「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

寝るほど楽はなかりけり Long Good-bye 2023・11・25

2023-11-25 05:44:00 | Weblog

 

  今日の「 お気に入り 」は 、平松洋子さんのエッセイ

 「 なつかしいひと 」( 新潮社 刊 ) から「 背後の気配 」

  と題した小文の一節 。

  備忘のため 、抜き書き 。

  引用はじめ 。

 「  がさり

  背中のうしろでかすかな音が鳴った 。

   辻角のちいさな駐車場にひとりで立っている 。連れはさっき料

  金を支払いに行ったから 、ほかに誰もいないはずなのに 、あわ

  てて振り返ってみるとやっぱりだれもおらず 、空耳だったのだと

  思い直す 。

   ばさっがさがさ

   こんどは風を孕んだ 、ふくらみのあるおおきな音だ 。どうやら

  空耳ではなかったようだ 。急に落ち着きをなくし 、音の正体を

  捕まえようとあたりを見回す 。

   用心ぶかく背後をにらみながら 、はんぶん脅えて視線を彷徨わ

  せると ―― 。なーんだ 。スーパーのレジ袋がふくらんで転がっ

  ており 、内側に風が吹きこむたび宙に浮いて騒いでいる 、その

  音なのだった 。

   風が止めば 、音も止む 。けれども 、いったん気配を感じてし

  まったから 、もうたったひとりではなくなってしまった 。 」

  引用おわり 。

  ( ´_ゝ`)

   よその国と比べれば 、比較的 平和な この日本でも 、年寄りにとって

  気の抜けない社会状況があるのは 悲しいが 、現実 。

   日々 気を張って 、心深く 、目配り怠りなく 、暮らさねば 。

   食品価格の高騰は 、高齢の年金生活者の生活を直撃し 、蝕んでいく 。

  ( ´_ゝ`)

   以下 、沢村貞子さんのエッセイ「 老いの楽しみ 」( 筑摩書房 刊 )

  の中の「 老いを思い知る 」と題した小文の一節 。もひとつ 、今日の

  「 お気に入り 」 。

   引用はじめ 。

  「 老いるということは 、なんとも悲しい 。齢ごとに頬はこけ 、

   眼はくぼみ 、髪は白く薄くなるばかり 。手馴れた家事をしよ

   うとしても 、掃除器さえ思うように動かせず 、煮ものの鍋は

   重いし 、柱の釘も 、まっすぐには打てない 。ときおり ・・・

   雑巾をもってヨタヨタと歩く自分の姿が姿見にうつったりする

   と 、ぞっとする 。何をしても疲れが烈しく 、もの忘れはます

   ますひどく ・・・ つい 、愚痴のひとつも言いたくなる 。

   『 まったく 、ひどいねえ 、若いときはこんなことはなかった

   のに ・・・ いくらなんでも 、もうすこし 、なんとかならない

   ものかねえ 』

    わが家では ・・・ どちらか一人がそう言って嘆いたりすると

   ・・・ 相手はすぐ 、冷たい顔でハッキリ言うことになっている 。

   『 だめですねえ 。なんともなりませんよ 。失礼ですけれど 、

   あなた 、おいくつですか 』

    そのトタンに 、嘆いた方は 、

   『 え? あ ・・・ そうか 、そりゃあそうだ 』

    とニヤリと笑って 、すぐあきらめて ―― それでおしまい 。

   つまり 、お互いに ―― 人間は二十歳ごろから 、一日十万

  個の脳細胞が失われてゆく 、ということを 、耳学問で知って

  いるからである 。

   その勘定でゆくと 、私たちの場合 ―― 十万個を三百六十五倍

  して 、さらに 、六十何倍かしただけの脳細胞が 、すでにもう 、

  なくなっているわけだから ・・・ 残りの細胞は 、どっちみち 、

  いくらもないはず 。どんなに丈夫な金属でも 、使いすぎれば 、

  金属疲労という現象がおきるということ ―― 私たち老人が 、あ

  っちこっちガタガタしてくるのは 、ごく当り前 ―― というわけ

  になる 。

  『 ま 、仕方がないでしょう 、お互いに ・・・ 』

   そうあきらめれば 、すっと 、気が軽くなる 。夫婦とも寝つきが

  いいのは 、そのせいかも知れない 。

   床の上に脚をのばして 、

  『 ヤレヤレ 、今日もなんとかすぎました 。無事でけっこう ――

  寝るほど楽があるなかに 、浮世のバカが起きて働く 』 ( 「 寝るほど楽はなかりけり 、・・・ 」とも )

  などと ―― 働きものだった亡母の口真似をしているうちに 、もう 、

  ぐっすり眠ってしまうから ―― まことにもって 、後生楽 ( ごしょ

  うらく ) 。( 後 略 )

  ( 沢村貞子著 「 老いの楽しみ 」 ちくま文庫 所収 )」 

  引用おわり 。

   子どもの頃 「 世の中に寝るほど楽はなかりけり 起きて働くバカもいる 」

  と聞いたことがある 。五・七・五・七・五 ( ん? みそひともじじゃない ) 。

  ( ついでながらの

    筆者註:「 沢村 貞子( さわむら さだこ 、旧字体:澤村 、1908年
        11月11日 - 1996年8月16日 )は 、日本の女優 、随筆家 。
        本名は 大橋貞子( おおはし ていこ )。
         生涯に350本以上の映画に出演し 、幅広い役柄と個性的な
        演技で名脇役女優として活躍した 。日本女子大学在学中に
        新築地劇団へ入り 、左翼演劇運動に加わって 2度逮捕され
        る 。その後 日活に入社して 映画女優となり 、東宝を経て
        戦後は フリーとなる 。エッセイスト としても知られ 、 
        半生記 『 貝のうた 』『 私の浅草 』 などを発表している 。」

       「 配偶者 今村重雄(1931年 - 1933年)
            藤原釜足(1936年 - 1946年)
            大橋恭彦(1968年 - 1994年)死別

        著名な 家族  ( ん? ) 
         父:竹芝傳蔵  狂言作者 ( 本名:加藤伝九郎 )
         姉:矢島せい子
         兄:四代目澤村國太郎 ( 本名:加藤友一 )
         弟:加東大介 ( 本名:加藤徳之助 )   
         甥:長門裕之
         甥:津川雅彦
         姪:加藤勢津子 

        以上ウィキ情報 。

         晩年は 、逗子の海浜のマンションにお住まいだったかと 。

         そう 、作家の川端康成さん ( 1899 - 1972 ) がお住まいだったマン

        ションと同じとこ 。

         明治41年生まれの 沢村貞子さん 、明治39年生まれの 杉村春子

        さん 、ともに戦前・戦中・戦後 を渋とく生きた 女優さん 。

         時々お二人を混同してしまうが 、共通してるのは 男どもとは 比べ

        ものにならない 気の強さ 。生命力でも 、鈍感力でも 、オスはメス

        に敵わない 。)  

 

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