2013年10 月18日 (金曜日)
徹は約2時間余、王子駅でその人を待った。
待つ身が辛いか、待たせる身が辛いか。
だが、徹は湧き上がった恋心に賭けた。
「きっと、約束を守り来てくれるはず」
だが、虚しい確信であった。
苛立ちの中で、拳骨で駅の掲示板に怒りをぶつけた。
結局、心が荒み徹は真田から貰った2万円手にして、赤羽駅を経由して池袋駅へ向かった。
午後4時であったが秋の陽射しは、頭上から照りつけており体が汗ばむ。
徹は繁華街をうろつき回っている間に客引きの女に腕を取られた。
「お兄さん! いい男、何処へ行くの? 遊ばない」
相手の年齢は40代と思われたが、何処か徹の母親に似ていた。
不思議な感情が徹を支配した。
徹が5歳の時に、父親は暴力団の抗争に巻き込まれ亡くなったいた。
母親は水商売に転じてから、自宅に男を引き入れていた。
その男が理不尽にも暴力的であり、母親も徹も些細なことで、殴る蹴るの暴行を受けていたのだ。
「大きくなったら。仕返ししてやる」暴力に耐えながら徹は心に誓った。
徹は40代と思われ女性に主導権を握られた様でホテルへ向かった。
近くに立教大学があったので、卑屈な徹は女とホテルに入る時、左の片手で顔を覆った。
ホテルに入りまずお茶を飲む。
それから、女は風呂場へ向かう。
しばらくして湯かげを確かめながら女は振り吹きながら問う。
「あんた、いくつなの?」
「20歳です」
「若いのね。25歳くらいに見えたけど・・・」
徹は無造作に女が衣服を脱ぎ始めたので、仰天した。
「あら、どうしたの?もしかして、あんたは童貞なの?!」
徹は言葉を失った。
性行為が終わって女が3000円を求めた。
実は女が母親の面影に似ていたので、徹は罪悪感に似た感情に支配された。
「あんた、私の別れたタクシーの運転手に似ているのよ。あなんの方がハンサムだけど、私の旦那にならない、食べさせてあげる」
女はホテルの前で、徹の手を強く握った。
2013年10 月17日 (木曜日)
創作欄 徹の過去の人生 6)
思わぬ人との出会いがある。
そして、その存在が心占め、徐々に膨らんでいく。
「人を好きになる感情は、不思議なものだ」と徹は思った。
後楽園競輪場の食堂で働いていた姉さんかぶりの女性に徹は心が惹かれたのである。
父親の戦友であった真田に貰った2万円の大金を持って後楽園競輪へ行く。
幸いその日は競輪場で真田の姿を見かけることはなかった。
「あら、お一人なの?社長さんは?」
心がどぎまぎしていた徹は黙って肯いた。
一度きりの出会いであったのに、相手は徹のことを覚えていてくれた。
「君に会いに来たんだ」
徹は予め言うべきことを用意してきた。
「わたしに!」
大きな瞳が戸惑いを示した。
そして、お盆を握りしめため息をついた。
食堂は昼前であり、まだ客の姿はまばらであった。
運ばれてきたコップの水を一口飲んで、徹は前回と同じカツ丼を注文した。
カツ丼を運んできたは「もったいないような、何か、不思議な気持ちよ」と小声で言う。
徹はその言葉で、勇気を得た。
「外で会えないかな?」
「いいわよ。社長さんのお知り合いなら、断れないもの」
徹は受け入れられたのだ。
鼓動が高鳴った。
後楽園競輪は最終日であり、翌日は食堂も休みである。
「明日、映画でも一緒にどうかな?」
「私、映画大好きなの。嬉しい」
実は断られても元々と思って、徹は予め映画の入場券を2枚買っていた。
「私、王子のアパートに住んでいます」
「では、王子駅で午後2時に」
「分かりました」
食堂の手前、会話は短く切り上げた。
だが、翌日にその人は王子駅で待ったが相手は姿を見せなかった。
2013年10 月17日 (木曜日)
創作欄 徹の過去の人生 8
昭和40年秋、徹は就職活動が思わいくなく、挙句の果てに父親の戦友であった真田を頼った。
