「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

千日紅の恋人 Long Good-bye 2023・11・02

2023-11-02 05:30:00 | Weblog

 

  今日の「 お気に入り 」は 、帚木蓬生さんの「 千日紅の恋人 」 。

  この小説の女主人公は 宗像時子 ( むなかた ときこ ) 、38歳 。

  自分の名前について「 わたしはいや 。ずっと嫌い 。ついでに言うと 、

 宗像 ( むなかた ) という姓も気に入らん 。宗像時子なんて 、

 戦国時代の奥方の名前よ 。男運が悪かったのも 、そのせいよ 、

 きっと 」と語っている 。

  はじめの夫とは死別し 、二度目の夫とは離婚し 、六年前から「 サン

 ライズ 」という名の福祉施設「 特養 」で月に20日ほど「 ヘルパー 」

 として働く傍ら 、近くで独り暮らしをする母親 宗像峰子が所有する 、

 14世帯が入居する老朽化したアパート  扇荘 の「 管理人 」を務めて

 いる 。 毎月一回 、アパートに住む14世帯から月家賃3万円を戸別

 訪問して集金して回る 。父親が建て 、父親亡きあと 、今は七十代の

 母が所有する 、小さなアパートを大事にして 、細かな揉め事 、修繕 、

 住人の交代などに行き届いた対応をする「 管理人 」として 、周囲の

 皆の信頼を得ている 。

  そんな 「 ヘルパー 」兼「 管理人 」の女主人公が日々の生活

 で出会う人々との交流が 、時子の視点で描かれている 、重ねて

 言うが 、「 恋愛小説 」 。

  そんな小説の中で「 介護 」の世界は 、ヘルパー2級の講習で

 使われる教則本の中の説明文のように淡々と解説される 。

  そのくだりを 、備忘のため 、抜き書き 。

  引用はじめ 。

 「 特別養護老人ホーム の正式名称は 介護老人福祉施設 で 、

  一般に 特養 と略されている 。その他に 老健 と呼ば

  れる 介護老人保健施設 があり 、双方とも介護保険の対象

  になっている 。特養 がほとんど死ぬまで介護するのに対し

  て 、老健 のケアは在宅復帰を目的としている 。施設サー

  ビスには 、ほかに 、老人福祉法に規定された養護老人ホー

  ム老人ホーム 、公的補助の全くない有料老人ホームがあ

  る 。 」

  ( ´_ゝ`)

 「 人間誰しも老齢になると 、他人の世話を受けなければなら

  なくなる 。この摂理からはずれるのは 、若いうちに病死か

  事故死か自死する場合のみで 、あくまで少数派だ 。大部分

  の日本人は高齢に達すると 、要介護認定を受けるはめになる 。

  その度合いは 、要支援1と2と 、1から5まである要介護の

  七段階に分けられ 、介護のための給付額が決まってくる 。時

  子が勤務する特養で生活できるのは 、せいぜい要介護が3以上 、

  大半は要介護度4か5の頭も身体も不自由になったお年寄りば

  かりだ 。

   これに対して 、リハビリ中心の 老健 には 、足腰が比較的

  達者で 、多少の痴呆もある介護度2か3の高齢者が入所する 。

   しかし終 ( つい ) の棲家 ( すみか ) ではなく 、三ヵ月から

  六ヵ月 、一年くらいで追い出される 。

  これとは対照的に 、建て前上 最期 ( さいご ) まで住めるよう

  に なっているのが グループホーム と ケアハウス だ 。グルー

  プホーム は通常の住宅で 、最大九人のお年寄りが一緒に住み 、

  介護者も同居して 、食事 、入浴など身の回りの世話をしてやる 。

  いうなれば通いではなく住み込みの宅老所と思えばいい 。軽費

  老人ホームの一種とはいえ高級感のあるケアハウスはいわゆる老

  人マンションで 、自炊ができない程度の障害の軽い高齢者が個室

  に住み 、共有の食堂や浴場を自由に利用する 。もちろん 、必要

  となれば 、看護師の世話や嘱託医師の診察も容易に受けられる 。 」

  ( ´_ゝ`)

 「 老人の終の棲家が千差万別なのは 、それだけ高齢者介護の市場が

  広いからだろう 。老人が持っている財産や年金を 、大勢が寄って

  たかって 、手を替え品を替えて少しずつもぎ取り 、ちょうど

  貯 ( たくわ ) えが底をついた頃に 、寿命も終わる仕組みにな

  っている 。 ( 仕組みはそうだが 、老人ホーム の場合 、入居一時金の償却期間が経過した後 、

               貯えが底をついたあとも 、年金や仕送りだけを頼りに生き続けるはめになることはある )

   時子にしても 、そのおこぼれを頂戴しているのは間違いない 。

  時給九百円で 、一日五 、六時間 、ひと月二十日は働くので 、

  十万円以上は手にすることができる 。たまに 、残業すれば 、十四

  万円になる月もある 。 ( 国からの給付を含め 、当の高齢者がすべての所得の源泉である )

   その代わり 、仕事は重労働だ 。おむつ替えに食事の介助 、入

  浴介助 、車椅子を押しての散歩 、口内清拭 ( せいしき ) 、髪

  梳きに化粧と 、仕事が途切れることはほとんどない 。

  その中でも一番の重労働は入浴介助で 、週三日 、パートタイ

  ムの職員は必ず出陣を要求される 。

   パンツにTシャツといういで立ちでないと 、風呂場では熱気に

  やられてしまう 。それでも汗が噴き出してしまうので 、着替え

  は欠かせない 。

   介護を受ける高齢者が肥満体なのは罪 ―― 。 これが六年間サ

  ンライズで働いた時子の感想だ 。( 「 サンライズ 」は時子が働いている 「 特養 」の名称 )

   体重が六十キロまではまだ許せる 。しかし七十 、八十キロの

  老人は 、それだけで介護の手を取り 、介護者の健康を害する 。

   車椅子からかかえ上げるときに 、体重が三十キロの入所者と八

  十キロの老人では 、必要とする 力 が五倍は違う 。

    おむつ替えのときも同様で 、三十キロのおばあちゃんなら 、あ

  っち向きこっち向きさせて 、ひとりででも替えられる 。ときに

  は 、赤ん坊のおむつ替えのように 、両足を片手で持ち上げ 、手

  早く替えることも可能だ 。

   しかし八十キロの巨体はそうはいかない 。転がすのも二人がかり、

  それもベッドに上がって 、大木転がしと同じように 、掛け声とと

  もにやる 。

   だから 、肥った老人は存在そのものがうとましい 。反対に小柄な

  高齢者は好まれる 。少女のように可愛らしいところがあれば 、な

  おさら好かれる 。

   自分が老人になったらどうか 。時子はよく考える 。高校時代は百

  六十センチあって 、体重は四十七か八で 、五十キロを超えること

  はなかった 。二十年たった今 、五キロ増えたものの 、やはり五十

  五キロ以上になることはない 。できれば 、老人になったとき昔の

  五十キロ以下に戻っていたい 。

   母親の峰子は六十五キロの肥満体だった 。今のところヘルパー

  もいらない一人暮らしで 、名目上の要介護度は2だ 。将来デイ

  サービスに通い 、入浴するようになれば嫌われ者になりはしない

  か心配ではある 。 」

  引用おわり 。

  (* ̄- ̄) ( ´_ゝ`)

  こうした解説だけを読むと 、これが恋愛小説かと思い始めるが 、

 読み進めると 、やはり恋愛小説だと得心がいく 。

  「 閉鎖病棟 」とは趣を異にする作品 。

 ( ついでながらの

   筆者註 :「 帚木 蓬生( ははきぎ ほうせい 、1947年 - )は 、日本の

        小説家 、精神科医  。

         ペンネームは 、『 源氏物語 』五十四帖の巻名 『 帚木( はは

        きぎ )』 と 『 蓬生( よもぎう )』 から 。本名は 森山成彬

       ( もりやま なりあきら )

       経 歴

        福岡県小郡市生まれ 。福岡県立明善高等学校卒 、九州

       大学医学部卒 、東京大学文学部仏文科卒 。

        東京大学仏文科卒業後 TBSに勤務 。2年後に退職し 、

       九州大学医学部を経て 精神科医 に 転身する 。その傍らで

       執筆活動に励む 。

        1979年 、『 白い夏の墓標 』 で注目を集める 。1992年 、

       『 三たびの海峡 』 で 第14回吉川英治文学新人賞受賞 。

       八幡厚生病院診療部長を務める 。2005年 、福岡県中間市

       にて精神科・心療内科を開業 。開業医として活動しながら 、

       執筆活動を続けている 。

        医学に関わる作品が多く 、また自身( 精神科医 )の立場

       から 『 ギャンブル依存とたたかう 』 を上梓している 。

        2008年 、短編 『 終診 』( 『 風花病棟 』 に収録 )を執筆

       後に たまたま受けた定期検査で 急性骨髄性白血病に罹って

       いることが判明 。半年間の入院生活の後 、復帰した 。

        2019年 、小郡市ふるさと文化大使に任命される 。 」

        「 センニチコウ( 千日紅 、学名 Gomphrena globosa )は 、

        ヒユ科の 春播き一年草 である 。園芸植物として栽培されて

       いる 。別名 千日草( せんにちそう ) 。

       形 態

        草丈は 50cmくらい 、近縁種の キバナセンニチコウ では 1m

       近くになり 、よく分枝し 、葉は対生し 、細長く 、白みを帯び

       ている 。全草に粗い毛が生えている 。花は 7月から9月 にか

       けて咲き 、直径 2-3cm で 、松かさを少し押しつぶしたような

       形をしている 。 」

       以上ウィキ情報 。)

 

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