映画が始まって、すぐ、画面の文字がまるで読めない。
分かっちゃいた。
グルジアとの出会いは、数年前、
東京外国語大学の学祭でワインを飲んだことからだ。
フルボディの赤ワインは私好みだった。
グルジア古来の品種、サペラヴィだった。
そもそもワインが世界で初めて作られたのはグルジアで、
クヴェヴリという大きな甕を地中に埋めて、その中でワインを醸造する、
なんて事は後から知った。
その後、グルジアは国名をジョージアに変えた。
アメリカ寄りにしよう、ってことらしい。
それくらい、旧ソ連とその後の体制のもとで苦しんできたのだろう。
グルジアはロシア式の発音なのだ。
でも、ジョージアと言われると私にはジェイムス・ブラウンの顔が自動的に浮かんでしまう。
グルジアがジョージアなんて、
日本が国名をジャパンに改めるようなもんじゃないか。じゃないか?
グルジア人は自国のことを「サカルトヴェロ」と呼ぶようだ。
それも民族によっては差異があるらしい。
日本に例えたら「やまと」みたいなものだろうか。
日本人だって大和民族でできているわけじゃない。
反露感情には配慮したいとも思う。
でもJBの顔が…。
※
ジョージアワインのボトルには、ジョージア文字で品種名や銘柄が書いてある。
コロコロとした、独特の文字だ。
ワインを飲むたびに、この字はI、この字はS、と照らし合わせて読んでみたりするが、
憶えやしない。
映画の表題も、読めなかった。
読めたところで、意味も分からないのだが。
※
ひとことで言うと、妙ちきりんな映画だった。
そんな感想になってしまうのも、私に基礎知識が無さ過ぎるからだ。
監督がどういう人なのか、ジョージアの現代史、政情、
ジョージア映画史、といったことを何も知らない。
ワインおいしい。葡萄畑だって。観てみよう。という
薄ーーい気持ちで観に行ったのだ。分かるわけが無い。
だから、珍しくプログラムを買った。
解説が必要だ、と考えたのだ。
必要だった。
解説を読んでやっと理解できたというところが有った。
もちろん、無知のまま観ても楽しい映画ではあったが。
監督は御年86歳で、これは21年ぶりの映画作品だという。
そして、映画監督でありながら、長く国会副議長でもあったのだ。
政界での経験有ってこその本作となる。
※
読めなかった原題は「სავარძელი」。
アルファベットにすればsavardzeli。
意味は、「肘掛け椅子」だ。
なんなんだ、邦題は。
きっとジョージアワインしかジョージアについてしか知らない無知な日本人が
うっかり観に来ることを見越して付けたタイトルだろう。
ホイホイ。我こそがその手合いだよ。
観るんなら、作品のサイトで予習することをお勧めします。
http://www.moviola.jp/budoubatake/
いや、それでも足りない。
こちらの解説がおすすめ。
背景を知らないと映画が理解できない、ということがやはり書いてある。
https://www.dailyshincho.jp/article/2019/01081530/?all=1
※
もう一つ、映画が始まってわりとすぐに、聞き覚えのある言葉にハッとした。
みんな「ガーマルチョバ!」「ガーマルチョバ!」と挨拶している。
ガーマルチョバという日本のパントマイムのコンビ芸人は知っていた。
ガーマルチョバって何だろう、と調べたことも有ったが、
パントマイム芸人の名前としてしか出て来なかった。
ジョージア語のこんにちは!だったとは。
※
全編、肘掛け椅子が大活躍する。
批判的に言えば、肘掛け椅子が
権力の象徴なのか、狂言回しなのか、主人公を助けているのか祟っているのか、
よく分からない。
いろんな役割を与えちゃって不明確になっているんじゃないか、と感じた。
なんというか、独特のユーモアがあふれており、
楽しく観られる映画だった。
ワインについての僅かな知識も、観賞の助けにならないわけでもなかった。
帰りに近くの店でジョージアワインを割引で飲んで
うまい羊肉料理を食って満足。
岩波ホール、2月8日まで
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