旅にしあれば

人生の長い旅、お気に入りの歌でも口ずさみながら、
気ままに歩くとしましょうか…

青髪鬼

2022-02-19 19:28:00 | 図書館はどこですか



横溝正史少年小説コレクションシリーズ第4集「青髪鬼(せいはつき)」を
読み終えました。こちらには、新聞記者・三津木俊介と探偵小僧・御子柴進
(みこしばすすむ)少年が活躍する長編三作とノンシリーズ短編五作、未完作品
二作が収録されています。

探偵小僧ってネーミングは、"怪獣男爵”並みにへんてこりんでインパクトのある
造語のようなもので、乱歩の少年探偵団・小林少年と同様の役割を期待し横溝さんが
編み出したキャラクターです。ただ残念なことに、小林くん並みの国民的認知が
得られなかったのは周知の事実でしょう。少年ものでは活劇場面が多くなるので、
それに見合ったキャラとして肉体派の三津木が重宝されたようで、このあとシリーズ
5,6集と三津木ものが続くようです。そこで多くのコンビを組むのが御子柴くん
というわけです。

収録作中、『真珠塔』は第3集収録の『深夜の魔術師』(由利・三津木もの)の
改作であるし、また、『獣人魔島』での獣人が誕生するくだりのあらましは、
第1集の『怪獣男爵』で男爵(ゴリラ+人間のような)が生み出される背景と
話がダブっています。さすがに多作で鳴らす横溝さんとはいえ、アイデアには
限りがあるようで、これ以外にも、部分的には似たようなシチュエーションが
繰り返し出てきたりもします。追い詰められた怪人が逃げ出すのに用いる手段は
たいてい軽気球だし、潜伏場所はサーカスであることが多く、秘められたお宝を
探すために洞窟や迷宮に潜入します。ワンパターンだと言ってしまえばそれまで
ですが、一般向け小説と並行しつつこれだけの膨大な物語を生み出す創作意欲は
凄まじい限りです。しかも子供向けだからといってそんなに手を抜くこともなく、
少年少女らをどうにかしてハラハラドキドキさせてやろうと思案し、一心不乱頭を
ひねって物語を紡いだのでしょう。大人目線では「子供だまし」と見えなくも
ない設定や筋書きは確かにあれど、一般向けでは我々も簡単にミスリードされ、
難なく「大人だまし」にあうわけですからねえ、偉そうなこと言えまへん。子供の
目線まで下がり、子供が喜ぶような場面設定を悪戦苦闘しながら生み出し続けた
横溝さん、本当に書くことがお好きだった、物書きが天職だったのだと思われます。

『青髪鬼』では二大怪人が激突し、悪役・青髪鬼に変装名人・白蠟仮面(びゃくろう
かめん)が横槍を入れ割り込むことで、物語はさらに混迷の度合いを深めます。
白蠟仮面は乱歩の怪人二十面相を意識して創り出したキャラのようで、複数の作品に
またがり活躍するらしく、次の第5集のタイトルはずばり「白蠟仮面」となっています。
これもある種、横溝流少年少女らへのサービスだったんでしょうか。当時複数の横溝
作品を愛読していた彼らは、馴染みの悪党のゲスト出演にやんやの喝采をおくり、
煮え沸き立ったのかもしれないですね。

コメント
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