2008年6月24日
岐阜県監査委員 各位
住民監査請求人一同
代表者 寺町知正
岐阜県議選の選挙公営費の水増等による
過払金返還と損害回復の住民監査請求・補充書
第1 住民監査請求における岐阜県監査委員の基本的誤り
1. 岐阜県監査委員の「怠る事実」及び「請求期間」についての判断の誤りの実例
本件は、候補者と各自業者や運転手らにおける契約を前提に、不法行為としての過大請求を理由として、岐阜県の公費支出の違法性や不当利得返還責任、損害賠償責任等を争点とするものである。
岐阜県にかかる同種の事件として、岐阜県が海津市(旧海津町)に委託した県営渡船委託業務につき、海津と地元船頭・渡船組合との契約を前提にする岐阜県の公費の支出の違法性や不当利得返還責任、損害賠償責任等を争点とする次の事件において、岐阜県監査委員は、支出から1年以上前の部分を却下し、1年以内分については棄却した。
しかし、岐阜地裁、名古屋高裁は基本的に支出の1年以上前の部分について不法行為に基づく怠る事実として不当利得返還責任、損害賠償責任等認定し、返還を命じた。海津市と地元船頭・渡船組合らは、控訴審での返還命令部分につきこれを上告せず確定した。
岐阜県監査委員は、「不法行為に基づく怠る事実」の認定判断及び「請求期間の判断」において、基本的誤りをおかしている。
2. 県営渡船委託業務の住民監査請求
本件請求人の一部は、岐阜県監査委員に対し、1999年6月21日付けで「委託料は、渡船に実態がなく違法であるので、岐阜県関係分について、岐阜県関係者らに損害賠償及び海津町関係者らに不当利得返還の勧告を求める。」と旨の住民監査請求を行った。
これに対して岐阜県監査委員らは、同年8月19付けで、次の主旨で却下、棄却した。
「1. 平成七年の岐阜県情報公開条例の施行によって、公文書の開示請求が可能であったから、平成10年6月21日以前の請求は、1年を越える正当な理由はない。よってこれ以前の分は却下する。
2. 海津町関係者について請求は『県の職員』ではないから、要件を欠くので却下する。
3. 渡船は県道の一部として管理すべき責務があり、町、そして地元と委託契約している。奨励的な意味合いである補助金の性格はない。渡船場近くや漁等を行っている組合員が、当番の組合員に連絡を取ることで、常駐せずに越立業務に就く体制をとっていた。利用者の有無にかかわらず、運行を確保する契約であるから、違反ではない。
業務日誌の記載は正確を欠き、誤解を招く記載があった。大垣土木事務所の管理不備もあった。
渡船の存続の判断を含めた管理のあり方は、利用者数だけでなく、将来計画等を考慮して、知事が総合的に判断すべきものである。」
3. 岐阜地方裁判所の判決
しかし、岐阜地方裁判所(岐阜地裁平成11年(行ウ)16号県営渡船委託料損害賠償請求事件)は、2007年5月31日言渡しの判決において、次のとおり判示し返還を命じた。
(1) 法242条2項の監査請求期間の規定の適用の有無について、
「実体法上の債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求権の不行使が違法、不当であるという財産の管理を怠る事実についての監査請求も含んでいる。県の損害を確定しさえすれば足りる。委託契約の締結や支出の違法であるかを判断しなければならない関係ではないから期間制限は及ばない」(判決文40頁(3)から42ページ)とした。
(2) 法242条2項ただし書所定の「正当な理由」の有無については、
「(前記(2)のとおりだから)判断するまでもない」(判決文42頁の(4))とした。
(3)監査請求前置の有無について、
「相手方についても期間制限の適用はないから誤って却下されたもの」(判決文42頁3から43頁)とした。
(4) 委託業務の遂行にかかる虚偽報告については、
「委託精算書や業務日誌の記載内容の不自然さや体裁のずさんさにかんがみると、その記載内容は正確ではないといわざるを得ない。実情を反映した正確な記載をしていない精算書や日誌を提出して委託料を受領した被告市の行為は不法行為に当たる」(判決文48頁ウから49頁) (同56頁(1))とした。
