プリクラ?

 首をかしげると、谷口さんはうんうん肯き、

「中学の時に付き合ってた彼が、すっごい照れ屋さんで、写真とか絶対写ってくれない人だったんですけど、誕生日の時に一回だけ一緒に撮ってくれたんです。それがすっごく嬉しかった」
「へええ………」

 当たり前だけど、中学の時からプリクラあったんだ……と、時代を感じる……って、20近く違うんだから当然だけど。

「この歳でプリクラは無理だなあ……」
「じゃあ、ツーショット写真は? 渋谷先生、撮らなそうなイメージありますけど」
「うん。正解。全然ないよ」

 前に、写真屋で撮ったものをのぞけば、普通に二人きりでまともに写っている写真なんて、高校卒業時のものしかない気がする。一年くらい前に携帯で撮ったのも、二人とも視線ずれてるやつだし……

「じゃあ、きっと喜ばれますよ」
「でも、どうやって? 誰かに頼むってこと?」

 それはそれでハードル高い………

「あー、じゃあ……、明日ってどこに行くか決めてあります?」
「いや……でも、夜、実家帰るから横浜近辺とは思ってたんだけど」
「あ、じゃ、ちょうどいいかも。渋谷先生達、甘いもの大丈夫でしたよね? こんなのどうです?」

 携帯の画面を見せてくれた谷口さん。彼氏と思われる優しそうな男性と、山盛りクリームのパンケーキと一緒に笑顔で写っている。

「お店の人の方から『撮りますよ』って声かけてくれたんです」
「へえ……おいしそう……」

 写真を撮りたくなる山盛り具合だ……

「場所どこ?」
「あちこち支店あるんですけど、私が行ったのは……」

 谷口さんの話を聞きながら、彼女の携帯の写真をあらためて見る。幸せそうな笑顔……。

(浩介も、こんな風に笑ってくれるかな……)

 一刻も早く浩介に会いたくなってきたおれは、相当おめでたいと自分でも思う。

 
**


 夜0時ぴったり。

「誕生日おめでとう」

 ソファーで並んで座っている浩介の耳にキスをすると、浩介は「うわああああ~」と言いながら、ギューッとおれに抱きついてきた。

「もう、幸せ過ぎて何をどうしたらいいのかわかんなーい」
「なんだそりゃ」

 もう、何回目の誕生日だろう? 1回目の16歳と2回目の17歳の時は、まだ友達だった。それから……何年? 毎年、色々なことがあって、一緒に過ごせない年もあって……。でも、今年ほど穏やかな誕生日は初めてじゃないだろうか。

「プレゼントなんだけど……」
「うん♪ いつものでお願いします」
「は?」

 いつものって何だ? ……って、あれか。

「いや、違くて」
「え!? くれないの!? そんなこと言わず……」
「あほか」

 下半身に伸ばしてきた手をピシッとはね飛ばす。

「今年はちゃんとプレゼントがある!」
「え…………」

 きょとんとした浩介の眉間に人差し指を突き立てる。

「でも、午後にならないと渡せない。午後まで待ってくれ」
「………………」

 固まってしまった浩介………

「浩介?」
 おーい、と目の前で手を振ると、

「慶………」
 ゆっくりと抱きしめられた。

「浩介?」
「………………」

 ぎゅううっと力が入っている。なんだ? わからないけれど、背中をポンポンと叩いてやる。

「どうした? 不満か?」
「不満じゃなくて……」

 ボソボソと耳元で声がする。

「…………不安」
「不安?」
「こんなこと初めてじゃん。今年はバレンタインもくれたし………」

 今年のバレンタインは26回目にして初めてチョコをプレゼントしたのだ。

 間近で瞳をのぞかれる。

「慶………無理してない?」
「………………」

 そうきたか………

「もしくは……」

 怒られると思うけど、と前置きをしてから、浩介は言いにくそうに言葉をついだ。

「何か、隠し事でもしてるの?」
「………………」

 そうくるか………

 今まで何もしてこなかったからなあ……

 うーん、と内心うなりながら、その愛しい頬を指で辿る。

「隠し事……してるかもな」
「え」

 不安に揺れた瞳にそっと口づける。

「隠し事っていうか……」

 唇に触れる。ああ……なんて愛しい……

 瞳を合わせて、愛しさを込めてささやく。

「お前のことがこんなにも好きだって、隠してた、かも?」
「え………」

 目をみはった浩介。

「だから、たまには形で表そうかと思ってな」
「慶………」 

 相手にきちんと気持ちを伝えることの大切さ。そんな当たり前のことに気づけたのは、たぶん、浩介との関係をカミングアウトしたことにより、まわりからあれこれ言われるようになったからだと思う。今までは誰にも言わず、自分たちの中だけで存在していたので、気づくことができなかった。


「浩介……」

 コツン、とおでこを合わせる。

「慶……好き?」
「ん」

 軽く唇を合わせる。

「好きだよ」
「…………」

 再び、おでこを合わせる。

「お前は? 好き?」
「ん」

 再び、唇を合わせる……

「大好き」
「ん……」

 キスを深いものにしながら、ソファーに埋もれていく。

(おれ、明日仕事なんだよなあ)

 頭をよぎってしまった現実をどうにか端の方に押しこんで。
 愛しい人の誕生日の夜は、甘い囁きに包まれていく……




------------


お読みくださりありがとうございました!
って、浩介視点も書き途中なのですが、書き終われなかったため、明日に持ち越します。
夜中の1時半から書きはじめ、今4時50分。時間かかり過ぎ……。
せめて2時間は寝たいので諦めました。
ということでまた明日!!よろしくお願いします!!

クリックしてくださった方、見に来てくださった方、本当にありがとうございます!
有り難すぎて泣けます…
よろしければ、また次回も宜しくお願いいたします!

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風のゆくえには~たずさえて26(菜美子視点)

2016年09月09日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~たずさえて

2016年4月26日(火)


 ヒロ兄の病院での仕事が終わり、病院を出たところで……

「山崎さん……」
「…………」

 道路の脇に、ポツン、と立っていた山崎さんが、私の姿に気がつき、ゆっくり、ゆっくりと頭をさげた。

 
 ちょうど一週間ぶりに見る山崎さん。少し、雰囲気が変わった……

(あ、髪型か)
 以前は眉にかかるくらいの前髪を横に流していたのに、今は少し短くなっていて、精悍……とまではいかないけれど、以前よりもキリッとした印象になっている。

