たぶんこれがみたかった、ということなんだろう。
たぶん。
で、話は前の日の夕方から始まる。
空港はものすごい雨で、ただでさえ遅れ気味の到着だったのに加え、着陸後「作業が中断している」とかで、滑走路の辺りでしばらく待たされた。
こりゃあどこまで行けるか分からんなと思った。とりあえず、行けるところまで行ってということになるのだろうが、ただまあ、どこでリタイアしてもその後どうすんのという現実的な問題があった。濡れたままで、どこで時間潰せばいいのかという。
思ったよりも早く飛行機が動き、機外にでることができた。隣の若い夫婦は赤ん坊の機嫌をとるのに必死だったようだ。ようがんばったなと赤ん坊に目で合図をすると、赤ん坊とともに夫婦二人ともどうもどうもとにこやかに会釈を返してくれた。儂はシートの幅はそう気にはならなかったが、旦那の方は、完全に膝が前の席にくっついていた。
天気は気になったが、そう躊躇わずにコインロッカーを探し、荷物を預け、地下に降りた。ぐずぐず云っても始まらん。
まだ雨は降っている。とりあえず、京成成田駅まで行くことにする。芝山千代田に行けるはずの東成田への行き方は全く分からなかった。リサーチが充分ではなかった。尤も、雨も降っていたので別にこだわってはなかったが。
京成成田駅を出る。この時点で想定していた反対側の出口に出ていることに気づいていない。JRの方へとりあえず向かう。先ほどの夫婦の姿が見えた。
JR成田駅に出る。この時点で設定ルート間違えている。しばらく走り、セブンイレブンで地図を確認し、再スタート。17時30分。20円チロルをお礼に購入。再スタート。雨は、ほんの少し感じるぐらい。
目指す国道の番号を確認し、一安心する。この辺は、ただただ道が広い。バイパス様。「国鉄」成田線の上を通る。この直後、大型電気店でトイレを借りる。一回目の休憩。
雨は止んで心配は解消。車が多く広い道なので、あまり考えずに先を急ぐ。ペースは恐らく7.5キロ/1時間ぐらいだったはず。
渋滞気味の車の列から視線を逸らすとそこはごくごく普通の田舎である。四国にもよくあるこういう感じ。急に家が建って道路が通って。でも元々はのんびりしたところなのだろう。
この信号脇の碑、成田山だったか街道だったか。よく見とけばよかった。
車が多い。まだまだ遠い。夕暮れ時はみんな家路を急ぐ。儂の旅は始まったばかりではある。まだ淡々と走っている。
学生の頃、よく単車に乗ってぶらぶらすることがあったが、こちらの方はあまり来なかった。一度印旛沼に日帰りで来た覚えがある。冬の日、だった。もっと来とけば良かったかと思うのは毎度のこと。
ようやく目指す296号に入る。右は佐倉へ左は匝瑳へ(これ読み方分からんよねえ八日市場で良かったと思うのだが、何かいわれでもあるのだろうか)。
日が暮れる一歩手前。遠くの空は明るい。この辺は厚い雲。この辺はまだ道の感じが新しい。車が多いこともある。店が新しいこともある。
後で地図を見て確認したら、国道からいつの間にか離れていたらしい。
人家が少なくなる。旧街道の雰囲気ではないな確かに。農道だ。
国道に戻ったか。道幅は狭いが交通量が多い。何故かやたらと食べ物屋が目に付く。実際客がよく入るのだろう。店は多いが道は狭い。路肩も狭い。ただ嫌いではない。旧国道という感じの趣。
駅の近く。飲み会帰りのサラリーマンが信号を待っている。まだ帰るには早いでしょう。左手を見上げれば、月が出ている。
満月に近い形だった気がする。空が明るいのは街の灯りだけではないらしい。
3時間余り経っている。最初の方休憩をあまりとらないのは性分だろう。休み癖がついたらいかんという気持ちがどこかにある。でもこれが後々響く。
道端で黒砂糖を補給。これなかなかうまかった。
相変わらず、旧街道、という感じの昔からある国道を走る。暗いところもあるが、変化がそこそこあるので苦ではない。
日大入り口、の交差点にあるセブンイレブンでようやくピットイン。習志野付近。4時間経過。入りたいと思ったときになかなか左手にコンビニがなくて、結局反対側のコンビニに入った。モンスターエナジー購入。この選択、ちょっと間違ったかもしれん。量が多いのを飲みきってしまい、気分がよくない。残すのが無理なら捨てればよかったか。固形物喰うのも選択肢にあったはずだが、4時間は少し長すぎた。水分が摂れてなくて先に水分を優先した。これが、後になって消耗を招いたかもしれない。
ここで成田街道終了、ということらしい。まだ国道296号。この先、もう一回曲がって大きな道路に出て、そして少し狭めの落ち着いた国道に出る。それが14号千葉街道(だったはず)。14号線に入った後で、京成の駅(何駅か未確認)の前のセブンイレブンでアクエリの300ペットを買う。あっという間になくなる。ペットは空のままウエストバッグにしまう。5時間経過。
