司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

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地面師事件における司法書士の専門家責任に関する最高裁判決

2020-03-07 01:02:31 | 不動産登記法その他
最高裁令和2年3月6日第2小法廷判決
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89286

【判示事項】
 不動産の所有権移転登記の申請の委任を受けた司法書士に当該申請の委任者以外の者との関係において注意義務違反があるとした原審の判断に違法があるとされた事例

「司法書士法は,登記等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資することにより国民の権利の保護に寄与することを目的として(1条),登記等に関する手続の代理を業とする者として司法書士に登記等に関する業務を原則として独占させるとともに(3条1項,73条1項),司法書士に対し,当該業務に関する法令及び実務に精通して,公正かつ誠実に業務を行わなければならないものとし(2条),登記等に関する手続の専門家として公益的な責務を負わせている。
 このような司法書士の職責及び職務の性質と,不動産に関する権利の公示と取引の安全を図る不動産登記制度の目的(不動産登記法1条)に照らすと,登記申請等の委任を受けた司法書士は,その委任者との関係において,当該委任に基づき,当該登記申請に用いるべき書面相互の整合性を形式的に確認するなどの義務を負うのみならず,当該登記申請に係る登記が不動産に関する実体的権利に合致したものとなるよう,上記の確認等の過程において,当該登記申請がその申請人となるべき者以外の者による申請であること等を疑うべき相当な事由が存在する場合には,上記事由についての注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負うことがあるものと解される。そして,上記措置の要否,合理的な範囲及び程度は,当該委任に係る委任契約の内容に従って定まるものであるが,その解釈に当たっては,委任の経緯,当該登記に係る取引への当該司法書士の関与の有無及び程度,委任者の不動産取引に関する知識や経験の程度,当該登記申請に係る取引への他の資格者代理人や不動産仲介業者等の関与の有無及び態様,上記事由に係る疑いの程度,これらの者の上記事由に関する認識の程度や言動等の諸般の事情を総合考慮して判断するのが相当である。
 しかし,上記義務は,委任契約によって定まるものであるから,委任者以外の第三者との関係で同様の判断をすることはできない。もっとも,上記の司法書士の職務の内容や職責等の公益性と不動産登記制度の目的及び機能に照らすと,登記申請の委任を受けた司法書士は,委任者以外の第三者が当該登記に係る権利の得喪又は移転について重要かつ客観的な利害を有し,このことが当該司法書士に認識可能な場合において,当該第三者が当該司法書士から一定の注意喚起等を受けられるという正当な期待を有しているときは,当該第三者に対しても,上記のような注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負い,これを果たさなければ不法行為法上の責任を問われることがあるというべきである。そして,これらの義務の存否,あるいはその範囲及び程度を判断するに当たっても,上記に挙げた諸般の事情を考慮することになるが,特に,疑いの程度や,当該第三者の不動産取引に関する知識や経験の程度,当該第三者の利益を保護する他の資格者代理人あるいは不動産仲介業者等の関与の有無及び態様等をも十分に検討し,これら諸般の事情を総合考慮して,当該司法書士の役割の内容や関与の程度等に応じて判断するのが相当である。」

 草野耕一最高裁判事の「思うところを敷衍」した意見も御一読を。

cf. 「事案の概要」等
https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/2020/jiangaiyou_31_6.pdf

原審 平成30年9月19日東京高裁判決(判時2392号11頁)
https://www.trkm.co.jp/sonota/19032301.htm
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