「髪、切ったんですね」
「え、あ……はい」

 近づいていって言うと、山崎さんは緊張した表情のままコクリと肯いた。

「気合いを入れるために、切りました」
「気合いって」

 思わず笑ってしまう。山崎さんのこういうところホント面白い。中学生のようだ。

「何の気合いですか?」

 笑いながら問いかけると、山崎さんは真剣な目を、まっすぐにこちらに向けてきた。

「告白するための、気合いです」
「……っ」

 うわ……

 いきなりこんな直球投げてくるとは思いもしなくて、動揺してしまう。

「少し、お時間をいただけないでしょうか」
「え……あの」
「5分……いえ、3分……、あ、1分でもいいんです」
「………」

 なんだそれは。

「あの……」

 山崎さんの瞳に、今までにも時々現れていた深い光が見える。出会った日にも見た光……

 その中に、今までの色々なことが映し出されていく。

『自分の知らない場所………知っている人のいない場所』
 そう言った時の切ない瞳。

 ストーカーから咄嗟に庇ってくれた頼りがいのある背中。

 抱きしめることもできなくて真っ赤になった頬。

 ………ヒロ兄の代わりに抱いてくれた手。

『あなたのことが、好きです』
 そう真摯に告白してくれた。

 夜景の綺麗なレストランに連れて行ってくれた。大きな花束をくれた。

『朝まで……』
 手をギュッと握って言ってくれた。

 そして……

『あ、ごめんっ。卓也くん!』
『あいかわらずだなあ、アサミ……』

 甘ったるい女の声。笑っていた山崎さんの声…


「…………」

 ああ、やっぱりダメだ。

「あの、戸田さん」
「ごめんなさい」

 手で制して首を振る。

「1分も時間ないです。さよなら」
「え」

 ビックリした顔の山崎さんを置いて、くるりと方向転換し、病院の中にかけ戻った。


**


「無理無理無理無理無理っやっぱり無理っ」

 ブツブツいいながら自分の診療室に直行する。

 山崎さんに関わると、感情のコントロールができなくなるから本当に嫌だ。

 前に付き合っていた彼氏が浮気したときは、彼が他の女とどうこうしていたのが悲しいとか辛いとかではなく、ひたすら裏切られた怒りと、そんな男を選んだ後悔でいっぱいになった。

 でも、今回はどうだろう。

 一番の感情は、やはり「怒り」だ。とにかく腹が立ってしょうがない。でも、それと同じくらいの「悲しみ」が迫ってくる。彼の気持ちが私以外の人間に向いているということが、単純に悲しい……つらい。

『お前、ホントにあいつのこと好きなんだなあ』

 ヒロ兄の言葉を思いだす。

 ………。

 そんなことはない。ただ、山崎さんに好かれているということが心地よかっただけだ。だって、私の好きな人はヒロ兄で……ヒロ兄で……

『オレを逃げ場にすんな』

 ヒロ兄を好きでいることは、逃げていることになるのだろうか。
 でも、山崎さんと一緒にいると、どんどん自分が嫌な人間になっていく気がして……


 そうしてかなり長い間、診療室の椅子に座って、くるくると回っていたのだけれども。

「戸田、いるか?」
「!」

 コンコンコンというノックの音のあと、ヒロ兄が顔をのぞかせたので、びっくりして飛び上がってしまった。

「ヒ……、院長。どうかされたんですか?」
「どうかされたのはお前だろーが」

 頭をかきながら呆れたようにいうヒロ兄。

「お前、どんだけ逃げ足早いんだよ」
「え……」

 逃げ足?

「区役所君が院内ウロウロして警備員に捕まって……」
「えええ!?」

 山崎さん、追いかけてきてたんだ! 私は入ってすぐの階段をかけ上ってしまったので、見失ってしまったんだろう。

 もう、どこの科も診察は終了している。面会時間も過ぎているので、相当怪しまれたに違いない……

「で、オレのとこに連絡きたから、警備員室に迎えにいって………連れてきてやったぞ」
「……………あ」

 気まずい……という表情をした山崎さんが、ヒロ兄の後ろから入ってきた。いや、ほんと、気まずい……。

「山崎さん……」
「すみません、ご迷惑をおかけして……」

 ペコリ、ペコリ、と私とヒロ兄に頭を下げる山崎さん。

「でも、どうしても、伝え……」
「結構です。いりません!」

 思わず叫んでしまう。
 今のこの心理状況では何を聞いても素直に受けいれられるとは思えない。

「菜美子、お前なあ……」

 ヒロ兄の呆れたような声。

「話くらい聞いて……」
「聞きたくない!」
「菜美子」

 耳を塞いだけれど、あっさりとヒロ兄に手首を掴まれ離されてしまう。

「ちょっと離して……っ」
「区役所君、とりあえずさっきの話、して」
「あ……、はい」

 山崎さんは戸惑った表情をしつつ、ポツリ、と言った。

「あの………オレには名前を呼びつけにしている職場の女性はいません」
「だって……っ」
「さん付けやちゃん付けはいますけど……」
「……っ」

 ちゃん付け、いるのかよ!!

 あ、でも考えてみたら、樹理亜のことも「樹理ちゃん」って呼んでるんだった……

 ムッとしながら、確信を突く。

「じゃあ、アサミ、さん、は?」
「え」

 目をみはった山崎さん。ほら、やっぱり……

「卓也くん、アサミ、って呼び合ってたじゃないですか」
「それは………」

 グッと詰まった山崎さんに変わって、ヒロ兄がケロリと言う。

「元カノ、だってよ」
「は!?」

 元カノとまだ繋がってるってこと!?
 っていうか、なんでそんなことをヒロ兄が知ってる!?

「まあ、落ち着け。ほら、座れ」

 とん、と肩を上から押さえられ、イスに座らさせられる。

「区役所君、読みが当たったな」
「……………」

 苦い顔の山崎さん……

「さっき、名前呼びつけの話をしてやったら、お前にシカトされはじめた時期と、元カノに15年ぶりに偶然再会した時期が一致したから、もしかしてってさ」
「お祭り、来てくださってたんですね?」
「…………」

 腕捲りして働いてた山崎さん……元カノと15年ぶりに再会……してたんだ。

「彼女とは23、4の頃に一年だけ付き合っていて、彼女が結婚してからは一度も会ったことなくて……」
「…………」
「今は4人の子供のお母さんで、今回のお祭りも、小学校のPTAで出店してて……」

 4人の子供……PTA……ああ、幸せそうな雰囲気の女性だったもんな……

「あの、名前が出てしまったのは、本当についウッカリでして……決して他意は……」
「別に、どうでもいいです」

 イーッと鼻にシワを寄せてやりたいのを何とか我慢する。

「私には関係ないことです」
「素直じゃねえなあ」

 ヒロ兄のつぶやきに「うるさい」と返す。
 ついウッカリだろうが何だろうが、元カノとイチャついていたことに変わりはない。ああ腹が立つ。腹が立っている自分にも腹が立つ。

「菜美子さあ、ちょっと冷静に考えてみろよ。お前、色々おかしいぞ?」
「おかしくない」 

 ヒロ兄の言いがかりにムッとする。

「山崎さんが誰と仲良くしようが関係ないもん。だって」
「私が好きなのはヒロ兄だから、とか言う気じゃないだろうな?」
「…………」

 グッと詰まると、ヒロ兄が大きくため息をついた。

「お前さ……こないだも言ったけど、オレを逃げ場にすんなよ」
「意味わかんない」
「ホントはわかってるくせに」
「わかんないよ!」

 思わず立ち上がる。

「私が好きなのはヒロ兄だよっ。それはもう私のアイデンティティーなのっ。それでいいんだよ!」

 頭に血が上っていく。

「山崎さんに元カノがいようが、腕捲りしてようが、関係ないの! 私はヒロ兄が好きなの!」
「菜…………」

 宥めようとしたヒロ兄の腕を思い切り振り払い、怒鳴りつける。

「逃げ場でも何でもいいよ! 山崎さんの言動にいちいちイライラしたりする自分が本当に嫌なんだよ! ヒロ兄を好きな自分の方がずっといい!」
「……………」

 シン……ッと自分の声が診療室にこだました。

「…………あ」

 はっと我に返る。私、今、何を口走った……?

