那智大瀧の迫力に圧倒されて、青岸渡寺、熊野那智大社と参拝して山を下る。青岸渡寺と大瀧との組み合わせ写真は、よくテレビでも見る光景だ。その最高のカメラ位置にNHKの常設カメラが据えられていた。この景色はやはり快晴の下がいいだろうと思う。塔の赤と周囲の緑に滝が映えるに違いないと思った。
本来のコースは大門坂を下る予定であったが、雨による変更で坂は上ってきたので、浜宮王子までバスで下る。そこにひっそりと残る寺こそ、かの補陀洛山寺だ。幾多の僧侶などがこの寺から極楽浄土を目指して海に向かった。有名どころでは平惟盛などもここから入水したという。中には死ぬのが怖くなって船から逃げ出したものもいたというが、やがて見つかって無理やり海に沈められたというから厳しい世界だ。
そのときに使った船が原寸大で境内の一角に残されている。住職に聞くと、かつては境内に入る鳥居の位置まで波が打ち寄せており、そこから船で海に向かったと言う。いまは住宅街となっており海も見えない。かつては、背後に熊野三山を控え、特に那智大瀧やゴトビキ岩などの御神体を背にし、穏やかにひろがる南紀の海を見て本当にその彼方に極楽浄土があると思えたのかもしれない。特に「橋抗岩」などを見ると、その向こうに極楽浄土がある錯覚に陥ったであろうと思う。
いずれにせよ、これで二泊三日の熊野古道の旅は終わった。最後は強風交じりの雨で「苦難を与えられた」が、思い返せばいい旅であった。一つ書き加えておくが、雨の中でひいた那智大社のおみくじは『一番札の大吉』であった。今まで何度も大吉を引き当てたが一番札というのは初めてだ。
恐らく神のご配慮であったのであろう。この大雨で引いたおみくじが凶とか小吉などでは二度と来てくれないだろうから最高のくじを出したのだう。
神もなかなか味なことをやるものだ。