スペースづくりコブラ

[あらすじ] 母85歳がリハビリ施設に入所中の２ヶ月のうちに、片付けをする。

マキタのハンディクリーナーで掃除しながら、
その形が何かに似ていると思ったら、サイコ・ガンじゃないの。
赤いＴシャツ着て、マキタ・ガンを構えてみる。
トレードマークの葉巻も忘れない。

※

宇宙海賊コブラを知らない人も、
ばかに赤い服ばっかり着ている芸人カズレーザーは知っているのではないか。
カズレーザーは、「コブラになる」と決めて、高校時代から赤い服を着ているらしい。

寺沢武一作の漫画の主人公だ。
左手にエネルギー波を発射するサイコ・ガンが仕込まれている。
タートル号に乗って、相棒のアーマロイド・レディと宇宙を股にかけて冒険の日々さ。

※

葉巻だって有るさ。亡父が煙草を入れていた戸棚の中に、有ったさ。
一本も吸わないで。もったいない。
でも残念ながら、もうあまり良い香りはしない。
いや、私が分からないだけか？
半日、口の中に煙草の酸味が残っていて、不快だ。

※

台所の戸棚の中を片付ける。

空き瓶が。
数える気にもなれない。
ざっと30個くらい有る。

ここにも水筒が有る。
ここにもフードカッターが有る。
ここにも魔法瓶が有る。

こっちにも何か白い粉の入ったタッパーが。
これも塩か。
これもグラニュー糖か。
こっちもきび砂糖か。
ここにも強力粉か。
こっちは何かのティーバッグか。
またお茶が何袋か。

箱の中は、梅干しだ。
頂き物の梅干しだろう、立派なものだ。
３パックも有る。ひとパックは１㎏入だ。
黒い。なぜだ。
はちみつ入り。そうか。

※

頂き物の葉巻が一本も吸われないままに湿気ているのと食べ物とでは、
わけが違う。

※

戦後、貧しくて、食べる物が無かった。だから。
と、昭和８年生まれの母は二言目には言う。いや、ひとこと目から言っている気がする。

それを言うなら、なぜ食べ物を無駄にするのか。
見えない場所に片付けて、忘れてしまう。
時間だけが経って、古くなって、駄目にしてしまって、
結局捨てることになる。

捨てるのは、大体、私の役回りになる。
食べ物を捨てるのは、胸が痛む。
忘れた本人は忘れっぱなしだ。
何かおかしい気がする。

※

もう、食べ物を捨てたくないよ。