「あの……」
「あのー……」

 当事者にも関わらず、端っこで小さく佇んでいた山崎さんが、おそるおそるというように手を挙げた。

「……イライラさせて、すみません」
「…………」

 だからそういうところもイライラするんだよ。
 そう思いかけて「違う」と否定する。山崎さんにイライラしてるんじゃなくて、そういう発言をさせてしまった自分にイライラしてるのだ。

「あの……」
「それで……言わせていただいていいでしょうか」
「あ……」

 私が何か答える前に、ヒロ兄が「じゃ、オレは戻るな」と出て行きかけた。が、

「あ、いえ、よろしければ峰先生も一緒に……」
「え」

 怪訝な顔で立ち止まったヒロ兄に軽く会釈すると、山崎さんは、あらたまった様子で私の前にスッと立った。

「戸田さん」
「……………」

 この期に及んで何を言う気だろう。さっきまでの会話、ちゃんと聞いてた? 私、ヒロ兄が好きだって連呼してたよ? 嫉妬深いかなり面倒くさい女だよ?
 そんな私の気持ちなんて全然関係ない、というように、山崎さんはつぶやくように、言った。

「オレ、色々考え過ぎて前に進めなくなる傾向がありまして……」
「…………」

 そうでしょうね。抱きしめられなかったのも、キスできなかったのも、そのせいかもしれないね。

「でも、渋谷とかに、もっと自分の心に正直になれと言われて……それで色々考えたんです」
「………」

 やっぱり色々考えてるんじゃないの、とツッコミたいのを我慢する。山崎さん、あくまで真剣だ。
 山崎さんは一度目をつむり、大きく深呼吸をしてから、意を決したように目を開けた。

「戸田さん」
「……はい」

 ドキリとする。前に告白してくれたときよりも、もっと深い光の瞳……

「オレ、やっぱり、どうしても、あなたのことが好きです」
「……………」

 うん。知ってる。でも……でも。

「でも……」
「あなたが峰先生のこと好きなのはわかってます。でも、それでいいんです」
「…………」

 優しく微笑んだ山崎さん……

「オレは、ヒロ兄への想いを携えたあなたを、愛し続ける自信があります」

 想いを携えた私……


「ただ」

 ふと、顔をこわばらせ、山崎さんはヒロ兄を振り返った。

「オレも聖人君子でも何でもないし、人並みに嫉妬心も独占欲も持ち合わせているので」
「…………」
「もし、峰先生が戸田さんのことを恋愛対象として接するようなことがあったら、何をしでかすか分かりません」
「…………」

 再び、訪れる沈黙……。
 破ったのは、ヒロ兄の方だった。あごをなでながらボソッと言う。

「へえ……こわいね。オレ何されちゃうんだ?」
「何もしたくないので、何もしないでください」
「……………」

 あくまで真面目な顔をした山崎さん。ふっとヒロ兄は笑うと、私の方に目をやった。

「……って山崎君は言ってるけど? お前は?」
「私は………」

 私は……?

「戸田さん」

 山崎さんが再び視線を真っ直ぐに向けてくる。

「以前、『友達から』と言ってくださいましたが、そのお気持ちに変わりはないですか?」
「え……あ……」

 山崎さんの問いに戸惑う。友達から……友達から。確かにそう言った。けれども……

「オレはもう、友達は嫌なんです」
「え」

 珍しく語気を強めた山崎さんにドキッとする。


「恋人に、してもらえませんか?」
「…………」

 真剣な瞳……

「すみません、オレの中途半端な行動のせいで、戸田さんをイライラさせてしまったのだと思うんですけど……」
「…………」
「これからはそんなことがないように、気を付けます。頑張ります。ご指摘いただければいくらでも直します」
「…………」


「だから、オレをあなたの恋人にしてください」


(ああ………)

 こんな風に真っ直ぐに言われて、断れる人なんているのかな……
  
 そんなことを思いながら……

「はい」

 私も小さくうなずいた。



---------



お読みくださりありがとうございました!
思いの外長くなってしまいましたが、なんとか、題名のネタになっている、
「ヒロ兄への想いを携えたあなたを、愛し続ける自信があります」
まで辿りつくことができました!
あとは、他の携えているもの……家族だったり仕事だったり、とどう向き合っていくのか……

あの……すごくどうでもいいことですが、
菜美子の診療室を訪れたヒロ兄が、「戸田、いるか?」と、「戸田」と言ったのは、もしかしたら中に菜美子以外の人間がいるかもしれない、と思ったからなのでした。ヒロ兄、病院関係者の前では、戸田・戸田ちゃん・戸田先生のいずれかで呼ぶようにしています。
普段は「菜美子」なのに「戸田」と言われると、逆にドキッとしちゃいます(*^-^)

クリックしてくださった方、見に来てくださった方、本当にありがとうございます!
ここまで来られたのも皆様のおかげでございます。本当にありがとうございますっっ
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風のゆくえには~たずさえて25(山崎視点)

2016年09月07日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~たずさえて


2016年4月23日(土)


『山崎君を励ます会を開催します』 

と、溝部からふざけたラインが入ったのは、須賀君達の結婚式の二次会の打ち合わせの席に、戸田さんが峰先生同伴で現れ、オレが落ち込んで帰ったその夜のことだった。

 日時は、その週の土曜日の夜8時。場所は渋谷と桜井のマンション。……って、勝手に決めてる。

『ちょっと待って!今、慶に聞くから』

 あわてたような桜井のラインがすぐに入った。渋谷はラインをやってないため、桜井が二人分の窓口になっているのだ。
 何往復かのやり取りの後、餃子パーティーをやることになった。
 励ます会っていうのは意味が分からないけれども、まあ、餃子は楽しそうだからいいか………



 約束の夜8時に、頼まれていた酒類を買ってマンションを訪れると、ダイニングテーブルで渋谷がひたすら餃子の皮を包んでいた。

「わ……さすが医者。器用だな」
「こんなの普通だ普通」

 いや、我が家の餃子より、ヒダの数が断然多くて細かいぞ……

 溝部がその横でケタケタ笑っている。

「渋谷のその指使い、なんかやらしー」
「あほか」

 溝部のことを蹴りながら、包み続ける渋谷……本当に器用だ。
 そこにムッとした桜井がキッチンから出てきて、容赦なく水餃子を入れた鍋を溝部の頭の上にのせた。

「人の彼氏のこと、やらしいとか言わないで」
「熱い熱いマジ熱いっ」

 悲鳴をあげる溝部。笑う渋谷。

 なんか……楽しそうだな……

 一瞬、高校時代の教室に入りこんだような錯覚がした。一番楽しかった高校二年生……。
 あの時と何が違うかな……中身は何も変わってない。ただ、社会人としての常識とか諦めとかそういうものを覚えただけ……

 あ、あと。酒を飲めるようになったな。
 桜井と渋谷が作業している横で、溝部はさっさと水餃子をつまみながら缶ビールを開けはじめている。

 思わずボーっと三人の様子に見とれていたら、桜井にポンと肩を叩かれた。

「焼きもすぐ出るから、山崎も食べ始めちゃって」
「あ、ごめん。何かやることあったら……」
「ご飯食べたかったら自分でよそってくれる?」

 言いながら台所に下がっていく桜井。主婦のようだ……

 餃子の皮包みが終わった渋谷が、台所に向かって叫んでいる。

「こーすけー、皮余ったからあれ作りたいー」
「大葉ないけどいい?」
「チーズだけでいい」
「ハムも切る?」

 あいかわらず、2人にしかわからない会話をする桜井と渋谷。ちょっと羨ましい……

 結婚したらこんな感じなのかな……

(………)

