「双方向」の人間関係の利他の精神

2021年11月17日 11時58分23秒 | 伝えたい言葉・受けとめる力

▼「縁起」とは「すべての存在は無数無量といってよい程の因縁によって在り得ている」という。
仏教の基本思想を表す重要な用語である。

▼全ての生命は、常に他のものと触発・影響し合っている。
どんな人も必ず誰かに支えられ、自分も誰かの支えになっているはずだ。
ある時は励まされる側だった人が、別の日には励ます側になっていたりする。

「一方通行」ではなく「双方向」の人間関係の利他の精神。

▼人への思いやりは、間違いなく自分の心を癒す効果がある。
不安やストレスに苦しむ人は、その苦しみを果てしなく考え続け、自分の中に閉じ込めてしないがちになるものだ。


創作 競輪バブル 3)

2021年11月17日 10時46分08秒 | 創作欄

元木信夫は、前回の競輪では、高山を頭に本命車券を50万円も買って大損をしていた。
その負けを間接的に高山選手から返してもらったのだ。
花屋の主人は2-8の78・倍を1000円かって小さな体(1・2m)で小躍りしていた。
太田次郎は2-8を5000円押さえていたのだ。
「やはり、高山からの総流しだったな」と冷静だった。
的中車券を手にした太田の手元をみた山下修は「5000円もかったの」と驚く。
年金生活の山下は100円単位で車券を買っていたのだ。

元木は2-8を3万円買っていたことを誰にも吹聴しなかった。
深い理由はないが、的中車券を人に、これ見よがしにするとツキが逃げていくように思えたのだ。

高山選手に向かって、陰湿で人を平気傷つけるヤジを飛ばしていたヤクザ風の3人連れは、専門紙を破りすて、それを足蹴りでバラバラにした。
11月末の風は、筑波おろしを想わせた。
元の競輪仲間たちは、悪夢でもみるように優勝した高山選手のウニ人グランを目で追っていたのだ。

「今日のような、高山の走りは、競輪仲間からは、容認されないな」と君島太一が言うのだ。
「確かに、あんなレースを2度としたら、高山は仲間から相手にされなくなるぞ。ライン無視じゃ、高山に前を任せた春田の面子潰れよ。抑え先行でも、あのメンバーでは高山は頭を取れたんだ」社長と呼ばれている君島が指摘する。
その彼の張りのある声は、周囲によく響き、車券が紙クズとなった多くのファンの気持ちを代弁してくれた。
「勝てば官軍」と太田は払い戻し場へ向かった。
「元さんも、当然、車券取ってよね」一歩先を歩く元木に太田が背後から声を掛ける。
元木はVサインをする。
「さすがだ!」太田は相好を崩す。


筑波颪(つくばおろし)は、茨城県南部から千葉県北部にかけての地域で冬期に吹く北西風。

なお、それから数年後「暴力団・コーチ屋の入場お断り」の警告出される。
健全は競輪場を目指し、酒も持ち込み禁止に。
だが、場所を設けて未だに喫煙は有されいる。
そのタバコの煙は、否応なくドアを解放しているので場内に流れてくるのだ。


創作 競輪バブル 人間模様 2)

2021年11月17日 08時25分18秒 | 創作欄

競輪のレースは、先導する誘導員が居て、1周目から2週目に移行する中で各ラインの並びが定まって行く。

この日のレースは、異様であったのだ。

1コーナースタンドからは、選手に向かってヤジが激しく飛んでいた。

「オイ、高山帰れ、死んじまえ!」

「お前は、家で寝ていろ」

段々とヤジは辛辣となり、個人攻撃は陰湿になってゆくのだ。

「高山、足が白いぞ、お前は練習ろくにしてねえな!」

選手たちが周回を重ねごとに、ヤジは激しくなった。

ヤジの主は地元の元木たちが見たこともないヤクザ風の3人連れで、最前列の席で叫んでおり、ビンビンと響く声であり、怒声はドスが効いていて、選手の胸にグサリとっ刺さる鋭さを宿していた。

