18年飼いつづけた猫が死んだ。歌劇ボエームに登場する女性の名前をもらったムゼッタという名の猫である。名前は贅沢だが身体障害猫で、生れて数ヶ月で事故にあい左後ろ足の膝から下が効かず、その足を引きずって歩く。それゆえ戸外の生活が出来ず家の中だけで生きた。我が家に来て18年、満19歳の生涯を、午後6時30分に終えた。
障害を負った身ではあるが、いや、それ故にと言うか、ムゼッタは誇り高く、人に媚びることなく堂々と生きた。わざわざ身体障害猫をもらってきた名付け親の娘に言わせると「『ムゼッタの誇り』を持って生きた」と言うのであるが・・・。
猫の19歳は人間に換算すると92歳にあたる。(猫は生れて1年で人間の20歳になり、その後1年ごとに4歳を重ねる) さすがにこのところ老齢の様相を深め、動きが鈍くなっていた。そしてついに、5日前ぐらいから食をとらず、歩く姿もヨボヨボになってきた。面倒を見続けたワイフは死期を感じ、ほとんど毎晩寝ずの番を続けた。娘は昨夜から泊り込み、夜を徹して看病(?)した。
そして今朝方、異常な気配に午前一時過ぎに目を覚ますと、ワイフが「ムーちゃんいよいよ最期よ」と涙声で言う。その姿を見守っていたが、「誇り高きムゼッタ」の、それからの生き様は凄かった。
息もしてないと思っていたら、しばらくしてムックリ立ち上がった。二、三歩あるいてしばらく立ち止まって横になる。このようなことを繰り返して、それから約20時間、生き続けたのである。
その一つ。朝になるとムックリ立ち上がり、這うようにしてトイレ(猫用のトイレ)に向かう。ワイフが手助けしながら箱に入れると、気持ちよく用を済ました。「動物は偉い! 垂れ流しはしないのだ。」というのがワイフの言。
もう一つは最期のとき・・・。今日はたまたま私が休みで家にいた日であり、加えて次男がレッスンのため週一回わが家に来る日、その次男が婚約者と一緒に来て、みんなで見守る中で息を引き取った。わが一族6人が全て集まることなど、一年を通してあまり無い。その全員を集めてムゼッタは死んだ。
嫌いなものは食べなかった。イヤなことをすると飼い主でも引っ掻いた。
存在感のある、気位の高い猫であった。