それは心情的に不本意であったが、結局は生活に窮したのである。
「この1年、徹君、何をしていたの?」
問われて徹は「就職が駄目なんです」と率直に述べた。
「そうだろう、世の中甘くない。うちで働け」真田は相変わらずパイプの煙を燻らせていた。
真田は、部屋の広さに不釣り合いな大きなデスクに座っていた。
徹は社長さんと呼ばれていた真田の職場を想像していたが、訪ねれば渋谷の道玄坂の古びたビルの10坪ほどの部屋であった。
個室から若い女性がお茶を運んできて、徹は驚いた。
その女性は後楽園競輪場の食堂で働いていた女性であった。
鋭い眼光の真田の瞳が緩んだ。
「徹君、覚えているかい?」
「ハイ!」徹は相手の視線を受けながら、その女性に上目づかいに視線を注いだ。
相手の女性は頭を下げながら屈託なく微笑んだ。
あの時の姉さんかぶりお女性は肩に被るような黒髪の長髪の人であった。
徹は黒髪で日本的に映じる長髪の女性を好ましく思っていた。
その人こそ徹の伴侶となる大迫静香であった。
静香は山形県山形市の出であり、多少の東北訛りと人柄の素朴さが徹には好ましく思われた。
「私のこと、選んでくれたんですね」静香は鎌倉でのデートの時、率直に心情を吐露した。
徹は静香の過去は知る由もない。
だが、そのことは徹にとってどうでもいいことに思われた。
後楽園競輪
--------------------------------
<参考>
競輪再開反対総決起集会
更新日 2006年10月01日
東京都知事の後楽園競輪再開表明に対して、個性ある文教都市のまちづくりを進めている我が区にとって不適当との考えから、区と区議会は速やかに反対を表明し、都知事や都議会議長へ要請書を提出するなど競輪再開を撤回させる運動を展開して参りました。また、こうした区や区議会の考えに賛同された、地域活動団体や多くの区民が参加する「(仮称)競輪再開反対文京区民連合」は、9月26日に設立総会が予定されています。
区民連合設立総会の後、区民、区及び区議会が一体となった競輪再開反対総決起集会を開催し、後楽園競輪再開の撤回を多くの区民の結集の下で働きかけていきたいと考えています。皆様のご参加をお待ちしています。
2013年9 月29日 (日曜日)
創作欄 続・徹の青春 4
月曜日、徹が地下鉄丸の内線の赤坂駅から赤坂プリンスホテルへの道を歩いていると先輩の近藤兼が背後から声をかけた。
「木村、昨日、見たぞ銀座でいい女を連れていたな! おまえさんも案外やるじゃないか。どこで女のを見つけたんだ!」
近藤は黒縁メガネの奥を光らせた。
徹は近藤の深く響くバリトンの声に気圧される。
近藤は実にハンサムである。
メガネはダテであり、自分を知的に見せるための小道具の一つだった。
近藤は電車内でいい女を毎日、物色している。
そして意図も簡単に女を魚のように釣り上げるのだ。
「女と寝るのは1回きり、後腐れがない」と豪語して憚らない男だった。
「近藤は何時か女で墓穴を掘る」と編集長の田丸勝志が釘を刺していたが、近藤の女漁りは相い変わらず継続していた。
結局、目敏い近藤は徹が恋をした八代由紀をも寝取ったのだ。
徹は近藤に憎悪を燃やしたが、八代由紀も1回切りで捨てられる運命にあった。
徹はそれ以来、女性不信に陥る。
そして新しい恋を求めたが、何時もうまく事は運ばなかったのだ。
徹は転職して、病院関係の専門新聞から薬業関係の専門新聞に勤め始めていた。
そして、東京の医薬品の小売団体の事務局に勤務する真田真理子に恋をした。
だが、真理子には既に婚約者がいたのだ。
「告白されて私、複雑な気分だけど・・・何処かにきっと、木村さんを好きになる人いるはずよ」
東京・御茶ノ水駅に近い音楽喫茶店の仄かな明かりの下、真理子の慰めは徹に虚しく聞こえた。
