スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第四部定理二六&第二部定義五説明

2016-07-24 19:26:00 | 哲学
 第四部定理二八では,最高の善bonumまた最高の徳virtusが神Deusの認識cognitioにあるということが示されていました。この理由のひとつは,神が最高に完全summe perfectumという特質proprietasを有していることです。そしてこれは認識されるものからの説明です。もうひとつ,認識する側からの理由というのもあります。それは理性ratioの特質に関係するものです。そういう特質が示されているのは第四部定理二六です。
                                     
 「我々が理性に基づいてなすすべての努力は認識することにのみ向けられる。そして精神は,理性を用いる限り,認識に役立つものしか自己に有益であると判断しない」。
 ここで認識することといわれているのは,十全に認識することという意味です。これは理性による認識が必然的にnecessario十全な認識であるということからまず明らかで,そのゆえに理性が有益と判断するのは,十全な認識に役立つことだけであり,もし事物を混乱して認識することに役立つ何かがあるのだとしたら,理性はそれを有益とは判断しないということも帰結します。
 次に努力といわれているのは,ある意欲を意味するのではありません。たとえ理性による認識であっても,精神は自動機械automa spiritualeに類するものなので,何を認識し何を認識しないのかということを精神,理性的な精神が選別できるわけではありません。第三部定理七でいわれているような意味において,それが現実的に存在する理性の本性に属しているということです。
 最後に,十全な認識に役立つものを有益であると判断するというのは,第四部定義一により,そうしたものを善と認識するという意味です。たとえばXが何かほかの事物を十全に認識することに役立つなら,理性はXを善と判断するということです。
 この最後の部分から,神の認識こそが最高の善であるということは明白であるといえるでしょう。第一部定理一五により,どんなものも神なしに十全に認識し得ないということが明らかです。だからあるものを十全に認識させることに最高に役立つのは,神,あるいは神の観念idea Deiであるからです。

 スピノザがよい定義Definitioといっている分類と,僕の分類の間で差異が生じました。ここからはその差異を埋めていく作業です。しかしそのための障害となりそうな定義がありますので,それを考察しておきます。
 第二部定義五は,スピノザが書簡九でいっている内容と照合すると,よい定義とは認められていない,単なる主張と解する余地があると思います。スピノザがこれを定義として成立すると判断したのは,その直後の説明に起因すると僕は考えます。
 「私は無限定な継続と言う。なぜなら,存在の継続は決して存在する物の本性自身によっては限定されることができないし,また同様にその起成原因によっても限定されることができないからである。起成原因は物の存在を必然的に定立するがこれを除去することはないのだから」。
 要するにスピノザは,知性intellectusがある現実的に存在する個物res singularisを十全に認識することがあったとしても,その個物の持続duratioの限界を認識することはできず,だからその持続についてはそれが無限定なものと認識する,あるいは認識せざるを得ないといっているのです。僕は現実的に存在する個物の本性には,その個物が持続するdurareものであるということが属していると考えていますから,このスピノザの説明自体は納得できます。
 厳格にいうならこの説明というのは,第二部定義二の意味とか,あるいはそれと同じような意味を事物の本性essentiaだけでなく事物の起成原因causa efficiensに対しても適用することで論証されているということになるとは思います。つまりこれは公理系の内部では定義としては不適当で,定理Propositioでなければならないということもできるでしょう。ただ,知性が現実的に存在する個物を十全に認識する,すなわちそれを概念するconcipereなら,その存在の持続を無限定と認識するというのは,公理的性格を帯びていると僕は認めることができますから,これを定義とすることを僕は許容できます。
 一方,これが定義として成立するなら,僕の分類における純粋種ではあり得ません。これは無限定な継続を持続というだけでは不十分で,持続するものが概念されることを要求するからです。なので僕の分類上は,この定義は亜種としておきます。
コメント
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