田舎で農業実践中のゆゆさんから黒豆の苗をいただいた。とりあえず「まつたけ十字軍」の循環畑の隅っこの空きスペース(タイトル写真)とわが家の庭の超ミニミニ菜園にも植えつけた。順調に行けばちょうどビールのウマイ季節によいおつまみとなってくれるだろう。昨年、ゆゆさんがテストで作られたのを少しいただいて食べたが、ふっくらと充実した豆でとてもおいしかった。
さて、食糧供給をいつまで持続できるかが危ぶまれる昨今の日本、自分で作物を作れるようにしておくのは自衛の意味からも意義のあることであるが、気になることが一つある。「まつたけ十字軍」の循環畑やわが家の超ミニミニ菜園はもちろんのこと、農家でさえ作物の苗や種子の大半は、実は自給できていない、というか自給できない!と言っても過言ではないのだ。
周知のとおり、スーパーなんかで売っているような品種改良されたできのいい作物は、山菜のようにそこらへんで採集してくるというわけにはいかない。種や苗は、農協や種苗店、ホームセンターなどで買って来ざるをえない。さらにホームセンターや農協の先をたどって行けば“種屋=種苗会社”に行き着く。つまり、わずか40%の「自給」率農業と言えど詰まるところ“種屋”に依存しているのである。これでは真の自給とは言えず、実質自給率はほぼ0%に近い。“種屋”に「もう種を売ってやらん」と言われてしまえば一巻の終わりなのだ。
では作物の一部を採種用に回して種をとって置けばよいではないか、と考えるのは当然だ。確かに自家用だけならそれも可能である。最も改良品種の遺伝子というのは劣性も多く、代を継ぐに従って改良形質が発現しなくなったりする場合が多いのだが。
ちなみに、ご存知とは思うが農産物にも工業特許や著作権と似たような新品種作出者の権利保護策があって、日本では種苗法で品種登録された種苗を自家用以外に他人に譲ってはいけないことになっている。もし、くだんの黒豆が品種登録されているものだとすれば、ゆゆさんはそれを私に譲ったりしたら、本来ならお縄になっても文句は言えないのである。法律はそうなっている。
野生種など品種登録されていないものは栽培も流通も自由だが、生業としての近代農業では、品種改良されて品種登録された作物でないとほとんど売り物にはならない。
10年ほど前、そこにビジネスチャンスありと目をつけたモンサントは、「発芽抑制遺伝子=ターミネータージーン」を開発したバイオベンチャーを買収し、その技術を使って大儲けを企み、実際に薬剤耐性ワタや大豆や菜種などの種子を作り上げた。
その仕組みは、厳密ではないが大雑把に言えば、例えばコシヒカリの種の半分に『発芽を妨げる毒性遺伝子と、その毒性遺伝子の発現抑制遺伝子』を組み込んでおく。もう半分には『“毒性遺伝子の発現抑制遺伝子”を壊す遺伝子』を組み込んでおく。最初の栽培では毒性遺伝子は発現してこないので作物は正常に実る。しかし、できた種は先の2つの遺伝子が交配しているため、二代目の種を播いても、交配によってもたらされた『“毒性遺伝子の発現抑制遺伝子”を壊す遺伝子』によって『毒性遺伝子の発現抑制遺伝子』が破壊されるため、抑制の効かなくなった毒性遺伝子が発現して二代目種子は発芽しなくなる、というわけだ。少しややこしいがよく考えたものである。
このような、儲け至上の資本主義下においてさえもあまりにエゲツなかったモンサントの野望は、世間からブーイングを浴びてそのときは頓挫したが、やろうと思えばいつでも可能なのだ。
モンサントは自社の“ラウンドアップ”という除草剤と、それに対する耐性遺伝子を組み込んだ種子とをセットで販売して大儲けをした。ひところ遺伝子組換え大豆として日本でも「表示するのしないの」と大騒ぎになった、遺伝子組換え大豆とはまさにこれだった。
ゆゆさんも遺伝子組換え作物について書いておられるが、今後、地球温暖化が進むのを見越して、高温耐性遺伝子組換え作物とか、乾燥地耐性遺伝子組換え作物とかも準備しているだろう。表向きは「アフリカなどの高温乾燥飢餓地域を救うため」とか「来るべき食糧危機に備えて」などときれいごとをのたまうだろうが。
先日も、マイクロソフトのゲイツ財団が北洋の極寒地で様々な植物種の種子の保存を行っていることが報じられていた。表向きは「生物多様性の保護」だが、考え方一つでいつでも「種の独占」に転化しうるプロジェクトだ。
ことほどさように、食糧と“種”、とりわけ人間や家畜のエネルギー源となる穀物をめぐる世界はまさに戦争状態なのだ。日本でものんきに「きゅうり」だの「水菜」だの「大根」だの「フキ」だの、その気になれば誰でもどこでも作れてエネルギー的には足しにもならない野菜ばかり作って「食糧自給」などと言ってる場合ではない。減反などまさに売国奴的政策だ。何はさておき穀物の自給を急がなければ大変なことになる。