生きことは、人の死にも遭遇することである。
57歳の母の死。その母を裏切った父親の死。
36歳の友人の死、彼は真冬も半袖姿だった。
三島由紀夫に心酔していた友人の能美孝雄はボディビルで体を鍛えていた。
その彼がジョギング中に心筋梗塞で急死する。
友人たちは「能美は死に向かって、走っていたんだな」と通夜の席で言うのだ。
昭は能美の死に顔を確りと目に留めた。
「死の顔を見るのはダメだ」とお棺に近づかない友人もいたが、昭は躊躇することなく、多くの「死に顔」に接してきた。
母親を裏切った父親の「死に顔」が、眠るように穏やかであったことに、昭は言い知れぬ感慨に陥った。
そして、一人娘を残して34歳で行ったと桜山愛の死にも遭遇する。
「私の体を知っている男ね。共白髪まで生きるのね」彼女は昭に抱かれた東京・目黒の下宿先の4畳半の愛の部屋で言う。
愛は妻以外に深い関係になった唯一の人だった。
だが、人妻になった桜山愛の「死に顔」に接することができなかっことがいつまでも残る悔いでもあった。
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