熊野古道から帰って来ました。
この旅の印象を一言で言うと、「熊野はヤワではない!」ということにつきる。もちろんこれには、たまたま重なった自然条件も影響しているのであるが、とにかく、簡単に人を寄せ付けるところではない、ということだけは分かった。
まず、羽田空港に着くとJTBの添乗員O君が「天候不順で白浜空港に着陸できるかどうかわからない。その場合は関空に降りてバスで田辺に向かうが、初日の日程をこなすのは無理だろう」と言う。案内板を見るとそのような表示がある。神は早くも安易な接近を拒んだか・・・と思えた。結果は危惧に過ぎず、無事、白浜空港に定時に降りた。もちろんわれわれは、心の中で「白浜に着陸できますように・・・」と祈り続けたのであるが。
そのような気象条件であるだけに、歩き始めると雨が降り出す・・・、やがて雨は止んで快調に歩いていたが終盤はまた降りしきり、初日はまず雨で始まった。
ところが二日目、朝目覚めると一点の雲も無い! 中辺路(なかへち)の中心部である発心門王子から、この旅の一つのハイライト“熊野本宮大社”まで快適な歩きを楽しむ。カリスマガイドとして噂の高い坂本勲生氏(82歳)の名案内に誘われてのルンルン歩行であった。午後は早くも雲が出てきて、待望の“瀞八丁”川下りは快晴とはいかなかったが、天下の名勝を十分に楽しんだ。
ところがドッコイ。三日目は朝から本格的な雨である。昨日の快晴はどこへ行ったのか、雨というより「強風つき豪雨」つまり台風みたいなもので、とうてい山道を歩くような状況ではない。「昨日ちょっと天気がよかったからといって甘えるんじゃない」と言う神の声が聞こえてくる。
ただそれでも、雨具に身を固めてひたすら歩いた。“速玉大社”にまず詣で、この旅でわたしがもう一つのハイライトと位置づけていた“那智大社”、“那智の大瀧”を目指してひたすら歩いたのである。大門坂などは写真では見ていたが、傘と杖を両手に登る300段を超える急階段は、絵で見る情緒とは質を異にする試練であった。ようやくたどり着いた“那智の大瀧”には圧倒されたが、その凄まじい轟音と水量ともども、神は容易に人を近づけない、と悟らざるを得なかった。
以降、このかけがえの無い旅の思い出を書き続けていくことになるであろう。