ニッポンの会社。ラインは大変で、スタッフは天国だ、という話を書いたところ、友人から抗議のメールが届きました(笑)。
「スタッフだって、大変だ!」
彼は、大手企業の内部監査室に勤務している会計士の資格を持つ友人。
小職と異なり、緻密な分析やロジカルに何事も構造化し説明できるというスゴ腕。
「人間らしくやりたいな、人間なんだからなあ」をポリシーとするわたしに対して「甘い!」と決めつける厳しい会計マンです。
彼曰く・・・
「株主から預かった資本、組織が正常に機能するよう、またコンプライアンス上の不正が絶対に起こらないよう我々は日々努力しているんだよ。朝7時から23時まで、セブンイレブンのように仕事しているんだ。ほとんど勉強しないラインの社員を正しく導いていく、よりより会社にして株主価値を高めていくことが私のミッションだ。でも、もうクタクタだよ。飲まないとやってられないよ。」
アメリカの大学で行われた有名な実験があります。
無作為に人を募集。
それを刑務所の看守役と囚人役に分けて、それぞれの仕事の内容を説明。
刑務所を舞台にルーティンワークを進めていくと、それぞれが看守として、囚人として立ち回り始めるということです。
それぞれが「看守らしく」「囚人らしく」なってくるというのです。
ここまでは、何となく分かるのですが、問題はここから。
看守役が、囚人役に虐待や暴行を加えるようになり、囚人役もそれを甘んじて受けるようになるというのです。
結局、この心理実験はリスクが大きすぎるとして中止になったとか・・・。
今の日本の会社も、これと似たようなことが起こっているようにも思います。
コンプライアンス、内部統制、稟議、セクハラ防止、個人情報保護、パワハラ防止、何でも文書化・・・の御旗のもと、「看守」役が任命され、彼彼女は自分自身のミッションを果たすために半端じゃない努力を始めます。
何でもフォーマット化、文書化・・・今までなかった書式がイントラ上にアップされ、囚人役のライン、現場は翻弄されます。
当初は、ブーブー不平不満を言っていた反乱分子も、半年も立てば、本業を横に置いても、完全なる社内文書を作ることに専念をし始めます。
ここまで来ると、楽しい「会社ごっこ」が始まります(笑)。
何の生産性も上がっていないにもかかわらず、社内では膨大な事務処理、文書作成が行われるようになります。
そこには、わたしの友人にように有能な社員が文章や書式の一字一句までチェック、一つでも見つけると鬼の首を取ったような態度でラインに迫ります。
ここまで来ると会社も末期症状。
チェックする人間が、その存在を否定するわけもなく、この「会社ごっこ」は永遠に続いていくことになります。
大手企業にも内部統制やコンプライアンス、ISOといったマネジメント手法が入り、イノベーションやチャレンジが起こりづらくなっているように思います。
社員としてのリスクを背負って無謀な挑戦をするよりも、減点を避けて現状維持、保身のための仕事をしたふりをし続ける・・・。
サラリーマンとして賢明な選択だと思います。
かって世界を席巻した日本の家電メーカーが韓国の製造業に追い抜かれた背景には、こうした社員力、組織力の要素が大きいように思います。
しかしながら、韓国や中国の製造業もグローバル化、規模の拡大が進むにつれて日本と同じ運命をたどるようにも思えます。
このままでいくと、やがて「会社」という形態も次第に機能せず、滅んでいくようにも思えます。
かっての恐竜のように・・・。
最後に、「会社ごっこ」にまつわる小噺を一つ。
実弾が飛び交う戦場にて・・・
兵士「もう弾がありません。このままじゃ戦えません。」
隊長「分かった。すぐに作戦本部に銃弾の補給を要請する。」
無線で
隊長「最前線では、もう弾薬が残されていない。早く補給してくれ!」
本部「了解した。至急、稟議書を書き、ファックスで送れ!書式は規程の第16条に従え。」
隊長「・・・」
隊長は無線を切った後、兵士に対し、
隊長「すぐに稟議書の文案と書式をまとめて提出してくれ。早くしないと作戦本部の決裁が下りない。」
兵士「了解しました!」
兵士が文書を作成している戦場・・・まさにそこへ敵の爆弾が飛び込んできて、炸裂・・・。