旅にしあれば

人生の長い旅、お気に入りの歌でも口ずさみながら、
気ままに歩くとしましょうか…

「悪霊」ふたたび~乱歩殺人事件

2024-06-13 17:19:30 | 図書館はどこですか




予約順が回ってきて、図書館でお借りできたのが、「「悪霊」ふたたび~
乱歩殺人事件/芦辺拓・江戸川乱歩著」です。乱歩の未完作である悪霊を
芦辺さんが引き継いで物語を完結させました。

元来乱歩は長編が苦手らしく、その理由のひとつには、筋書きが定まらない
まま書き始めてしまうので、途中でにっちもさっちもいかなくなることが
挙げられましょう。この元ネタの悪霊も、出だし三回だけで休筆し、結局
そのまま頓挫し、筆を折ってしまいます。直近、通俗っぽい大衆向け小説で
お茶を濁していた乱歩が、久々に本格ものを書くということで、勢い込んで
執筆を始めたものの、すぐに行き詰ってしまったようでした。それにしても、
当初気合が入っていただけに、完成されている部分はとても魅力的で面白い
んですよね。あっと驚くような展開、トリック、動機、真犯人を用意しよう
と風呂敷を広げすぎて、収拾がつかなくなったのでしょうか。

乱歩好きなら未完ながらそれまでの筋書きは知っていて、期待値の高い悪霊を
完結させ、しかもなぜ乱歩が挫折し、作品を完結させられなかったのかの謎に
まで迫る二重構造にして発表したのが芦辺拓さんです。新旧文体が入り乱れ、
途中語り手が入れ替わるなどやや難解な構成は、けっして読みやすく馴染み
やすい作品として仕上げられてはいないけれど、熱心なファンを納得させる
ような形でまとめ上げてくれたことには感謝しかありません。今となっては
不適切きわまる言葉の羅列(追加記述された箇所では微妙に言い換えるなど
して軟着陸させ)、両性具有などいかにも乱歩好みの淫靡な世界観等々は
引き継がれて、新旧作者の融合は、かなり高いレベルで行われています。

密室の土蔵で全裸で殺害された未亡人、死体には細かな傷が多数つけられ、
脱ぎ捨てられた着物には謎の記号が記された紙が残されていた… 乱歩は
どんなトリック、犯人、結末を考えていたのでしょうか。いや、それらが
用意できなかったからこそ中断したのでしょうけど、万が一、今後未完
部分の構想メモなどが発見されたとしたら、読み比べてみたいですよねえ。

コメント
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