今日の「 お気に入り 」も 、今読み進めている本の
中から 、 備忘のため 、抜き書き 。
若いころ 、ペーパーバックの全集本まで買って読ん
だ作家の本の一冊なのに 、初めて読む心地がすると
ころが何箇所もある 。読む年齢によって こうも印象
が違うものか と長嘆息 。
引用はじめ 。
「 主水正( もんどのしょう ) は夕食のあと 、茶
を啜りながら庭の卯花 ( うのはな ) を見てい
た 。それはこの家を新築するとき 、奥との庭
を仕切るために作った袖垣で 、花が咲くまで
卯花とは知らなかったのである 。濃くなった
たそがれの 、青ずんだ薄暗がりの中に 、その
花は白く 、ひっそりと咲いていた 。」
「 わが領地は気候にも恵まれ 、地も肥えていて
物成りが豊かだ 、七万八千石の表高より 、は
るかに実収は多いということで 、幕府の国目付
(くにめつけ)に睨まれている 、―― 老職ども
はそう主張して 、新田の開拓につよく反対して
きた 、だが 、その主張には他の理由が含まれ
ている 、国目付に睨まれているのは事実かもし
れないが 、決してそれだけではない 、恩借嘆
願の件にあらわれているように 、御用商人ども
の算盤が 、うしろからかれらを縛っているのだ 」
「 藩に対して 、商人どもは常に貸方でなければ
ならない 。御用の金品が定期に皆済されるだけ
では 、それからあがる利は固定してしまう 。
貸方の額が多く 、支払い決済が延びれば延びる
ほど 、利率は高くなり 、金品の値付けも自由
に操作ができる 。したがって 、藩の財政が豊
かになることは 、商人どもにとってなにより好
ましくないのだ 。」
「 なにごとも穏便に 、公儀から睨まれないよう
に 、すべて現状を変えないように 、そういう
名分の盾をめぐらせて 、ぬくぬくと熟寝(うま
い) をたのしんでいるかれら 。真実を蔽(おお)
い隠し 、いつわりの平安にしがみついて 、自
分大事とけんめいになっている重臣たちに 、
その寝床がそれほど安全でないことを悟らせ
るのだ 。」
「 ―― 俗に東照公は 、百姓は死なぬ程度に生
かしておけ 、と云われたそうだ 、と昌治は
さらに云った 。もちろん根拠のない俗説だろ
うが 、家康公の言葉の真偽には関係なく 、
死なぬ程度に生きている者たちがいかに多い
かということを 、自分で見廻ってみて初めて
知った 、どうしてそんなことがあり得るのか 、
農民は郡奉行 、町民は町奉行によって 、そ
れぞれ保護をされ看視されている筈だ 、にも
かかわらず 、こういう生活がみすごしにされ
るのはなぜか 。 」
「 原因は単純ではないだろう 。だが 、まずあ
げなければならないのは 、現在の状態によっ
て利得をする者が 、その状態を存続させよう
とするところにある 、ということだ 。農 、
産 、商業の根もとを握っている大地主 、五
人衆といわれる大商人 、そして 、これらに
支えられている藩の重臣たち 。かれらには現
在の状態を保つことが 、おのれの安泰を保つ
唯一のみちなのだ 。その均衡をやぶらなけれ
ば 、なに一つ改善することはできないのだ 。」
「 ―― その均衡をやぶる方法の第一が『 堰 』
を造ることだ 、と昌治は云った 。三万坪の
新田を拓いても 、たいした役には立たないか
もしれない 。だが幾組かの百姓が 、自分の
田を持つことのできるのは事実だ 、これまで
貧しい小作人だった百姓のうち 、幾組かは自
分の田を持つことができる 、これは不動だと
みえる大地主たちのあいだに楔を打ち込むこと
であり 、僅かではあるが 、かれらの力の均衡
にひびを入れることになるだろう 。
重臣たちや大地主 、五人衆たちの結束は固い 。
なにか新しい事態が起こるとみれば 、派閥を
越えて協力し 、現状を守るために立ち上がる
だろう 。」
「 主水正は『 世間 』というもの 、そこに生き
ている『 人間 』たちを知るようになった 。
彼は 、江戸屋敷にいるあいだに 、多くの人と
接し 、その生活をみてきた 。人生は単純では
ないし 、人の生きかたも単純ではない 。善悪
の評価でさえも正当であるよりも 、そうでな
い場合のほうが多いし 、それを是正すること
が殆んど不可能であることも知った 。
江戸から帰って来たとき 、主水正はおとな
になったと思った 。」
引用おわり 。
物語の上巻をやっと読み終えたところ 。下巻が愉しみ 。
( ついでながらの
筆者註:「 ウツギ( 空木・卯木 、学名: Deutzia crenata )は 、
アジサイ科ウツギ属の落葉低木 。別名は ウノハナ 。
日当たりのよい山野にふつうに見られる 。
名 称
和名のウツギの名は『 空木 』の意味で 、幹(茎)
が中空であることからの命名であるとされる 。
花は卯月(旧暦4月)に咲くことからウノハナ(卯の
花)とも呼ばれる 。中国名は 、齒葉溲疏 。
分布と生育環境
日本と中国に分布し 、日本では 北海道南部 、本州 、
四国 、九州に広く分布する 。 山野の路傍 、崖地 、
林縁 、川の土堤 、人里など日当たりの良い場所にふ
つうに自生し 、畑の生け垣にしたり 観賞用に庭に植
えたりする 。」
以上ウィキ情報 。
見出しの写真は 、うのはな ではなく 、しょうきうつぎ 。 )