●ドキュメント・民主党代表選:決選投票シミュレーション 逆転の可能性も
毎日新聞 2011年8月29日
◇3位以下の票、流れる先は…
29日に投開票される民主党代表選は上位2候補による決選投票が行われる可能性が高く、5候補の陣営は決選投票をにらんだ多数派工作をギリギリまで繰り広げる見通しだ。2位以内に小沢一郎元代表の支持を受けた海江田万里経済産業相が入るのは確実な情勢。毎日新聞の調査で2位争いをしている3氏のうち、決選投票に誰が残るのかや他候補を支持した議員の票がどう流れるかによって、結果が逆転する可能性もある。二つのケースに分けて行方を探った。【小山由宇、青木純】
<ケース1>
◆1位、海江田氏 2位、野田氏か前原氏
◇中間派票の奪い合いに
菅政権を支えた主流派は野田佳彦財務相、前原誠司前外相の陣営に分かれて2位争いを展開。決選投票では2位以内に残った方に支持票を集中させる「2、3位連合」を想定する。
野田陣営側には支援を期待していた前原氏が「後出しジャンケン」で立候補したしこりも残るが、岡田克也幹事長、玄葉光一郎政調会長、安住淳国対委員長ら党執行部の幹部が野田氏を支援。菅グループも野田、前原両陣営を仲介する形で、グループとしてどちらを支援するかは明確にせず決選投票での主流派結束に動いた。玄葉氏は周辺に「しこりは解消された」と語っている。
両陣営はそれぞれ第1回投票での2位を目指し、支持候補を決めていない議員への働きかけで競い合う。加えて力を入れるのが、すでに支持候補を決めた議員に対する決選投票での協力要請。標的となっているのが中間派の鹿野道彦農相と馬淵澄夫前国土交通相を支持する議員たちだ。「1回目の投票は鹿野さんでも、決選投票は野田さんか前原さんに」と2人の名前を挙げる連携の動きも出てきた。
ただ、中間派には「親小沢」対「反小沢」の対決構図を嫌う議員も多く、鹿野陣営の若手議員は鹿野氏が決選投票に進めなかった場合について「(陣営として)まとまって動くことはないが、悩ましい。棄権したいくらいだ」。
馬淵陣営の若手は「うちはばらばら。草刈り場になる」とぼやく。決選投票は海江田陣営と野田・前原陣営が中間派の票を奪い合う激戦になりそうだ。
<ケース2>
◆1位、海江田氏 2位、鹿野氏
◇主流派票は鹿野氏へ
鹿野氏が2位以内に入った場合、勝敗の鍵を握るのが主流派票の動向だ。野田、前原氏を支持する議員には反小沢系が多く、決選投票では大半が鹿野氏に流れるとみられる。
しかし、69歳の鹿野氏を支持する議員はベテランや農水族が中心で、中堅・若手議員への広がりを欠き、2位争いで伸び悩む。鹿野陣営は中間派として党内融和路線をアピールする一方、小沢元代表と距離を置く議員に対しては「『海江田首相』を阻止したいなら、鹿野さんを2位にした方がいい」「決選で逆転できるのは鹿野さんだけだ」と説得攻勢をかけている。
先行する海江田陣営は「はっきりしない100票のうち30は旧民社系、残り70は(小沢色の強い)海江田さん以外のだれにするかで悩んでいる」と分析。特に「野田さんが2位に入れば、増税反対派が海江田さんに流れる」(若手)とみて、鹿野氏2位を阻止するため支持する議員の引きはがしに躍起になっている。
毎日新聞の情勢調査では、27日から28日にかけて4人が鹿野氏支持から海江田氏支持に転じ、鹿野陣営は強く反発。決選投票での協力拒否を海江田陣営にちらつかせるなど、駆け引きが激化している。
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◇海江田陣営、露骨な引きはがし工作
民主党代表選の投票を翌日に控えた28日。党内最大勢力の小沢グループが選対事務所を構えた東京・赤坂のホテル12階宴会場には、多くの国会議員や秘書たちが入れ代わり立ち代わりで詰め、前日に続いて海江田万里経済産業相(62)への支持を訴える電話作戦を展開した。
午前11時前、小沢一郎元代表が顔を出す。電話作戦は三つのグループに分かれてあたっている。元代表は1時間半余りをかけて3グループを回った。