 ふいに、戸田さんの横顔が浮かんできて、あわてて首を振る。
 オレもホントにしつこいな……。誘いのライン、2週間経ってようやく見てもらえたけれど、その後も何も返事はない。いい加減あきらめないと……


***


 山のようにあった餃子を41歳男4人(渋谷は5日後、42歳になるらしい。「当日誕生パーティーやろう」と言った溝部の申し出を桜井が速攻で断っていた)でたいらげ、ソファー席に移動する。最後に桜井と渋谷で作っていた餃子の皮でチーズとハムを包んで揚げたものが酒のつまみにでてきた。

 テキパキと動いている桜井を見て、溝部がため息をついている。

「あー……マジでオレ、桜井みたいな嫁が欲しい。文句言わず家事やってくれる嫁……」
「だからそれ言うと女性に怒られるって、委員長がいってたじゃん」

 言うと、溝部は「でもさー」と続けた。

「やっぱり、『はい、あなたお茶』ってお茶だしてほしいじゃん。『今日の夕飯は自信作だよ!』とか可愛くいってほしいじゃん!」
「……………」

 なんだその妄想は……。

 でも、桜井と渋谷は顔を見合わせて苦笑いしている。……こいつらそういうこと日常的に言ってるんだろうな……。ため息をつきたくなってくる。


「あーオレも頑張ろう」
 チビチビと缶を舐めている溝部。そんなに酔っているようには見えないけれども、少し酔っているのかもしれない。

「山崎も頑張れー? あ、そうだそうだ。今日は山崎を励ます会だったんだ」
「別に励まさなくていいよ……」

 何を励ますというんだ……

「なんで? 菜美子ちゃんのこともう諦めんの?」
「諦めるっていうか……」

 ひたすら無視されてるし……オレ嫌われたんだ……
 思いだして、落ち込みそうになったところ、溝部がポンと手を打った。

「じゃあ、さ」
 そしてニッと笑うと、オレの肩をバシバシと叩き、とんでもないことを言い出した。

「オレ、菜美子ちゃん口説いてもいい?」


「…………は?」

 溝部の言葉が脳に達するのに少し時間がかかった。

 口説く? 誰が? 誰を?


「何言ってんの……だって、溝部は明日香さんを……」
「明日香ちゃん、脈ないんだもんよー。この何ヵ月かそこそこ頑張ってみたけど、全然進展ないし。こりゃもう諦めて、菜美子ちゃんに鞍替えしようかと」
「……………」

 鞍替え……?

「ほら、菜美子ちゃんの初恋って峰先生なんだろ?」
「…………」
「オレ、タイプ的には峰先生と似てるじゃん?」
「…………」

 それは………そうだけど……

「だから、ちょっと押せば落ちるんじゃないかなって思ってんだよ~」
「落ちるって……」

 溝部は楽しげに言葉を続ける。

「今までは明日香ちゃんいたし、山崎もいたから、菜美子ちゃんとはそんなに喋ったりしてこなかったけど、もう、オレがガンガン行ってもいいってことだよな?」
「……………」
「えーと、菜美子ちゃんて金曜と日曜が休みなんだっけ? ってことは明日休みか! 今から誘うか!」
「ちょ……」

 おもむろに携帯を取りだした溝部。

「山崎、前にお前、夜に誘われたことあったよなー?」

 溝部が画面をスクロールしながら言う。

「オレにも今から来てっていってくんねーかなあ」
「え………」

 ドクン、と心臓が波打つ。
 あの時、オレはヒロ兄の身代わりとして戸田さんを抱いて……

「あ、菜美子ちゃん、あったあった……」

 溝部の指が一度止まり、再び動き出す。

「えーと……今、何してますか?」
「………」

 頭の中で脈がグワングワンと膨張している。
 溝部が……戸田さんと……?

「んーと……」

 再び缶に口をつけ、テーブルに戻した溝部……。そんな、酒飲みながら………

「今から会えませんか……、と」
「溝部……」

 そんな、鞍替え、とか、落ちる、とかゲームみたいに……

 ふつふつと腹の奥の方に熱いものがたまっていく……

「えーと………オレだったら夜の寂しさを埋めて……」
「溝部」

 夜の寂しさを埋める? ………ふざけんな。

 思わず腕を掴むと、怪訝な顔で溝部が見上げてきた。

「何だよ?」
「そういう不誠実な気持ちで彼女に近づくのはやめてくれ」
「は?」

 半笑いになった溝部。

「なにそれ? お前、なんの立場でそれ言ってんの?」
「なんの立場って……」
「お前、関係ないんだろ? ほっとけよ」

 溝部は、バッとオレの腕を振りほどき、再び画面に打ち込みはじめた。

「あー、変換おかしくなったじゃねえかよ……えーと、夜の寂しさを……」
「…………」

 戸田さんの潤んだ瞳を思い出す……切ない声を思い出す……

 彼女がオレ以外の奴に抱かれる……?