(5) 業務を行っていないのに保険料を受領していた行為については、
「保険料が保険契約を前提にすることは常識で、契約締結事実を確認せず、漫然と県から保険料を受領していた行為は不法行為を構成する」(判決文49頁エから50頁) (同56頁(2)から57頁) とした。
(6) 市及び組合長らについて、
「諸点の不法行為ないし債務不履行が認められる。県と市の契約では船頭を常時拘束することを前提に、運営実績にかかわらず1年365日の日当と固定経費を基礎に1年間の委託料を決定していたから、市及び組合長らの船頭常駐義務違反によって、日当の支払根拠自体が覆されている。市及び組合長らの不法行為等によって県は損害を被っている。もっとも、若干は運行がなされていると認められるが、日誌は正確ではないから実績を具体的に認定することは困難である。したがって、民事訴訟法248条を適用して相当な損害額を認定すると、少なくとも実績方式(平成11年度)と同程度の運行業務がなされていたとして損害を認定する」(判決文58頁(1)から62頁)、「市の債務不履行ないし不法行為等によって県に損害が生じている」(判決文62頁(ア)から63頁)とした。
4. 名古屋高等裁判所の判決
海津市や船頭らの控訴に関して、名古屋高等裁判所(平成19年(行コ)25号 県営渡船委託料損害賠償請求控訴事件)は、2008年3月14日言い渡しの判決において、地裁判決から返還額の一割程度の減額をしたものの、基本的に上記に示した(1)ないし(6)の部分の認定は変えず、基本的に地裁判決を維持した。
5.海津市や船頭らは、上記敗訴部分につき上告せず確定したものである。
6. 以上のことから、岐阜県監査委員の怠る事実に関する住民監査請求の1年の期間制限についての認識には本質的誤りがあることが確定した。
岐阜県監査委員は、本件においては、住民監査請求の1年の期間制限に関する従前の認識を改め、本件住民監査請求に対処すべき義務を有する。
第2 相手方の特定について
本件請求人は、5月30日提出の住民監査請求において、「2003年4月」「2007年4月」の「選挙カーの燃料費」、「借上料」、「運転手日当」、「一括借上方式の場合の諸費」にかかる「水増し」等によって岐阜県に生じた損害の回復を怠ることは違法であるとして、その認定と必要な措置を勧告すること等を監査委員に求めた。
ところで、住民監査請求において、監査委員が請求人の特定が不十分として却下する例が少なくない。本件請求人は、5月30日提出の請求書及び書証において、事業者や運転手などの個人について必ずしもその全部を特定しきれていない部分があった。
よって、ここに、県民が岐阜県から情報公開で明らかにされた範囲という本質的限定の中で可能な最大限の特定をした書証を提出する。運転手の個人名などの一部に関して、岐阜県が非公開にしたものを県民がそれ以上特定することは不可能であるから監査委員の監査によって明らかにされるしかない。
なお、そもそも、仮に本住民監査請求で提出の書類において運転手の個人名のすべてが明記されていなくても、候補者との契約書の存在から、運転手(あるいは事業者等)は特定されているというべきである。
不当に過大請求していることで県の損害の発生は明らかであり、この損害の回復を怠ることは真正怠る事実として2003年及び2007年分の損害につき住民監査請求期間の制限はない。
第3 陳述について
請求人の陳述について、当初の住民監査請求の提出時、日程調整して日が合えば陳述したい旨述べ、監査委員事務局からは「おって連絡する」とのことであった。
が、未だに連絡がない。
ともかく、諸般の事情から、請求人は本書面での追加主張及び書証の補充を行うことで陳述は求めないこととする。
追加提出の事実証明書目録
第8号証 2007年4月県議選の選挙カーの借上料及び燃料費の相手方一覧表
第9号証 2007年4月県議選の選挙カーの運転手等の一覧表
第10号証 2003年4月県議選の選挙カーの借上料及び燃料費の相手方一覧表
第11号証 2003年4月県議選の選挙カーの運転手等の一覧表 以上 |