それに反発するように、中段から高山選手は早めに先行した。

ジャン前の発進であってスタンドからどよめきが起きた。

「高山、仕掛けが早すぎるぞ!」

そのファンの叫びを嘲笑うように高山選手は果敢に先行し、番手をマークする同県の春田選手を引き千切っしまったのだ。

スタンドは一層大きくどよめいて、本命ラインで車券を買っていたファンの夢を打ち砕いてしまった。

高山選手は理不尽なヤジに自棄になり暴走したとしか想われなかった。

元木は、ジャンの音を聞きながら、高木選手は2周近くを逃げ切ってしまうだろうと思ってみた。

追走する選手たちは、高木選手のハイペースに戸惑うともに、まだ互いに牽制し合うばかりだった。

暴走とも考えられる高山選手の走りに、他の選手らは楽にゴール前で捕らえられる、後は誰が主導権を握って追走するかに焦点が絞られたか、楽観的に見過ごされていたようだ。

だが、8人の選手たちはタカを括って、高山選手のマイペースの逃げを許してしまっていた。

スタンドの大きなどよめきに、選手たちが認識の誤り気付いた時は、高木選手は4コーナーを回り、直線へ向かっていた。

だが、残りの選手たちはまだ3コーナーから4コーナーに向かいつつあった。

結局、高山選手は50メートル以上の大差で逃げ切ってしまう。

そして、最も弱いラインの逃げ選手がゴール前の混戦のなかを抜け出し、2着を確保した。

その車券は2番高山選手から最も配当が高い、78・4倍の車券となった。

元木は、その車券を3万円買っていたのだ。

車番の2-8は、元木の誕生日11月28日から選んでいた。

彼の40歳の人生の区切りとして、ふところの10万円のうち3万円を2-8に投じたていた。

多くの競輪ファンの怒りの声や非難コウゴウとした言葉にならぬ叫びのなかで、元木は「やった!」と胸の内で喝采する。

 

 

 


創作 競輪バブル 人間模様

2021年11月17日 08時25分18秒 | 創作欄

太田次郎は、18金100グラムのブレスレットを左腕に2重巻き装着していた。
70万円以上するものだ。
また、太田は寅年なので虎の彫刻が施された太いシルバーの指輪を右手の中指に光らせていた。
「元さん、お前さんのツキを貰いたいから、隣にすわりますよ」太田は態度は丁重だが、周囲を威圧するガタイだ。
身長187㎝、体重82キロで、スポーツ刈りの頭が示す通りの体育会系だ。
取手競輪場1コーナーに近い正面スタンドの最後部席一列は、一見ヤクザ風の男たちで占められていた。
競輪仲間から社長と呼ばれた君島太一は、100キロを優に超える体で、グレーに黄色い縦縞模様のスーツ姿で時に目立つ存在である。
君島はスーツの内ポケットやダブダブのズボンの脇ポケットに1万円札が無造作に入れていた。
そして、車券を買う際には一掴み数万円を取り出し、穴場へ投じていた。
「金持ちには、かなわんな」年金生活の山下修は隣の列で車券を買いながら首をすくめる。
君島は、競輪で買っても負けても赤ら顔に笑みを浮かべていた。
少し太い眉毛に白いものが混じっていて、八の字のそれは大きな瞳をいっそう温和にしていた。
競輪選手たちが入場してくると、1コーナーのスタンド席は、張り詰めた空気の中に笑い声も交差し、独特な雰囲気に包まれた。
「神山、絶対頭だぞ」
「何だ栃木の神様の登場じゃないか」と花屋の店主の村瀬利男がボーイソプラノでおどけるので、そのキンキン声にどっと笑いがスタントを包んだ。
村瀬の身長1・2メールほどで、子どものように小柄だった。
頭も小さくいが栗のようだ。
彼はソープ好きで、早朝から放出してきた。
ソープ嬢は子どもを抱いている感じて愛でながら村瀬に奉仕する。
行為の後に村瀬は毎度、お守り代わりに陰毛を頂戴してくる。
「オイ、高山、選手やめろ。松戸でとぼけやがって」スナックのマスターの宍戸健は野太い声を張り上げる。
前回の松戸競輪決勝戦で本命を背負った高山選手は、捲り不発に終わって万車券を生み出してしまったのだ。
宍戸は高山選手を頭に3点、15万円投じたのに、まさかのレース結果、罵声が飛び交い、非難はごうごうとスタンド席に起こった。
本命を背負った以上、高山選手は積極的に先行し、主導権を握らなければならなかったのだ。
レースの展開のアヤであり、一番弱いラインが思い切って先行発進する。
別線が中段を取っていたのに、後方に置かれた本命ラインを牽制し、大きく車間を開けたために、最も人気薄のライン3車の逃げ切りを許してしまったのである。
短い33番バンクの怖さでもあって、仕掛けるタイミングを逸すると、どんなに力の差があっても捲り不発に終わってしまう。
本命の高山選手の油断である。
最後の1周から、スタンドには既に怒りと絶望感が渦巻いていた。
元木勇作も大損していまい「高山許さん!」と歯ぎしりをする。
「高山、今日は責任取れよ!」太田次郎は1コーナーに差し掛かった高山選手に声を掛ける。
ヘルメットを下げるようにして頷く高山選手には、松戸競輪の決勝戦の屈辱が身に沁み込んでいたのだろう。
競輪は、<一過性の賭け事ではない>と元木は考えていた。
同時に極めて人間臭いレース展開が繰り広げられる。
走る格闘技とも言われ、勝負どころでは反則ギリギリの攻防がある。
そのため、年金生活の山下ほどの長い競輪歴となると、選手気質の変遷が頭に沁み込んでいて、かえってレースを深読みしてしまうのである。
結果として、守りの姿勢に陥り、買い目が広がってしまう。
本命ラインに期待しすぎるのも、アリ地獄のようなものだ。