「溝部」
「あ? なんだよ?」

 画面を見たままの溝部……

「溝部……」

 そんなことは許されない……
 許されないんだよ……っ

「溝部!!」
「うわっ」 

 衝動的に溝部の胸ぐらを掴む。

「だから、やめろって言ってんだよ!」
「……何でだよ?」

 溝部はまったく動じず、まっすぐ見つめ返してくる。

「何でお前にそんなこと言われなくちゃなんねえんだよ?」
「それは……っ」
「関係ないだろ?」
「……っ」

 詰まってしまう。
 関係ない。関係ないけれども……っ

「オレはお前と違って菜美子ちゃんと向き合える」
「…………」
「逃げてばっかのお前みたいなヘタレとは違うんだよ」

 溝部が再び携帯に目を落とす。

「まあ見てろよ。すぐにモノにしてやる」
「やめろ……っ」

 モノにする?
 バカなこというな。許さない……

 許さない……っ

 目の前が赤くなる。頭が沸騰して何がなんだか分からないまま、溝部の胸ぐらを掴みあげた。

「彼女は渡さない……っ」
「わ、山崎……っ」

 衝動のまま、驚いた顔をした溝部の顔面に向かって拳を振り上げ………

「はい。よくできました」
「!」

 いきなり、振り上げた拳を後ろから掴まれ、つんのめりそうになる。
 振り返ると、涼しい顔をした渋谷が立っていて……

「…………渋谷」
「渋谷、おせーよ!!」

 オレに胸ぐらを掴まれたままの溝部が、渋谷に向かってがなりたてている。

「もっと早く止めろよー! ホントに殴られるかと思っただろー!」
「まあまあ」

 桜井が、固まっているオレの手を溝部からはがしながら、笑って言った。

「名演技名演技。本当にムカついたから、殴られてもいいんじゃないかと思ったよ」
「バカ言うなっ何でオレが殴られなくちゃなんねーんだよっ」

 わあわあ言う溝部……

 これは……これは一体……

「山崎」

 トン、と両肩を押され、その場に座らさせられる。

「今のが本音だろ?」
「…………え」
「戸田先生のこと、他の奴に渡したくないんだろ?」
「…………」

 渋谷………

「一応言っとくけど、全部演技だからな?」

 溝部がブツブツと言う。

「明日香ちゃんからも山崎と菜美子ちゃんをどうにかしたいって言われてるからさ」
「溝部……」

 あれが演技だったなんて……すっかり騙された……
 あんな風に人に掴みかかったり、怒鳴ったりしたのなんて、生まれて初めてだ……

「なんか懐かしー。おれもさー昔、慶が上岡と仲良くバスケしてるの見て、みんなの前で叫んだことあるー」
「うわ、そんなことあったな。忘れてたけど思い出した」

 桜井がニコニコと言うのに、溝部がウゲーと返す。

「あれ、試合に負けて悔しくて叫んだんじゃなかったのかよー」
「違うよー。慶が他の人と仲良くするのがどうしても許せなくてさー」

 桜井がちょこんとオレの横に座りこんだ。

「山崎も、許せないんでしょ?」
「…………」
「戸田先生のこと、好きなんでしょ?」
「…………」

 でも……でも。

「山崎」

 渋谷が、呆けているオレの胸のあたりを、トン、と手の平で突いてきた。

「言っただろ? 自分の心に正直にって」
「…………」

 正直に……

 正直に言えば、オレは……


「それから。今日の帰り際、峰先生から伝言頼まれた」
「え」

 峰先生……ヒロ兄。

 渋谷の聞き取りやすい声が、ぼんやりとしているオレの頭の中に沁み入ってくる。

「『今がチャンスだ。一気に攻めこめ』」
「………え」

 チャンスって……攻めこめって……

「何それ……」
「知らね。それだけ伝えろって言われたんだよ」

 肩をすくめた渋谷の横で、溝部が再びビールを片手に携帯のスクロールをはじめた。

「一気に攻めこめかー。あーオレもそろそろ本気で明日香ちゃんに攻めこもうかなー」
「そろそろって、今までは本気じゃなかったの?」
「いや、本気は本気だけど、強気にはいってなかったからさ」
「わーなんか大変だねー」

 桜井が他人事のように言う。

「前に委員長も言ってたけどさ、この歳で恋愛一からはじめるって、精神的にも体力的にもきついよねー。おれ、慶がいてくれて良かったー。ね、慶もそう思うでしょ?」
「まあ、そうだな」

 渋谷が苦笑しながら肯くと、桜井は蕩けるような笑顔になって、ソファーにつっぷした。

「あー……幸せ……」
「ウルセー!そこのバカップル、人前でイチャイチャすんな!」
「イチャイチャなんかしてねーよ」
「してほしい?みたい?」
「アホか」
「見たくねえよっ」

 高校生のように、わあわあ騒いでいる三人を、来た時同様にぼやっと眺める……

 本当に、この歳になってからの恋愛って大変で……
 だからこそ、自分の心に正直に進むことを心掛けないといけないのかもしれない。

(……戸田さん)

 もう一度だけ、チャンスをもらえるかな…… 
 
 オレの気持ちを、もう一度だけ、伝えさせてくれるかな……






----------

お読みくださりありがとうございました!

溝部くん発案「山崎を怒らせて本音を引きだそう」作戦でございました。
慶君、可憐な容姿をしておりますが、喧嘩強いです。趣味筋トレなので、脱いだら相当すごいです。

この「たずさえて」企画初期段階から、慶の「はい。よくできました」は存在してまして。
ああ、慶ってやっぱりカッコいいなーと一人ニヤニヤしておりました^^

そういうわけで、山崎さん、3日後、ようやく意を決して告白しにいきます。
3日後になってしまったのは、ラインや電話はどうせ出てもらえないので、待ち伏せしかない!と思ったからでして。
火曜日は峰先生の病院の日。何時に終わるのか、慶に調べてもらえたんです。

ということで。その火曜日のお話を次回……


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風のゆくえには~たずさえて24(菜美子視点)

2016年09月05日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~たずさえて

2016年4月19日(火)


「それで?」

 帰りの車の中、しばらく無言でいたヒロ兄が、ふいに言った。

「ケンカの原因はなんだ?」
「…………え?」

 ケンカ? なんの話?

 聞くと、ヒロ兄はちょっと笑った。

「区役所君とケンカしたんだろ? それで今日、気まずくてオレのこと誘ったんだろ? バレバレだよ」
「………………」

 そういう訳じゃないんだけど……

「区役所君、今日ずっとお前のこと見てたな。かわいそうに」
「………………」 

 気がついてたけど、普通に話せる自信がなくて無視してしまった。話したら絶対、刺々しくなってた私。

「…………関係ないし」
「関係ない?」
「山崎さんとは、別に付き合ってるわけでも何でもないよ。それなのにケンカなんかしないよ」
「……………」

 再び訪れた沈黙……
 しばらく走ったあと、ヒロ兄がおもむろにコンビニの駐車場に車を入れた。

「ちょっと便所行ってくる」
「………………」

 さっさと降りていくヒロ兄……

 女性に対して便所とか言うなバカ。

(ホント、女として見られてないんだよなあ……)

 後ろ姿を見送りながらため息をつく。

(まあ、今さらか……。と)

 携帯に着信を知らせるランプがついている。……ラインだ。相手は溝部さん。次回の予定の確認だった。

 短く返信して、一覧に戻したところ、ふと、山崎さんからのラインの欄の未読の印が目に止まった。2週間前からずっとつきっぱなしの印。未読のまま読むことはできるので、内容は知っている……

「……………」

 えいっと押すと、2週間前に送られてきていた2通のメッセージが目に入ってきた。

『今夜、二人で会えませんか?』

『すみません。今夜じゃなくても、明日でも明後日でも、ご都合よろしい時にお時間いただけませんか?』

「…………」

 ご都合よろしい時なんかありません。
 
 名前呼びつけの親しい女性がいるくせに。
 そういえば、お姫様抱っこも手慣れてた。あんな純朴そうなふりして、実は結構遊んでるんじゃないの?
 だいたい、2週間もよそよそしいライン送ってきたのはどこのどいつだっつの。私からの誘いには「4人で」って答えたくせにっ。

「まあ、どうでもいいけど」

 だって、私が好きなのはヒロ兄だ。山崎さんなんかどうでもいい。本当に本当にどうでもいい。どうでも……

「お前、顔怖いぞ」
「…………」

 戻ってきたヒロ兄……
 運転席に座ってから、コンビニで買ってきたらしい缶コーヒーを取りだし渡してくれた。

「……ありがと」

 きゅんとなる。やっぱりヒロ兄大好き。こういう小さい気遣いできるとこも素敵。かっこいい。

 せっかくきゅんきゅんしながら、コーヒーを飲んでいるヒロ兄の横顔にうっとり見とれていたのに、

「で、区役所になんか言われたのか?」
「……………」

 山崎さんのことを掘り返されてムッとなる。

「だから……」
「浮気……はないだろ? あんな真面目な奴に限って」
「そうでもないよ」

 思わず言ってしまう。

「あれで結構遊んでるっぽいよ」
「まさかあ」

 ははは、と笑うヒロ兄。

「どうみても、真面目が服着てるような奴じゃねえかよ」
「そんなことない」
「あるある。お前男見る目ねえなあ」
「そんなことないもん!」

 我慢できなくて叫んでしまった。

「だって、職場の女の人のこと、名前呼びつけにしてた。すっごく近くで見つめ合ったりしてた!」

 言うと、ヒロ兄はキョトンとした顔をした後………ぷっと吹き出した。な、なんで笑うの!?

