「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

脱・幸福論 Long Good-bye 2023・11・13

2023-11-13 05:43:00 | Weblog

 

  今日の「 お気に入り 」は 、山田太一さんのエッセイ

 「 夕暮れの時間に 」( 河出書房新社 刊 ) から 。

 備忘のため 、抜き書き 。

  引用はじめ 。

  ( タイトル「 脱・幸福論 」の中から )

 「 ・・・ 若くて脚光を浴び 、金が入って もてもての人気者の

  幸福と 、しがない六十代のテレビライターの時折 横切る幸福

  感など比べようもないのだが 、あっちは浅くてこっちは深い 、

  などと思っている 。

   これはたぶん生きるための必要なのだろう 。人は時に浅薄で

  あることで生きる力を得 、時に深くあることでまた生きる力を

  得る 。真相は 、たぶん 、どっちの幸福も等価なのだ 。そう

  思って 、幸福論などあまり推しすすめないようにしている 。

   ひとの幸福を自分の幸福観で裁かない方がいい 。裁きたいの

  も人情だから 、ほどほどには仕方がないけれど 、それは生理

  の必要でしているぐらいに思って丁度いいのではないか 。『 こ

  れぞ真の幸福 』などという想を得て 、ひとの幸福にランクを

  つけ 、自分の幸福観で屈服させようなどということは 、控え

  めにいっても卑しく哀しい 。

   生きるためには 、どうしてもいくらかの幸福感が必要で 、そ

  れは個別の境遇 、年齢 、体力 、性格やらなにやらに添ってあ

  る程度自然に湧いてくるものだと思う 。( 後 略 )

   ( 『 文藝春秋 臨時増刊 』 2001年9月15日 )」

  ( ´_ゝ`)

  ( 杉田成道著「 願わくは 、鳩のごとくに 」についての書評 ( 文庫本の解説 ) から )

 「 ・・・『 マラソンランナーは走っているときがもっとも美しい  ( 略 ) 

   同じようなことが演出家にも当てはまるのだろうか 』とまるで自分が

  美しく見えたのは自分の輝きではなく光線のせいです 、とでもいいたい

  ような留保を書き添えてしまう 。しかしそれはもう杉田さんが美しかっ

  たのだと思う 。

   余計なことだけど 、演出家はいいなあ 、と思う 。脚本を書いている

  だけの私など 、それじゃあ一番美しいときを誰にも見せられないでは

  ないか 。本気で走っているときの自分なんて鏡で見たこともない 。

  それどころではない 。仮に見たとしても 、とてもそれは美しいなんて

  ものではないだろう 。 人にはきっといろいろあって 、私は 『 鶴の

  恩返し 』 の鶴のタイプで 、みずからの羽をむしりとって布を織る姿は

  見られたくない方だから 、残念だけど仕方がない 。( 後 略 ) 

 ( 杉田成道『 願わくは 、鳩のごとくに 』扶桑社文庫 、2014年8月 )

  ( ´_ゝ`)

 ( 山田太一著 「 夕暮れの時間に 」河出書房新社 刊 所収   )

  引用おわり 。

  ( ´_ゝ`)

 

コメント
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