11/5(金) 10:45配信
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シーズンを2位で終えた阪神の矢野監督(左)と、同3位の巨人・原監督(右)
シーズン序盤の絶好調から一転、交流戦以降は失速し、16年ぶりのリーグ優勝を逃した阪神。シーズン終盤に大失速し、かろうじて3位でレギュラーシーズンを終えた巨人。かつて大洋(現DeNA)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊が、ヤクルトとの三つ巴の争いから両チームが脱落した要因を語った。
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「まず阪神は、危機管理能力が不足していたように思います。春先は他のチームが打線を固定できなかった一方で、阪神は外国人助っ人が間に合い、どうなるかわからなかったルーキーの佐藤(輝明)も爆発的に活躍するなど、前半戦は何もかもがうまくいきました。
『このままでいける』と思ったのかどうかはわかりませんけど、たとえば大山(悠輔)や佐藤が不振に陥った際の対応が不十分だったり、危機管理の意識が足りなかったかなと思います。首脳陣は、普通であればチームが崩れた時のことを想定してマネジメントをしていくものですが、うまくいきすぎたところもあるんでしょう。佐藤もあれだけ結果を出せば、外した時に『なぜ外すんだ』ってことになりますし」
シーズン終盤で負けられない試合が続くなか、10月26日に甲子園で行なわれた中日戦での矢野燿大監督の采配が多くのファンの間で物議を醸した。1点を追う2回裏、2死一、三塁の場面で、先発の青柳晃洋に代打・小野寺暖を送った場面だ。高木は言う。
「『瀬戸際でどういうことをするか』ですよね。最初から2位でも構わないと思っていれば他の投手を投げさせてもいいですが、あの試合は先発の柱の青柳を先発で起用した。にもかかわらず、2回で早々に替えたということは、ふだんはエースと言っていながらも、本当の意味では信頼していなかったと考えざるをえません」
さらに、シーズン終盤の矢野監督の采配は、「完全に"守り"に入っていた」と続ける。
「今季の阪神の強みはなんだったか。特に前半戦で、打てない時にも勝てた試合で力になったのは"足"です。代走の起用、盗塁の成功率も高かったですよね。でも、後半はほとんど足を使えなかった。『使わなかった』と言ったほうがいいかもしれません。『自分たちは挑戦者』と言いながらも、批判を恐れた采配をしていたように思います。
7月6日のヤクルト戦での"サイン盗み疑惑"以降、チームのバランスが崩れていきましたね。やってないにしても、疑われるのはチームのモチベーションを下げるきっかけになります。その指摘をした村上(宗隆)は肝が据わっていましたし、今季のペナントレースの流れを変えたと言ってもいいかもしれません」
一方、9月頭に15あった貯金を急速に減らしていき、10月には10連敗を喫するなど大失速した巨人。その要因のひとつとして、菅野智之、山口俊、髙橋優貴、戸郷翔征、C.C.メルセデスら先発投手の登板間隔を中4、5日に詰めたことも指摘されたが、高木はどう見ていたのか。
「投手陣が足りずに登板間隔を詰めていくのは自然な考え方なので、あとはそれで成功するか否か。結果的には失敗して、選手たちの調子が落ちて貯金を減らしていきましたが、攻めた結果ですから。巨人は開幕からずっとベストメンバーを組めなかったので、選手たちに負担がかかる戦術を取るのも仕方なかったと思います」
振り返ってみると、9月5日の阪神戦で、6点差を守りきれずに引き分けになった試合も大きかった。5回で6-0と大量リードし、中4日で先発したメルセデスをわずか69球で降板させ、坂本勇人も6回裏からベンチに下げた。しかし、代わりにショートに入った若林晃弘、廣岡大志が立て続けにエラーして失点につながった。
「そこは油断というよりも、坂本への配慮ですよね。あれだけの実績を残してきて、ショートでずっと試合に出ていて、東京五輪にも出て......。指揮官なら、休ませながら使わないとワンシーズン持たないと誰もが考えるでしょう。僕も経験がありますけど、ショートは精神的にも肉体的にも負担が大きいですから。あの阪神戦は、5回終了時に6点のリードがあれば普通は大丈夫ですけど、交代後に若手がエラーをして負けたので『采配ミスなのでは?』と言われても仕方ないですね」
8月下旬には、昨季のパ・リーグ打点王・中田翔が無償トレードで電撃加入。原辰徳監督はすぐさま中田を起用し、不振に陥ってもしばらく使い続けた。チームを勢いづける起爆剤としても期待されたが、34試合に出場し、打率.154、3本塁打、7打点という成績に終わった。
「完全に戦力として考えて獲ったと思いますし、ああいう事件があったことを結果で払拭してもらいたいという思いもあったでしょう。ただ、一軍での起用は時期尚早でしたね。早すぎて僕も驚きました。今季は、日本ハムでも打率が1割台。それが巨人に来たからといって3割打てるわけではありませんから、もう一度体を作らせてあげたほうが本人のためになったはず。事件のことを考えても、もうちょっと焦らずに準備するべきだったと思います」
悔しい思いをした阪神と巨人だが、日本シリーズ進出の可能性はもちろん残っている。11月6日から、甲子園で行なわれるクライマックスシリーズ・ファーストステージで相まみえるが、高木はまず巨人のキーマンとして菅野を挙げる。
「1戦目に先発が予定されている菅野は、今季は不本意な成績(6勝7敗)だったと思いますが、ポイントとなるような試合で登板した際には、それほど大きく崩れたケースはなかった印象です。状態も上がってきていると思うので、試合は作れるはず。逆に、シーズン終盤の阪神の打線の状態で、菅野を打てるかどうかが不安ですね」
一方、阪神のキーマンは誰になるのか。
「やはり近本(光司)がしっかり戻ってこられるかどうかでしょう。(10月下旬に負った)ケガは右ハムストリングでしたし、間に合ったとしても足が使えるのか。先ほども言ったように、阪神は苦しい時に足で点をとってきました。盗塁王のタイトルを獲得した中野(拓夢)をはじめ、代走の植田(海)や熊谷(敬宥)たちも走って1点をもぎとってきたので、CSでもそういう野球ができるかどうかですね。
阪神の投手では先発の髙橋(遥人)に注目です。左肘の具合(リーグ戦の最終登板で違和感を訴えた)が心配ですが、投げられるのであればやはり一番安定しています。巨人は10連敗もありましたが、レギュラーシーズン終了時の状態は巨人のほうがよかっただけに、髙橋で1勝して接戦に持ち込めるかに注目しています」
浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo