「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

ポリコレ その2 Long Good-bye 2024・04・18

2024-04-18 06:01:00 | Weblog

 

 今日の「 お気に入り 」は 、今読み進めている本の

 中から 、 備忘のため 、抜き書きした文章 。

   欧米流の「 ポリコレ 」さかんな 21世紀日本では

 書いてはいけない「 差別用語 」 が 、20世紀 昭和

 の 時代小説 には 、容赦なくバンバン出てくる

  伏せ字にしてたらキリがない 。

  引用はじめ 。

  「 主水正は手を伸ばし 、大五の肩をそっと叩
  いた 。刀を抜くなよ 、と主水正は囁いた 。
  まもなく 、提灯の明りが見え 、それがこっ
  ちへ近づいて来た 。主水正はその一人が 、
  清絹(すずし)の寝衣を着た飛騨守昌治だ 、と
  いうことを認めた 。まえよりも少し肥え 、
  陽にやけた手足が 、はるかに健康を増したよ
  うに思え 、主水正は安堵の深い溜息をついた 。
  提灯を持っていたのは相良大学であった 。な
  んのために人目につく提灯などを持っている
  のか 、と主水正は訝しく思った 。昌治は大
  股に近づいて来 、主水正の前で立停った 。
  大股に近づいて来る昌治の足の下で 、夜露
  を吸った芝の湿った音が荒あらしく聞えた 。  」

  「『 ・・・ 私どもは殿をここからお伴れ出
  し申すために 、命を賭けているのです 、
  どうぞこのまま 、私どもとごいっしょに 』

  『 おれはここにいる 』昌治は静かに首を
  振りながら云った 、『 ―― いつか主水は 、
  おれが堰の工事にかかろうとしたとき 、い
  まは早い 、もう数年先まで待ってくれと云
  った 、こんどは同じことをおれが云う 、
  おれのことはもう暫く待ってくれ 』

   こんどの計画はうまくゆきすぎた 、もの
  ごとがこんなに故障なく 、うまくゆきすぎ
  るというのは不自然だ 。

  『 そればかりではない 』と昌治は力のこ
  もった口ぶりで続けた 、『 かれらはいま
  大きな壁に突き当っている 、兄が将軍家の
  血を引いているということを 、唯一の頼み
  にして事を起こしたが 、根本的に藩政を刷
  新するという具体案を持っていなかった 、
  いま新政とかれらのいう政治のやりかたは 、
  ただおれのやった事を壊すだけが目的で 、
  新らしい効果のある政事(まつりごと)はな
  にもやってはいない 』
  『 殿は 』と主水正が反問した 、『 それ
  をどの程度まで御存じですか 』
  『 おれはめくらでもつんぼでもない 』
  『 それならなおさら 、殿がこのまま閉じ
  込められておられる時ではない 、とお思い
  にはなれないでしょうか 』

  『 いや 、そうではない 』昌治は片手を振
  って遮った 、『 そうではないんだ 、かれ
  らはいま自分で墓穴を掘っている 、その墓
  の底はもう見えている 』
  『 私どもはそれよりも 、殿の御一身のこと
  が大切だと思っているのです 』
  『 無用だ 』と昌治が屹(きつ)とした口ぶり
  で云った 、『 おれのことは心配するな 、
  かれらがもしおれを消すつもりならば 、と
  いうより 、かれらにそれだけの自信と決意
  があったら 、初めにおれの寝首を掻いてい
  ただろう 、そうは思わないか 』
   主水正は答えなかった 。」