徹は約2時間余、王子駅でその人を待った。
待つ身が辛いか、待たせる身が辛いか。
だが、徹は湧き上がった恋心に賭けた。
「きっと、約束を守り来てくれるはず」
だが、虚しい確信であった。
苛立ちの中で、拳骨で駅の掲示板に怒りをぶつけた。
結局、心が荒み徹は真田から貰った2万円手にして、赤羽駅を経由して池袋駅へ向かった。
午後4時であったが秋の陽射しは、頭上から照りつけており体が汗ばむ。
徹は繁華街をうろつき回っている間に客引きの女に腕を取られた。
「お兄さん! いい男、何処へ行くの? 遊ばない」
相手の年齢は40代と思われたが、何処か徹の母親に似ていた。
不思議な感情が徹を支配した。
徹が5歳の時に、父親は暴力団の抗争に巻き込まれ亡くなったいた。
母親は水商売に転じてから、自宅に男を引き入れていた。
その男が理不尽にも暴力的であり、母親も徹も些細なことで、殴る蹴るの暴行を受けていたのだ。
「大きくなったら。仕返ししてやる」暴力に耐えながら徹は心に誓った。
徹は40代と思われ女性に主導権を握られた様でホテルへ向かった。
近くに立教大学があったので、卑屈な徹は女とホテルに入る時、左の片手で顔を覆った。
ホテルに入りまずお茶を飲む。
それから、女は風呂場へ向かう。
しばらくして湯かげを確かめながら女は振り吹きながら問う。
「あんた、いくつなの?」
「20歳です」
「若いのね。25歳くらいに見えたけど・・・」
徹は無造作に女が衣服を脱ぎ始めたので、仰天した。
「あら、どうしたの?もしかして、あんたは童貞なの?!」
徹は言葉を失った。
性行為が終わって女が3000円を求めた。
実は女が母親の面影に似ていたので、徹は罪悪感に似た感情に支配された。
「あんた、私の別れたタクシーの運転手に似ているのよ。あなんの方がハンサムだけど、私の旦那にならない、食べさせてあげる」
女はホテルの前で、徹の手を強く握った。
2013年10 月17日 (木曜日)
創作欄 徹の過去の人生 6)
思わぬ人との出会いがある。
そして、その存在が心占め、徐々に膨らんでいく。
「人を好きになる感情は、不思議なものだ」と徹は思った。
後楽園競輪場の食堂で働いていた姉さんかぶりの女性に徹は心が惹かれたのである。
父親の戦友であった真田に貰った2万円の大金を持って後楽園競輪へ行く。
幸いその日は競輪場で真田の姿を見かけることはなかった。
「あら、お一人なの?社長さんは?」
心がどぎまぎしていた徹は黙って肯いた。
一度きりの出会いであったのに、相手は徹のことを覚えていてくれた。
「君に会いに来たんだ」
徹は予め言うべきことを用意してきた。
「わたしに!」
大きな瞳が戸惑いを示した。
そして、お盆を握りしめため息をついた。
食堂は昼前であり、まだ客の姿はまばらであった。
運ばれてきたコップの水を一口飲んで、徹は前回と同じカツ丼を注文した。
カツ丼を運んできたは「もったいないような、何か、不思議な気持ちよ」と小声で言う。
徹はその言葉で、勇気を得た。
「外で会えないかな?」
「いいわよ。社長さんのお知り合いなら、断れないもの」
徹は受け入れられたのだ。
鼓動が高鳴った。
後楽園競輪は最終日であり、翌日は食堂も休みである。
「明日、映画でも一緒にどうかな?」
「私、映画大好きなの。嬉しい」
実は断られても元々と思って、徹は予め映画の入場券を2枚買っていた。
「私、王子のアパートに住んでいます」
「では、王子駅で午後2時に」
「分かりました」
食堂の手前、会話は短く切り上げた。
だが、翌日にその人は王子駅で待ったが相手は姿を見せなかった。
2013年10 月17日 (木曜日)
創作欄 徹の過去の人生 8
昭和40年秋、徹は就職活動が思わいくなく、挙句の果てに父親の戦友であった真田を頼った。