「ヒロ兄っ」
「おま……っお前……」

 ケタケタと笑いながらヒロ兄が言う。

「お前、かわいすぎっ」
「………………」

 せっかくかわいいと言ってくれてるけど、全然嬉しくない。馬鹿にされてる気がする……

 ムッとしている私の横で、ヒロ兄はおかしくてしょうがない、というように、ハンドルに突っ伏して笑い続け……

「お前さあ………」

 ようやく顔を上げると、笑いすぎで出てきた涙をぬぐってから、言った。

「お前、ホントにあいつのこと好きなんだなあ」



***



「………………は?」

 何て言った? 今………

「だから、本気なんだろ?」
「………………は?」

 本気? 何が?

「お前、自分で気がついてないのか?」
「…………何を?」

 何を言って……

 ふっとヒロ兄の目元が和らいだ。

「お前、山崎のこと本気で好………」
「違うっ」

 ゾッと体中に悪寒が走った。
 何を……何を言ってる……

 ヒロ兄の口からそんな言葉聞きたくない。

「違うっ。全然違うっ」
「………違くないだろ」
「違う」

 ぶんぶん首を振る。振りすぎて気持ち悪くなってくる。

「菜美子?」
「違う……違うよ?」

 ヒロ兄の腕を掴む。ガッチリした腕。大好きな腕……。

「ヒロ兄……だって私……私」

 本当は言ってはいけない言葉。

 知ってる。

 言ってはいけない。ずっと、我慢してきた。

 でも、でも、でも………

「ヒロ兄」

 大好きなその瞳を見上げる。掴んだ手に力をこめる。

「私の好きな人はヒロ兄だよ?」
「…………」

「ずっと。18年前に気が付いたときからずっと」
「…………」

 大きく瞬きをしたヒロ兄……

「18年前に告白した時、ヒロ兄は笑ったけど……でも、私は本気だったよ?」
「…………」

「ずっと、ずっとずっとずっと……ヒロ兄のことだけが好き」
「…………」

「好きなの」

 腕から手を離し、そっとヒロ兄の頬に触れる。ずっと触りたかった。辿りたかった……。想像よりも吸いつくような肌。愛しい頬……

「………菜美子」

 すいっとその手を握られた。ぎゅっと掴まれ下ろされる……

「オレは……」
「……………」

 ヒロ兄は目をつむると、大きく息をついた。

 長い、長い、長い、沈黙の後………

「…………ごめん」

 開かれた瞳に写る自分の姿。寄るべない子供のよう……

 何がごめん……?

「ヒロ兄……」
「菜美子」

 手を離され、その手が、ポンと私の頭にのせられて、条件反射的にキュンとなる。

 好き。大好き。

「オレさ……」
「…………」

 優しい瞳にぐりぐりぐり頭をなでられ、泣きたくなってきたのを何とか我慢していると、

「ごめん。オレ……知ってたよな」
「え…………」

 知ってた……って……

 ヒロ兄はもう一度目をつむると軽く首を振った。

「オレ、知ってて知らないフリしてきた……気がする」
「……………」

 ヒロ兄の手が、優しく優しく、頭を撫でてくれる……

「ごめんな」
「……………」
「ごめんな、菜美子……」

 何がごめん? 何がごめんなの……?

 見上げると、ヒロ兄はふっと笑った。
 そして、優しい瞳で、言ってくれた。

「オレも、お前のこと好きだよ」
「…………え」

 目を瞠る。
 息が止まる。

 でも、ヒロ兄は再び首を振った。

「でも、それは妹としてだよ」
「…………」
「それ以上でもそれ以下でもない。オレにとってお前は一生大切な妹だ」
「…………」

 妹………

「菜美子」

 あらたまったように名前を呼ばれる。

「でも、山崎は違うだろ」
「………え」

 なんでここで山崎さんの名前を出すの?

「あいつ、今日もずっとずっと、お前のこと見てた。お前のことだけを見てた」
「…………」

「お前だって、あいつのこと好きなんだろ?」
「………やめて」

「さっきのお前の話、あれは確実に焼きもちだよ。好きでもない男に……」
「やめてよっ」

 ずっと撫でてくれていた手を思いきり振り払う。
 そんな話聞きたくない。

「もう、帰るっ」

 衝動的にドアを開けて外にでた。夜の風が頬にあたる。
 そのまま駐車場を出て、小走りに車通りの多い歩道を歩きかけたところで、

「菜美子」
「!」

 後ろから手を掴まれた。

「離して……っ」
「お前どこいくつもりだ。駅、反対方向だぞ」
「………うるさいっ」

 そんなのどうでもいいっ。

 手を振りはらおうと力強く腕を振り下ろしたけれど、離れない。ヒロ兄の強い手がしっかりと手首を掴んでいる。

「離してよ……っ」
「離すけど………」
「…………っ」

 息が止まる……っ

 いきなり引っ張られ、胸に引き寄せられたのだ。
 愛おしくて愛おしくて、欲しくて欲しくてたまらなかった、腕の中……

 ぎゅっと腰を抱かれ、膝が砕けそうになる。
 ごつごつした胸。耳元で聞こえる息遣い………

「ヒロ……っ」
「離すよ」

 低い、愛おしい声……

「もう、離すから……」
「ヒロ兄……」

 ゆっくり、ゆっくりと頭をなでられる……

 離すって……何?

 ヒロ兄は再びぎゅっと抱きしめてくれてから、そっと身を離した。

 そして、その優しい瞳でこちらを見下ろし……

「だから……お前もオレを逃げ場にすんな」
「逃げ場……?」

 何のこと……?

 首をかしげると、またポンポンと頭を撫でられた。

「ちゃんと、自分の気持ちと向き合え」
「それは………」

「ほら、帰るぞ? 駐車は20分までって書いてあった」
「え……」
「あーでもその前になんか甘い物食いてえなあ。プリン買おうぜプリン」
「………」

 コンビニに引き返すヒロ兄の後ろ姿を見ながら一人ごちる。

「離すって……?」

 抱きしめられた感触を思いだす。夢にまでみたヒロ兄の腕……

「自分の気持ちと向き合う……? そんなの……」

 そんなの決まってる。私が好きなのはヒロ兄で……

「……逃げ場?」

 それが逃げ場だっていうの?

