木村悟が酒を毎日のように飲むようになったのは、27歳の時であった。
それまでは、自ら酒を飲むことはなく、会社の同僚や仕事関係の知人たちに誘われ週に何回か酒を飲んでいたのだ。
悟は恋愛らしい恋愛をしたことがなかった。
自意識過剰で、心を動かされた女性に何度か出会ってきたが、自ら心を開くことが出来ずに居たのだ。
臆病であったのかもしれない。
彼は比較的面食いであったが、多くの場合、それなりに魅力的な女性には既に彼氏が居たのである。
あるいは、相手の女性は多くの場合、悟を眼中に置いていなかったのだ。
つまり、悟るは女性から見て魅力的な男性ではなかったと思われる。
悟の同僚の佐野孝作は、男が惚れ込むほどの端正な容貌であった。
しかも、営業マンとして際だった実績をあげており上司ばかりではなく、女性社員からも好意的に見られていたのだ。
悟は佐野の前で卑屈になっていた。
「君はハンサムでないから、美人に好かれるよ」と唐突に佐野が言うのだ。
「美人は美男を好まない」と佐野は持論を述べ、悟るを揶揄する。
社員食堂で二人は時々、文学談義をした。
佐野は大学でドイツ文学を専攻し、ドイツ語を話せた。
悟は国文学を専攻したが、ただそれだけのことであった。
古典文学や中世文学などを専攻していれば、それなりの専門知識を誇れただろう。
だが、近代・現代文学を専攻した悟には、何ら誇れるものはなかった。
大学で学ばなくても誰もが近代小説、現代小説を読んでおり、それなりの知識があり、文学談義もできるのである。
佐野は文学談義では、谷崎潤一郎、三島由紀夫、志賀直哉、有島武郎などについて語り、「それぞれの文体で創作ができる」と豪語していた。
佐野は営業マンであったが、社内報の編集責任者をしており、編集後記には格調のある文章を毎月掲載していた。
その佐野は悟が投稿した文章にかなり手を加えたのである。
悟なりに拘りのある文章を書いていたので、手直しは屈辱であった。
悟は一人、新宿のバーで酒を飲むようになっていた。
ウイスキーのロックを飲みながら、「店の女と親しくなれないか」などと目論んでいたのだ。
それまでは、自ら酒を飲むことはなく、会社の同僚や仕事関係の知人たちに誘われ週に何回か酒を飲んでいたのだ。
悟は恋愛らしい恋愛をしたことがなかった。
自意識過剰で、心を動かされた女性に何度か出会ってきたが、自ら心を開くことが出来ずに居たのだ。
臆病であったのかもしれない。
彼は比較的面食いであったが、多くの場合、それなりに魅力的な女性には既に彼氏が居たのである。
あるいは、相手の女性は多くの場合、悟を眼中に置いていなかったのだ。
つまり、悟るは女性から見て魅力的な男性ではなかったと思われる。
悟の同僚の佐野孝作は、男が惚れ込むほどの端正な容貌であった。
しかも、営業マンとして際だった実績をあげており上司ばかりではなく、女性社員からも好意的に見られていたのだ。
悟は佐野の前で卑屈になっていた。
「君はハンサムでないから、美人に好かれるよ」と唐突に佐野が言うのだ。
「美人は美男を好まない」と佐野は持論を述べ、悟るを揶揄する。
社員食堂で二人は時々、文学談義をした。
佐野は大学でドイツ文学を専攻し、ドイツ語を話せた。
悟は国文学を専攻したが、ただそれだけのことであった。
古典文学や中世文学などを専攻していれば、それなりの専門知識を誇れただろう。
だが、近代・現代文学を専攻した悟には、何ら誇れるものはなかった。
大学で学ばなくても誰もが近代小説、現代小説を読んでおり、それなりの知識があり、文学談義もできるのである。
佐野は文学談義では、谷崎潤一郎、三島由紀夫、志賀直哉、有島武郎などについて語り、「それぞれの文体で創作ができる」と豪語していた。
佐野は営業マンであったが、社内報の編集責任者をしており、編集後記には格調のある文章を毎月掲載していた。
その佐野は悟が投稿した文章にかなり手を加えたのである。
悟なりに拘りのある文章を書いていたので、手直しは屈辱であった。
悟は一人、新宿のバーで酒を飲むようになっていた。
ウイスキーのロックを飲みながら、「店の女と親しくなれないか」などと目論んでいたのだ。