コメント欄の御質問を受けて,再考してみることとする。
株式会社と役員との関係は,委任に関する規定に従う(会社法第330条)。
余り意識されていないように思われるが,株式会社が取締役を選任し,被選任者が就任を承諾することによって,委任契約が成立していることになる。委任契約は,不要式行為であるから,書面は要せず,口頭の合意で成立する。
取締役の任期は,会社法又は定款の規定によって定まるとはいえ,委任契約の内容をなす重要な要素である。したがって,本来,委任契約の成立の時点において,「任期は,いつまで」が確認された上で,合意されていることが望ましいといえる。
被選任者が,「補欠」として選任されたのであれば,定款の規定に基づき,前任者の任期を承継する形で,任期が短縮されることになる(会社法第330条第1項ただし書,第336条第3項)のであるから,「補欠」に該当するのか否かは,選任の時点で,明確に意識されるべき事項である。
したがって,「補欠」として選任する場合には,株主総会の議案書にその旨を記載し,株主総会議事録及び就任承諾書にもその旨を明記しておくべきである。
形式的には「補欠」に該当する場合であっても,前任者の任期を承継させるのではなく,原則どおりの任期にしたい(委任契約として,そういう合意がある。)場合には,「定款第〇条第〇項の規定(補欠規定)にかかわらず,原則どおりの任期とする」旨を株主総会の決議の内容とすればよく,できれば議事録に明記しておくとよいであろう。
ところで,御質問の「取締役全員が辞任して,後任者が選任された場合」は,平成17年改正前商法時代は,「補欠」と解されていなかったが,会社法下において「補欠」と解することとされたものである。
このような場合,株式会社も後任者も,「補欠」の意識はなく,原則どおりの任期で委任契約を締結したものと理解しているであろう。
したがって,株主総会議事録等に「定款第〇条第〇項の規定(補欠規定)にかかわらず,原則どおりの任期とする」旨の明示がなかったとしても,いわゆる善解理論によって,「会社法又は定款の規定で定まる原則どおりの任期」として取り扱って差し支えないであろう。
cf.
平成20年12月27日付け「補欠監査役の「補欠」の意味」
問題は,上掲平成20年12月27日付け記事にあるように,「定款に監査役の員数は2名以内とする規定があり、また補欠監査役の任期短縮規定がある場合に、2名の監査役のうちの1名が任期途中で辞任し、後任者を選任したときに、当該後任監査役に定款の任期短縮規定が適用されるか」というケースである。
会社法第329条第3項に規定に基づく「補欠監査役」が選任されている場合であっても,このようなケース(2名の監査役のうちの1名が任期途中で辞任)では,監査役に就任することはできないことに鑑みても,選任された後任者を「補欠」と取り扱ってよいのか疑問である。現行の登記実務は,ほぼ異論なく,「補欠」として,後任監査役に定款の任期短縮規定を適用して差し支えないと理解されているのであるが。
「補欠」は,本来,「欠けた」状態を補う,と考えるのが理に適っていると思うのであるが。