「菜ー美ー子ー。今すぐ来ねーと奢ってやんねーぞ」
「あ……うん」

 さっき抱きしめてくれたことなんてなかったかのような、いつものヒロ兄。
 私もつられて普通に返事をする。

「私、シュークリームがいい」
「おーシュークリームかーそれもいいなあ」

 いつものヒロ兄……

 小走りにヒロ兄の元に行き、隣に並んで歩きだす。

 自分の気持ちって……そんなの……そんなの、決まってるのに。

 ヒロ兄が好き。

 ただそれだけだ。それだけなのに………


『あなたのことが、好きです』

 ふいに脳内で再生される山崎さんの声……

『彼のことを一途に思うあなたのことを、とても愛しいと思っています』

 私は………私は。



***


 その週の土曜日……

 山崎さんの同級生である桜井浩介氏が定期診療に訪れた。
 もう半年間、発作も出ていない。そろそろ卒業してもいいかもしれない。

 診療終了時間が近づいてきたところ、桜井氏がおもむろに「あのーーー」とものすごく言いにくそうに、頬をかいた。 

「彼には余計なことは話すなって言われてるんですけど……」
「はい」

 彼、というのは、桜井氏の長年のパートナーであり、私の同僚でもある渋谷慶医師のことだ。
 なんだろう、とカルテを手に振り仰ぐと、

「あの……山崎のことなんですけど」
「…………」

 その話か……。ぐっと身構え、カルテをデスクの上に置く。
 桜井氏は頬をかいたまま言葉を続けた。

「今日の夜も、うちで山崎を励ます会をやることになってて……」
「励ます会?」

 励ますって何のことだ?

 眉を寄せたいところをなんとかポーカーフェイスで「なんの話ですか?」と聞くと、桜井氏はますます言いにくそうに、

「あのー……やっぱり、山崎が……その、慣れてないところが問題だったんでしょうか?」
「は?」

 慣れてない? 何の話だ?

「あの、何の話を……」
「山崎……女性と付き合うの10年ぶりで……」
「………え」

 10年……ぶり?

「あの、そういうことするのも10年ぶりで……」
「………え」

 ……え?

「緊張してるんだと思うんです」
「………え」
「だからなかなか先に進めないんじゃないかなって」
「…………」

 何を……

「あれから結局、何もないんですよね……?」
「え……と」

「そういうとこで嫌になられちゃったのかもしれないんですけど、でもなんていうか男のデリケートな部分と言うか、その……」
「あの………」

「ちょっと、大目に見てやってくれないでしょうか? 何しろ10年ぶりなので……」
「…………」

「山崎、戸田先生のこと、本当に大切に思ってるので……」
「…………」

 お願いします、と桜井氏は深々と頭を下げると、勝手に「失礼しました」と出て行ってしまった。まだ、診療終わってなかったのに……

 残された私………頭の中がハテナだらけだ。

「10年ぶり……?」

 ホントに? あれで……?

「ウソだあ……」

 言いながらも、抱きしめることもできない、キスもできない山崎さんを思いだして、笑いがこみあげてくる。
 どうりで中学生みたいだったのか……あんな女慣れしてるみたいなくせに……

「は……はは」

 一回笑いが声に出てしまったら、止まらなくなってしまった。
 10年ぶり……10年ぶり、かあ……
 
「戸田先生ー?どうしましたー?」
「ご……ごめん。なんでもない……」

 看護師の柚希ちゃんが入ってきても、そのまましばらくの間、しつこく笑い続けてしまった。


***


 そして、その3日後。26日火曜日。

 ヒロ兄の病院での仕事が終わり、病院を出たところで……

「山崎さん……」
「…………」

 道路の脇に、ポツン、と立っていた山崎さんが、私の姿に気がつき、ゆっくり、ゆっくりと頭をさげた。

 



----------

お読みくださりありがとうございました!
思いの外長くなってしまいました……でも切るに切れず。
次回は山崎視点。「山崎君を励ます会」からはじまります。

今回、ヒロ兄の「離すよ」「もう、離すから……」が書けて感無量でございます。
自分の中ではすごーく大切なシーンだったのですが……伝わってるといいなあ……。

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こんな普通の恋愛話に、本当にありがとうございますっっ
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風のゆくえには~たずさえて23(山崎視点)

2016年09月03日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~たずさえて

2016年4月19日(火)


 オレはなんてバカな勘違いをしていたんだろう。
 出来ることなら、自分のことをもぐら叩きみたいにハンマーでガンガン叩いて、地中に埋まりたい気分だ……


「おー、潤子ちゃーん、久しぶりー。結婚おめでとー」

 大人の色気たっぷりなスーツ姿で現れた峰先生。その容姿を裏切る軽い朗らかな口調。その場にいる人間の注目を集めることのできるカリスマ性……

 峰先生を見るなり、その場にいた明日香さんと潤子さんが、パアッと表情を明るくした。

「ヒロ兄!」
「明日香ちゃんも久しぶりー。二人ともすっかり大人になったなあ」
「わーヒロ兄、全然変わんなーい。変わらなすぎてコワーイ」
「最後に会ったのいつだ?」
「私達の成人式の時に車出してくれた時以来じゃない? だから十……」
「いい。数えるな。計算して悲しくなるから」
「何それっ」

 明日香さんと潤子さんに囲まれて軽口を叩いている峰先生のことを微笑みながら見ている戸田さん……

「………」

 ああ、そうだよ……
 オレは何を勘違いしていたんだろう。

 戸田さんと友達以上になっても、結局、気持ちが離れて別れてしまうのが怖い。だから、友達のままでいい。なんて思っていたけれど……

(初めから、そんなことありえないんだった)

 戸田さんの好きな人は、17年……いや、もう18年も前から、峰先生……ヒロ兄一人なんだ。そこにオレの立ち入る隙なんて一ミリもない。

(バカだなあ……オレ)

 こんなバカな勘違いをしてるから、戸田さんにも距離を置かれてしまうんだ……



 突然、ラインを読んでもらえなくなったのは、2週間ほど前のことだった。

 最後の戸田さんからのラインは、『会えませんか?』と誘ってくれたのを、オレが仕事を理由に断り、それで、

『承知しました。お仕事頑張ってください』

と、返事をくれたものになる。

 
 翌日の夕方、思うことがあって、ラインをしたのだけれども、いくらたっても既読が付かず……。
 何かあったのだろうか、と心配していたところ、二次会幹事のライングループでのやり取りには、普通に書きこみがあったので安心した。

(じゃ、なんでオレのは読まれてないんだ?)

 はじめは、読み落とされてるのかな? なんて気軽に思って、再度ラインを送ってみたけれど、やはり読んでもらえず……

(もしかして……ブロックされてる?)

 気が付いて、ザーッと血の気がひいた。

 先月、手を繋いで戸田さんの家まで送っていき、そこで『朝まで……』なんて口走ってしまったせいだろうか……

 いや、そのあと2週間は普通にラインのやり取りをしていた。ただ、オレの中で、これ以上戸田さんと親しくなるのが怖い、という気持ちが働いて、若干よそよそしい文章になっていた気はする。でも、ほとんど今まで通りにやりとりしてきたつもりだ。

 会えませんか、と誘ってくれたのに断ったから? いや、でも、それに対してはちゃんと返事をくれているし、だいたい、そんなことでブロックするような人ではない。

 じゃあ、なんだ?
 いや、それ以前に、ブロックされてるのか? どうなんだ?

