四隅に四天王

センセイと、よく山に行った。
テントを張って泊まったり、車に泊まって朝から登ったり、
頂上近くの無人の山小屋に泊まったり。

センセイは怖い話が得意だった。
私はあんまり怪談が好きではないし、他にいくらでも話題は有るので、
二人の時にはさほど怪談にはならなかった。
大勢いる場で反応が多い時のほうが、センセイも話し甲斐が有ったのだろう。

いつぞや聞いた話に、こういうのが有る。
ある一行が雪山で遭難しかけたが、運良く山小屋に辿り着くことができた。
小屋に火は無い。灯りも無い。
四人は集まって暖を取ろうとしたが、疲れているし暗いし、どうしても眠くなる。
しかし、極寒の中で眠ったら死ぬ。
どうにか目を覚ましていなければいけない。
そこで、四人は部屋の四隅に一人づつ座った。
一人が隣の角へ移動して、そこにいる仲間の肩を叩く。
そうしたら今度は肩を叩かれた人が次の角へ行って、そこにいる仲間の肩を叩く。
こうやって、一晩中、四隅を回りながら、お互いを起こし、動き続け、
無事に夜が明け

るかー！！！

怖わわわわ！

※

幼なじみ同級生が、町内の同じ丁目内に３人いる。
深大寺四天王と、自称している。
５歳で私が引っ越して来て依頼の付き合いである。
高校まで全員同じ学校に通った。
その後はそれぞれに歩んだが、
誰一人、引っ越すでもなく、結婚するでもなかったので、
町内でたまに顔を合わせることが有った。

20年近く前に、神代植物公園のバラフェスタに行った。
10月の、夜だった。
バラの香りを楽しむのに良いということで、植物公園が
特別に夜間も開園したのだ。
その時に幼なじみを誘って、久しぶりに会った。
それ以来、月に一度、一緒に食事することになった。

誰かが「楽器をやりたい」なんて言ったので、
ウチに集まってウクレレや三線やバラライカを弾いて
何かの歌を一曲ちょいと練習してみるようになった。

毎月、みんなでできるようなできないような曲を
私が適当に選んで、私が適当にアレンジして譜面を作る。

※

さっきの話、分かりましたか？

一人目が隣の角へ行って、
そこの角にいた二人目が隣の角へ行って、
そこの角にいた三人目が隣の角へ行って、
そこの角にいた四人目が隣の角へ行って、

そこの角にいるのは一体誰ですか。

四隅を回ってその角にいた人を起こしてその人が次の角へ歩く、
という作戦は、５人いないと成立しないはずなんですぅぅぅ。

誰かがいる！誰かがいる！
一晩中、真っ暗な中、誰かがいた！！

※

月に一度、私の家に四天王が集まって、
楽器を持って一曲を練習してちょっと歌って、
それが終わったら店に行って食事したり、
冬場には鍋を囲んだりした。

しかし、今年は新型コロナウイルス感染予防ということで、
メンバーの中には職場から「３人以上の集まりに行ってはならん」との
お達しが出た者も有り、集まれなくなった。

月に一度、気心の知れた幼なじみと
あれこれの話をするのは、みんなの楽しい時間であったが、
それが無くなってしまった。

ＺＯＯＭでやるか。
とも考えた。
一人が、今までずっとガラケーだったのを、９月にスマホに替えた。
これを機会に、とも思ったが、なんとなくやっていない。

三密を避ければ良いなら、
ウチに来てもらって、換気を良くして、
そして、寄り集まらなければいいんじゃないか。

八畳間の四隅にそれぞれ座ったら、ちょうどソーシャルディスタンスが確保できる。

そして灯りを消して、
隣の角へ・・・

キャアアアア

つづく