海の中で見かけるイソバナ(花虫網ヤギ目イソバナ科)は、写真のようにやや黄色がかった褐色に見える。しかし、これをカメラでストロボ撮影すると赤く枝がきらめく綺麗な写真となる。また、イソバナに外見を巧妙に似せているクダゴンベも、ストロボを焚いて撮影すると、そのチェック模様は目にも鮮やかな赤になる。
多くの場合に、海の魚はその形だけではなく外見をさまざまに変化させて、その捕食者から逃れたり逆に獲物の目を欺くように進化(隠蔽的擬態)して、種の生き残り戦略に用いている。
特に赤という色は、海の中ではカムフラージュ効果が抜群だ。というのも、赤い光は散乱しやすく、すぐに減衰してしまうため、深く潜れば潜るほど、赤色は次第に退色して行き最後はグレーに見えるようになる。このため、サクラダイ、ナガハナダイ、エビスダイ、キンメダイなど温帯の深い海には、真紅の一色の赤い魚たちが多い。また、魚だけではなく、エビ、カニ、ナマコ、ヒトデ、ウニ、サンゴ イソギンチャクなど深い海の底は赤い色の生きもの世界だ。サンゴ礁の魚たちの色とりどりな美しさとはまたちがって、彼らの生きるその深さでの灰色は、あふれる光のもとでは赤く見えるということになる。
魚の体色は、真皮にある色素胞(しきそほう)の中の色素顆粒(しきそかりゅう)の色で決まる。この色素胞は、黒色素胞、黄色素胞、赤色素胞、虹色素胞、白色素胞と5種頬あるのだが、最後の2つは色素をもたない。どんなに複雑、カラフルなチョウチョウウオでも、この5種類の色素胞の複雑な組み合せによって模様が決まる。
クダゴンベの輝くような真っ赤なチェック模様は、赤色素胞と虹胞または白胞の組み合わせである。そして、その赤い色は、えさから取り入れているものと思われるが確証はない。というのも、日本近海では比較的深い所に生息していて、なかなか目にすることができないクダゴンベなどの体色については、研究があまり進んでいないようなのだ。
深い海の底。青緑色の光がわずかに届くだけので、そこにすむ魚は、このかすかな光を頼りに、周囲を見分けているにちがいない。すべてがグレーのモノトーンの世界。ただし、生殖など必要に応じて相手を探索する場合などは、その深さによって鮮やかに発色する赤というのは、まさにサカナにとって都合の良い色なのかもしれない。
魚屋の店先で見かけるハナダイやキンメダイの眼は、そのひとみがオレンジ色に、あるいは金色にキラキラ光っている。これは、耳鼻咽喉科医が使う反射鏡のように、光を反射させて狭いところを照らす仕組みのように思われる。これを網膜タペータムというらしいのだが、キラキラ光るのは、虹胞のそれと同じグアニンのようだ。魚たちが、この光る眼で暗い海底をどう見ているのだろうか。また、人間には灰色に見える海の底の赤い色が何色に見えているのだろうか。
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