(ブロックされているかどうかを確認する方法……)

 ネットで検索してみたところ、ブロックされていた場合、相手のタイムラインは見れなくなるらしい……
 戸田さんは滅多にタイムラインの投稿はしないけれども、バーベキューのスイカ割りの時の写真を投稿したことがあった。それが見れなかったら、ブロック決定だ。

(………………)

 かなり緊張しながら戸田さんのラインのホーム画面に飛んでみると……

「あ、見れた」

 スイカの写真が出てきて、ホーーっと体の力が抜ける。

(そういえば、この日に須賀君と潤子さんは出会ったんだよなあ……)

 そして、オレはこの日、戸田さんのヒロ兄に対する気持ちに気がついてしまい、何となく戸田さんとギクシャクしたまま過ごしたんだった……。

 あれから約8ヶ月……

 須賀君と潤子さんは結婚に向けて準備を進めていて……そしてオレは。オレ達は……



『山崎さん、まだ結婚してないんだってねー? でも彼女はいるでしょ』

 約2週間前の区役所共催のお祭りの際、麻実に聞かれ、「いない」と答えると、

「えー、噂になってるよー、最近山崎さんが色気づいてるって」
「………なんだそれ」

 呆れて言うと、麻実はニッと笑って、

「私も会ってすぐそう思ったよ?」
「…………」
「元カノの目は誤魔化せないよ~?卓也くん?」

 丸い目がキラキラしてる。この子、本当に変わってないな……。

 麻実とは20代前半に一年ほど付き合っていた。
 当時、同じ区役所に勤めてはいたけれども、規模の大きな区のため職員の数も多く、しかも違う部署で、階も1階と4階と離れていたこともあり、オレ達が付き合っていることを知っていた人は少ないと思う。

 付き合っていた当時、弟はまだ中学生だったし、奨学金の返済もあったため、オレは気持ちどうこうよりも、実際問題として結婚なんてとても考えられなかった。でも、7人兄弟の真ん中っ子である麻実には、早く結婚して子供がたくさん欲しい、という夢があり……結局、オレ達は別れることになった。

 別れてからわりとすぐに寿退職した彼女とは、今まで一度も連絡を取ったことはなかった。まさか、この区に住んでいたとは……。

 彼女は、先月の出店ブース責任者の顔合わせは欠席していたため、当日、15年ぶりに再会して本当に驚いた。彼女の方は、代わりに出席した人から受け取った資料を見て、オレが担当であることを知り、会えることを楽しみにしてくれていたらしい。

 少しも変わらない明るい麻実。今はもう、中学生の女の子1人と、小学生の女の子1人と男の子1人、それに幼稚園の女の子1人、の4人の母親だそうだ。今回のお祭りでは、小学校のPTA役員で出店している的当てゲームのテントの責任者をしている。なんだか不思議な感じだ。

「彼女、どんな人? ねえ、どんな人?どんな人?」

 ねえねえねえ、と袖口を引っ張ってくる仕草まで昔と変わっていなくて、タイムスリップでもしたような気分になってくる。ちゃんと答えなければ解放してくれないということも、おそらく変わっていないだろう。観念して両手を「降参」というように上げる。

「だから、彼女じゃないって」
「でも、好きな人、なんでしょ?」
「…………」

 黙ってしまうと、キャーっとバシバシ腕を叩かれた。……今、気が付いたのだけれども、麻実、目黒樹理亜とノリが似てる。だからオレ、樹理亜に妙に親近感を持ってたのか……。

「結婚、しないの?」
「結婚……ねえ……」

 思わずため息をついてしまうと、麻実はアハハハハと大声で笑いだした。

「卓也くんの方こそ、あいかわらず、じゃん。考えすぎで行動できないとこ、変わってない!」
「………え」

 考えすぎで行動できない……?

「仕事も慎重で丁寧で正確、だもんね。仕事はそれでいいけどさ、恋愛は慎重すぎるのも問題だよー?」
「………」
「ようはココですココ」

 バンバンバン、と胸のあたりを叩かれた。

「ハートです。ハート。考えるな、感じろ、だよ」
「………」

 自分の心に正直に……と言ったのは渋谷だったか……

 みんな同じこと言うんだな……

「足踏みばっかしてたら、あっという間におじいさんになっちゃうよー?」
「………余計なお世話」
「確かに!」

 昔と変わらない笑い声を立てられ、つられて笑ってしまう。

 確かにな……あっという間におじいさんだ。

 考えすぎ……自分の心に正直に……か。

(正直にいえば……)

 戸田さんに会いたい。友達以上がどうとか結婚がどうとか、そういう難しいことを全部取っ払ってしまえば、残る気持ちはただ一つ。

(あなたに、会いたい)

 だから、ラインを送ったのだ。

『今夜、二人で会えませんか?』


 ………でも、そのラインは読まれることなく、2週間が過ぎた。せめて幹事4人で集まろうとしたけれど、なかなか都合が合わず……

 結局2週間たってしまった今日。
 二次会の会場となるホテルの宴会場の見学のため、幹事4人と新郎新婦で集まったその席に……戸田さんは峰先生と連れだってやってきたのだ。


「峰です。菜美子の兄がわりなもんで、潤子ちゃんと明日香ちゃんとも二人がまだ若~い頃から……」
「ヒロ兄、失礼!私達まだ若いって!」
「おお!峰先生! 渋谷の病院の院長先生なんですよね?」
「え、渋谷のこと知ってるんだ?」
「高校の同級生っす!」

 溝部も加わり、みんなで盛り上がっている中……

「………あ」
 ジッと見ていたせいか、戸田さんと目が合った。でも、速攻でそらされてしまい……帰る時まで一切こっちを見てもらえなかった……

 そして……

「じゃーまた、次は連休あたりに集合しよう!」

 進行表の話も概ねでき、会場の見学が終わったところで、溝部がハイっと手を打った。

「じゃ、オレ、明日香ちゃん送ってくから、菜美……」
「ヒロ兄、一緒かえろー」

 すいっと、戸田さんは端っこの方で電話をしている峰先生のところまで駆け寄ると、オレ達の方に手をふってきた。

「じゃ、またね」
「あ、うん。バイバーイ」
「ばいばい」

 戸田さんに背中を押され、峰先生も電話をかけながらこちらに手をふって……そのまま二人は寄り添いながら、出ていってしまった。その間、戸田さんがこちらを見てくれることは一度もなかった。

「…………」

 わかってはいるけれど……キツイ。これはキツイ。なんの罰ゲームだ。……って、オレが調子に乗ってたから、戸田さんが戒めのためにヒロ兄を連れてきたんだろうか……

「相変わらず、菜美子ってヒロ兄に懐いてるんだね」

 潤子さんが、明日香さんを振り返ると、明日香さんは、まあねえ、と笑った。

「何しろ、初恋の相手だもんね」
「あーだよねー」
「え、そうなんだ? お前知ってた?」

 溝部に聞かれ、コックリうなずく。すると心配そうに溝部がつぶやいた。

「さっきの感じさあ……、もしかして、菜美子ちゃん、今でも好きなんじゃ……」
「…………」
「…………」
「…………」

 その場にいた誰も否定してくれなかった……

 いや、知ってる。オレが一番知ってる。
 戸田さんの好きな人は、ヒロ兄だって。そんなこと、知ってる。

 知ってるけど……



----------

お読みくださりありがとうございました!

山崎の『今夜、二人で会えませんか?』のライン、未読になってますが、実は菜美子は読んでます。開かないでも読めちゃうので……
で、「なにそれ今さら!4人でって言ったくせに!女とイチャイチャしてたくせにーー!!」と余計にムカついてしまったのかと(^_^;)
で、「私が好きなのはヒロ兄だし!山崎さん関係ないし!!」と怒り続け、ついにはヒロ兄を会合に連れてきた、のかな?
そんな話が次回で書かれるはず……

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