14号線に入り、しばらく行くと渋滞しとるなという感じになる。工事渋滞だった。結構長い列。みんなよく待っている。
武蔵野線のガード下をくぐる。帰りはこれに乗って帰ってくることになるのだろうか、そう考えるとまだまだ先が長いことにしばし愕然とする(結局帰ってはこなかったのだが)。
市川のセブンイレブンで6時間目のピット。コーラゼロ。今日ぐらいゼロにしなくてもと思うが、何となくゼロが飲みたくなる。残りは、アクエリのペットボトルに入れる。もう少しのはずだがとペースを上げる。
県境。江戸川、市川橋。時刻は0時少し前。日付変わる前に予定通り、というか予想通り、というか。とりあえずほっとする。
川を渡る。あちらはJRだろうか京成だろうか。
銭湯まだやっているんだろうか。東京都に入っての千葉街道。時刻は12時過ぎ。人通りはそこそこ多い。
再び川を渡る。遠くの灯りをぼんやり見ながら走る。
眠くはない。とりあえずの安心感の方が強い。
都内に入って初の休憩。7時間目のピット。江戸川区のとあるミニストップ。ガリガリ君を買う。そんなに暑すぎる感じではないし、腹壊しそうな気もしたが、口はこれを欲している。チョコでもなく、炭酸でもなく。ただ直感的に、ということでもない。この辺の選択が難しい。
ここは階段で上がる。歩く。
丁度1時。中川そして荒川、新小松川橋。ペースは悪くない。橋は誰もいない。でも暗くて走れない感じではない。この直後自転車の人と何台かすれ違う。どうやって上がったのかと思ったが、歩道橋の会談の隅がスロープ状になっているのを後で見つける。
川を渡る。道路が伸びている。きれいでぼうっとなる。
スカイツリーが近いはずだかよくわからん。
亀戸のローソンで選択したのは手巻き寿司とコーヒー。疲れている確かに。何が口に合うのか分からない。この時間帯に少し重いメニューだったか。今回の反省として、走る前にもう少ししっかりとした炭水化物を摂っておかなければならないと感じた。走り始めると、胃腸の機能は低下するし。こんなの基本だがな。ちなみに、この時点で8時間経過。
この間、錦糸町両国と走り抜けたのかなと思う。錦糸町は、ちょっとヤバそうな外国人が道にわんさかいた。両国は、街は明るいが人通りは落ち着いていた。錦糸町はとにかく、ペースが自然に上がった。上げたとたんにゲロ踏みそうになった。
橋に着く。隅田川、両国橋。高速道路の明かりがきれいである。
川を渡る。警官がいる。若者が家路を急ぐ。まだまだ街は眠らない。
九段下、の文字が見える。神田とか秋葉原とか、そういう所に近くなっているらしい。国道14号を曲がらずにさら進む。9時間目のピットはパスして進む。何かしら胃がもたれて摂取できない感じがする。
中央線下。学生の頃からの「基本」線。中央線の線路というかガード下はこんなに貧弱な作りになっていたのかとびっくりする。
神田に入るまだスポーツ店が中心か。思ったより明るい。まだまだ明るい。
神田の古本街。夜来ても開いているところはほとんどない(24時間営業のDVD屋があったが)。懐かしいなと。ここには何度か来たし。その度に一日中古本探してうろうろしていたなと。
内堀通りの表示に思わず曲がる。実はこれがコースミス。しばらく経ってから気づくのだが。ちなみにここは九段会館。
内堀通りをさらに行く。この先で右手に道があったか、勝手が分からないのでUターンする。本当は行けたようだ。ここを行ったらまたその後の走りも変わったか、否、嫌、変わっていないかもしれない。それぐらいきつくなっている。眠くはないが、疲れてきた。
大きな玉ねぎの側を通る。この辺りが一番暗かったか。水分は採り足りないが腹がいっぱいで体が受け付けない。食べてはどうかとも思うが、これも摂取できない。
さらに甲州街道を進むと、甲府137キロの表示。遠い。この辺で10時間目のピットインでファミマに入る。選択したのはゼリー。すっと体に入る。しかし、休憩が長い。地図を何度も見る。気分に余裕がなくなっている。
ようやく四谷駅。四谷は、十年ほど前に、福島の出張帰りにJ大学であった研究会に参加したこともあり、結構最近の記憶がある。図書館に入ろうとして、警備員に怒られたせいで余計に鮮明に覚えている。私立のは自由に入れんとは知らんかった。母校のG大、地元のE大、結構普通に入っていたからな。そういえば、駅近くのファーストフードで朝ホットサンドか何かを食べた気がする。窓から見たその光景に、目の前の景色がダブる。