「東京(選出の議員の動向)はどうなっている?」。質問された当選1回の衆院議員がしどろもどろになると、厳しい口調で「そんな雑なことではダメだ」。事務所内に緊張が走る。別のグループでは「大阪の比例選出議員は誰がやっているんだ。(担当者に)ちゃんとやるように言え」。
これと並行して実施されたのが他陣営の引きはがし工作だ。決選投票は不利とにらんだのか。
「今ならこっちに戻れるぞ」。鹿野道彦農相(69)陣営の複数の若手が国会近くのホテルに個別に呼び出され、露骨に海江田氏支持に回るよう説得を受けた。選対会議で報告を受けた鹿野陣営は「フェアでないことをするなら、決選投票では海江田氏に協力できない」と確認。ホテル呼び出しを担当した人物に抗議した。
「元代表は一発で決めようとすごい執念を燃やしている。鹿野陣営はどんどんはがされている」。野田佳彦財務相(54)陣営の中堅議員が指摘した。
海江田氏の「ひょう変」が奏功したケースも。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に慎重な鹿野氏支持に走っていた山田正彦前農相(小沢グループ)。海江田氏が午後2時から東京・芝公園で開かれた党主催討論会でTPPに慎重な姿勢に転じる発言をすると、海江田選対本部長の赤松広隆元農相に電話を入れた。
「間違いない。TPP推進はさせないから」と語った赤松氏に対し、「海江田さんをやらせてもらいたい。他の方にもお願いさせてもらいます」。引きはがし工作への加担まで確約した。
◇必死の電話作戦「みんな出ない」
前原誠司前外相(49)、馬淵澄夫前国土交通相(51)の陣営は、候補本人が電話で支持を訴える場面を記者団に公開した。
午後5時すぎに選対事務所に入った前原氏は、隣にいた稲富修二衆院議員がリスト上を指さすのに従うように携帯電話を手に。1件目は留守番電話で「あかん、すぐにかからへん」。2件目は女性議員につながり、「ぜひお力をいただきたい。お願いします。決められましたか? ありがとうございます」と笑みを浮かべた。
しかし、3件目は再び留守番電話。「前原です。お疲れ様です。また後ほど電話させていただきます」とメッセージを吹き込む。想定よりも票が集まっていないとされる前原氏。陣営の若手議員からは「みんな電話に出ないし、やることが少なくなってきた」との嘆きが漏れる。
馬淵氏は午後4時半からの15分間を公開。選対事務所の小さな机に陣取り、携帯電話で何本かかけるが、いずれもつかまらない。ようやくつながった電話では「しがらみのない所から頑張ってきました。一番有権者に近い立場でこの代表選を戦わせていただいていますので、力を貸していただきたい」と懇願口調。記者団に手応えを聞かれると、「大勢が決まっていれば社交辞令で済むが、皆さん本当に真剣に悩んでおられる」と語った。
◇野田氏「前原さんは大好きです」
海江田氏以外の陣営からは次々と決選投票を前提にしたコメントが出る。とくに、当初は野田氏支援で動いた前原氏が「後出しジャンケン」のように出馬したことで、一時はギクシャクした両者の関係が修復したことを受け、両陣営は結束を強調した。
それを公に示すかのような場面が党主催討論会の終盤にあった。
「前原さんのことは大好きです。まさか戦うことになるとは思いませんでした。昔の貴乃花と若乃花みたいだ」
野田氏が締めくくりの演説で、大相撲で普段は同部屋のために対戦しない「若貴兄弟」が優勝決定戦で戦ったことになぞらえながら、前原氏にエールを送った。一瞬、「うん?」と驚いたような表情を見せた前原氏だったが、約10分後には返礼のように「次の首相には協力する。野田さんが下足番なら私は庭掃除」。
午後7時すぎ、東京・紀尾井町のビルの鹿野陣営の選対事務所に鹿野氏を迎えた後、中山義活経産政務官は露骨に2位狙いを力説した。
「一人10本ずつ電話。ねじ巻いて、一票でも多く取って2番になろうということが我々の目標だ」 |