![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/ec/4989d8864eda27d5ee6beaa8fdd97aa5.jpg)
5月6日(月・祝日) 曇り時々雨
この前から少しづつ読み進めてきた「樽/F.W.クロフツ著」を
この天気の悪い日に片付けてしまうべく、一心不乱に読み耽った。
いわゆる古典的名作で、江戸川乱歩や横溝正史らのエッセイで
何度もその名前が登場するので作品名だけは存じ上げていたのを、
このたび縁あって読むことができた。樽の中から死体が出てくる
シチュエーションは、たとえば横溝さんの「蝶々殺人事件」では
コントラバスから死体が現れたりと、のちのち多くの作品に
影響を与えている。
それほど分厚くはない文庫本版ながら、読み切るのに相当の
時間を要した。元々翻訳もので外国人の登場人物に馴染めないうえ、
樽の輸送経路がややこしく頭がこんがらがり、しかもイギリス、
フランス、ベルギーと事件は三か国にまたがるので大変だ。
また、出だし事件の経緯が緩やかで、樽に死体らしきものが
隠されているのがわかってから、実際警察が樽を押収、死体が
確認されるまでにかなりページ数を費やすので、読み手側も
なかなかペースがあがらないのだ。
しかし、いざ事件が動き出すと徐々にペースアップし、それでも
途中ほとんどが「静」なのが、終盤突然「動」にチェンジ、
急展開気味にフィナーレを迎えるなど変則的なペース配分が、
結果、読み手を飽きさせないつくりになっている。
今日多く見られる緻密に構築された本格推理の原点、土台が、
この古い作品ですでに完成されているのがすごい。