この辺りから、ルート選択のやり直しをするか、このまま行くか迷い始める。体力気力のなさで、少しでも効率のよいルートを探そうとする。でもそういうことをすること自体、多分走るのがきついという気持ちの裏返しだろう。眠くはないのだが、しんどい。でもまだ夜は明けないから走るしかないのだが。
新宿御苑の側にあるビルの1階はお洒落な飲み屋が多いなと思う。飲み屋さんに人がたくさん集っている。と思えば、その次の通りには、げえげえと苦しそうな輩、介抱する輩。
そして、空が明るくなっていることに気付く。4時前。走り始めて10時間と少し。
新宿御苑の側を抜けると、駅が見える。カップルが駅に向かって歩いている。追いかけるようにして駅に向かう。たぶん終わらせにかかっている走り方。
南新宿。学生の時、初めて降りたその日に変な宗教に捕まり、しばらく離してくれなかったことを思い出す。あの頃より、きれいになった感じがする。
遠くに都庁が見える。駅のシャッターが開く。4時。まだ時間に余裕はある。ただ行きたいと思っていたところまで距離もある。半分もういいかと思っている。
ワシントンホテルの中のコンビニで麦を買う。とりあえず終わり。躊躇いはない。せっかく来たのだからといういつもの貧乏性もない。もういい。最低限のことはできた。夜が明けるまで走れた。この時点で約11時間弱。でも、その一時間ぐらい前から気分的には走るのを止めていたのだろう。空の色が変わったからかもしれない。
缶を空けながら空を見る。ゆっくりと色が変わる。たぶんこれを見に来たのだろう間違いなく。ただまあ、少し早いリタイアだったか。今回、走ることが可能な最大の持ち時間は、約14時間。後3時間で20キロという計算は、そう大きな狂いはなく想定内だった。ただ、一方で空の色が変わるまでは何とか走り続けなければならないという別のノルマも抱えていたのだと思う。空の色が変わって、安心してしまったか。まだ3時間あるというのに、走る気にならなかった。
前回のしまなみ縦走も含め、60~70キロというのが一つの壁になるようだ。
空の色が、一段とはっきりしてくる。まだ5時前。少し離れたところで電話している兄ちゃんがいるだけ。缶を空け、ビルの合間の空を見ながら歩く。だーれもおらんぞ。気分いいな。
西新宿の通路には段ボール畳んで「出勤」の人がそこそこいた。その人たちを抜きつ抜かれつして駅に行く。まずは、上野を目指す。そこから空港に行くことにする。少し早いが、ここで時間をつぶすことは考えられなかった。
上野で蕎麦を食おうと店を探す。見つけたが300円の値段に何故か躊躇する。今考えれば普通やんか。
駅の周りをうろうろする。自分が何がしたいのかどこに行きたいのか、よく分からない。新宿で走るのを止めたツケが回ってきたのだろうか。想定してはいたが、やはり想定外だったのかもしれない。不忍池に出る。遠くに弁天堂(?)が見える。おっちゃんがごろごろいる。ベンチで煙草ふかしている。走っている人もいる。親子が散歩している。
少し足を伸ばせば湯島天神。さっさといけばいいのに何故か足が止まる。酔っている感覚はない。眠くて疲れ切った感じもない。ただ、どこに行けばいいか分からない。ここでの行動は、事前にインプットされていなかったからだ。
結局、蕎麦を止め、駅の売店(コンビニ)で麦と鶏を買う。400円弱でクレジット切る。うまかったが迷った分時間がぎりぎりになり、急いで缶を空ける。
特急で一時間あまり。ほとんど記憶なし。時々目を開けると野球少年ばかりだった。空港に着く、身分証明書が要るらしい。ない人はどうするんだろう。3階に行きコインロッカーから荷物を取り出す。300円超過料金を払う。
再び地下に降りシャワーを浴びる。千円払う。安いとはいえないが、飛行機に乗ってから隣の人が迷惑だろうし。近くのスーパー銭湯だって同じ値段ぐらいしたからこれも必要経費かと考える。
4階のショップでマクドに入る。土産物売り場をぼんやり眺める(すみません今回土産なしです)。
次の一本はゲートをくぐってからと決めている。
少し早いと思ったがゲートをくぐり、待合所に着く。早めに着こうとしてしまうのは性分だろうか、いや麦のせいか。横浜であった妹の結婚式の時、帰りの飛行機の時刻の何時間も前に着いていたらしい親のことを思い出す。麦のためではない。何をするでもなく、ぼんやりと考える時間が要るのだろう。
待合所は、まだ人も少なくて、ゆっくりと麦をいただくことができた。
昨日空港に着いてから、17時間が経過していた。20時間弱の滞在。何かしら不思議な気持ちで2缶目の麦をあおる。
飛行機は、予定通りに飛ぶようである。