今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「フィクション fiction という言葉を英語の字引でひくと虚構とある。キョコウと口で言い、耳できいただけでは何のことか分らない。時と場合によって作り話、絵そらごと、小説と私は訳している。」
「アンカーは錨(いかり)であるが、スポーツの世界ではリレーの最終走者、または泳者である。錨と最終走(泳)者の間は離れすぎて素人には同じアンカーとは思えない。活字の業界では最後に原稿にまとめる人とあるから、これでようやくつながった。コピー copy は普通写しだが、広告界では広告文案である。」
「むかし中野重治は『コミット、パースナリティ、アイデンティティ、アビリティ、コンテクスト以下概念のあいまいなカタカナ語ばかりで語りあうインテリの出す結論は、あいまいなものにきまっている』というほどのことを書いた。当時の病(やま)いは高じるばかりである。すでにアパレル業界では、この冬は柄(がら)ではストライプが流行ってきている。ストライプにはチョーク・ストライプ、ピン・ストライプ、ヘヤ・ライン……などと言ってついに日本語は『てにをは』を残すのみになった。」
(山本夏彦著「一寸さきはヤミがいい」新潮社刊 所収)
「フィクション fiction という言葉を英語の字引でひくと虚構とある。キョコウと口で言い、耳できいただけでは何のことか分らない。時と場合によって作り話、絵そらごと、小説と私は訳している。」
「アンカーは錨(いかり)であるが、スポーツの世界ではリレーの最終走者、または泳者である。錨と最終走(泳)者の間は離れすぎて素人には同じアンカーとは思えない。活字の業界では最後に原稿にまとめる人とあるから、これでようやくつながった。コピー copy は普通写しだが、広告界では広告文案である。」
「むかし中野重治は『コミット、パースナリティ、アイデンティティ、アビリティ、コンテクスト以下概念のあいまいなカタカナ語ばかりで語りあうインテリの出す結論は、あいまいなものにきまっている』というほどのことを書いた。当時の病(やま)いは高じるばかりである。すでにアパレル業界では、この冬は柄(がら)ではストライプが流行ってきている。ストライプにはチョーク・ストライプ、ピン・ストライプ、ヘヤ・ライン……などと言ってついに日本語は『てにをは』を残すのみになった。」
(山本夏彦著「一寸さきはヤミがいい」新潮社刊 所収)