それは心情的に不本意であったが、結局は生活に窮したのである。
「この1年、徹君、何をしていたの?」
問われて徹は「就職が駄目なんです」と率直に述べた。
「そうだろう、世の中甘くない。うちで働け」真田は相変わらずパイプの煙を燻らせていた。
真田は、部屋の広さに不釣り合いな大きなデスクに座っていた。
徹は社長さんと呼ばれていた真田の職場を想像していたが、訪ねれば渋谷の道玄坂の古びたビルの10坪ほどの部屋であった。
個室から若い女性がお茶を運んできて、徹は驚いた。
その女性は後楽園競輪場の食堂で働いていた女性であった。
鋭い眼光の真田の瞳が緩んだ。
「徹君、覚えているかい?」
「ハイ!」徹は相手の視線を受けながら、その女性に上目づかいに視線を注いだ。
相手の女性は頭を下げながら屈託なく微笑んだ。
あの時の姉さんかぶりお女性は肩に被るような黒髪の長髪の人であった。
徹は黒髪で日本的に映じる長髪の女性を好ましく思っていた。
その人こそ徹の伴侶となる大迫静香であった。
静香は山形県山形市の出であり、多少の東北訛りと人柄の素朴さが徹には好ましく思われた。
「私のこと、選んでくれたんですね」静香は鎌倉でのデートの時、率直に心情を吐露した。
徹は静香の過去は知る由もない。
だが、そのことは徹にとってどうでもいいことに思われた。
後楽園競輪
--------------------------------
<参考>
競輪再開反対総決起集会
更新日 2006年10月01日
東京都知事の後楽園競輪再開表明に対して、個性ある文教都市のまちづくりを進めている我が区にとって不適当との考えから、区と区議会は速やかに反対を表明し、都知事や都議会議長へ要請書を提出するなど競輪再開を撤回させる運動を展開して参りました。また、こうした区や区議会の考えに賛同された、地域活動団体や多くの区民が参加する「(仮称)競輪再開反対文京区民連合」は、9月26日に設立総会が予定されています。
区民連合設立総会の後、区民、区及び区議会が一体となった競輪再開反対総決起集会を開催し、後楽園競輪再開の撤回を多くの区民の結集の下で働きかけていきたいと考えています。皆様のご参加をお待ちしています。
2013年9 月29日 (日曜日)
創作欄 続・徹の青春 4
月曜日、徹が地下鉄丸の内線の赤坂駅から赤坂プリンスホテルへの道を歩いていると先輩の近藤兼が背後から声をかけた。
「木村、昨日、見たぞ銀座でいい女を連れていたな! おまえさんも案外やるじゃないか。どこで女のを見つけたんだ!」
近藤は黒縁メガネの奥を光らせた。
徹は近藤の深く響くバリトンの声に気圧される。
近藤は実にハンサムである。
メガネはダテであり、自分を知的に見せるための小道具の一つだった。
近藤は電車内でいい女を毎日、物色している。
そして意図も簡単に女を魚のように釣り上げるのだ。
「女と寝るのは1回きり、後腐れがない」と豪語して憚らない男だった。
「近藤は何時か女で墓穴を掘る」と編集長の田丸勝志が釘を刺していたが、近藤の女漁りは相い変わらず継続していた。
結局、目敏い近藤は徹が恋をした八代由紀をも寝取ったのだ。
徹は近藤に憎悪を燃やしたが、八代由紀も1回切りで捨てられる運命にあった。
徹はそれ以来、女性不信に陥る。
そして新しい恋を求めたが、何時もうまく事は運ばなかったのだ。
徹は転職して、病院関係の専門新聞から薬業関係の専門新聞に勤め始めていた。
そして、東京の医薬品の小売団体の事務局に勤務する真田真理子に恋をした。
だが、真理子には既に婚約者がいたのだ。
「告白されて私、複雑な気分だけど・・・何処かにきっと、木村さんを好きになる人いるはずよ」
東京・御茶ノ水駅に近い音楽喫茶店の仄かな明かりの下、真理子の慰めは徹に虚しく聞こえた。