  「  主水正には答える言葉がなかった 。
  『 かれらにはおれを殺すほどの自信も決意
  もなかった 』と昌治は続けて云った 、
  『 かれらは機会を逸したのだ 、かれらには
  もうおれに手を出すことはできない 』
  『 しんじつそうでしょうか 』
  『 世の中にしんじつそうだと云い切れるもの
  があるか 』と昌治が反問した 、『 おれが家
  督を相続したとき 、こんな事が起ころうとは
  夢にも思わなかった 、しかし事は起こった 、
  かれらがおれにこれ以上なにもできない 、と
  いうのもおれがそう認めただけで 、それが誤
  認であるかどうかはわからない 、おそらく誰
  にも真偽の判別はできないだろう 、だがおれ
  は自分の勘に誤りがないと信じているし 、そ
  の信念が壊されるまでは 、信じたことにゆる
  ぎはないと思う 、それが人間の生きている証
  明ではないのか 』
  『 お言葉を返すようですが 』と主水正が低
  い声で云った 、『 殿はいま 、かれらが墓穴
  を掘っており 、その底もすでに見えていると
  仰せられました 、もしもかれらがその事実に
  気がつきましたら 、このまま殿を御安泰に置
  くでしょうか 』
  『 それは落雷を恐れるようなものだ 』と云っ
  て昌治は微笑した 、提灯の明りで 、昌治の白
  い歯がはっきりと見えた 、『 ―― どこへ 、
  いつ 、雷が落ちるかと心配しても 、現実には
  なんの役にも立たない 、かれらは初めにおれ
  の命をちぢめるべきだった 、それがかれらに
  は出来なかった 、ここをよく考えてみろ 、主
  水正 、―― 初めに出来なかったことを 、い
  まになって慌ててやることが出来ると思うか 』
   主水正は圧倒された 。昌治の自信の強さには 、
  から威張りでない実感がこもっていた 。主水正
  は心の中でまた舌を巻き 、これほどの人物とは
  知らなかった 、と改めて思った 。殿はおれた
  ちより一枚上だ 、一枚どころか 、遥(はる)か
  に人間としての格が違う 、と主水正は思った 。
  『 おれのことは心配するな 』と昌治は言葉を
  刻みつけるように云った 、『 かれらがゆき詰
  まることはもう眼に見えている 、おまえたちが
  無理をするまでもない 、かれらが兄の松二郎
  を表面に出せないのは 、将軍家にお目見えを
  していないからだ 、そして苦し紛れに新太郎
  を立てようとしている 、ごまかしだ 』
  『 けれどもそれが公儀に認められましたら 』
  『 千に一つだ 』昌治は振り向いて三歩歩き 、
  三歩戻ってまた 、主水正の前に立った 、『 新
  太郎は白痴に近い 、彼を将軍家との対面に出す
  というのは 、千に一つの冒険だ 、かれらにそ
  んな勇気があると思うか 』
   主水正は考えてから云った 、『 私には 、そ
  の賭けは大きく 、また危険すぎると思いますが 』
  『 巳の年の騒動このかた 、大きな賭けは続い
  てきた 、いまは長い年月にわたって膿んでいた
  腫物が 、つぶれたようなものだ 、亀裂のはい
  った崖の亀裂が剝げ落ちて 、新らしい不動な岩
  が出たようなものだ 』
   これからはやぶれた腫物の治療をし 、新らしく
  露出した岩を 、崩れないように固めることだ 。
  いそぐな 、と昌治は云った 。
  『 江戸のことはいい 、主水は国許へ帰れ 』昌
  治はそう云い 、片手を主水正の肩にそっと置い
  た 、『 おれのことは心配無用だ 、国許へ帰っ
  て待っているがいい 、もういちど云うが 、決
  していそぐがないことだ 、諄(くど)いようだが
  念を押しておくぞ 』
   主水正は静かに低頭し 、ではこれで別れると
  云って 、昌治は相良大学を伴れ 、大股に去っ
  ていった 。遠ざかってゆく提灯の火と 、その
  明りに照らされた昌治のうしり姿を見送りなが
  ら 、主水正は眼の熱くなるのを感じた 。
  『 おれたちには一と言もお言葉なしか 』と津
  田大五が云った 、『 薄情な人だ 、尤も昔か
  ら薄情なところのあるお人だったがね 』
  『 帰りましょう 』と庄田信吾が云った 、
  『 私たちの役目は済んだようですから 』
   三人はきびすを返した 。」

  引用おわり 。

 ( ついでながらの

  筆者註:「 ポリコレ
        『 パリコレ 』が略称の『 パリ・コレクション 』
       とは異なります 。

        ポリティカル・コレクトネス( 英: political
       correctness 、略称:PC 、ポリコレ )とは 、
       会の特定のグループのメンバーに不快感や不利益を
       与えないように意図された政策( または対策 )な
       どを表す言葉の総称であり 、人種 、信条 、性別 、
       体型などの違いによる偏見や差別を含まない中立的
       な表現や用語を使用することを指す 。『 政治的正
       しさ 』『 政治的妥当性 』などと訳される 。なお 、
       特に 性別の差異を回避する表現を 性中立的言語
       言う 。また ハリウッドなどで キャストやスタッ
       フの多様性を確保するよう求める条項は 包摂条項
       と言う 。

        具体例として 、看護婦・看護士という呼称を性別
       を問わない『 看護師 』に統合したことや、母子健
       康手帳という名称を 父親の育児参加を踏まえて
       『 親子手帳 』に変更したことなどが挙げられる 。

       歴 史
        公的な場やメディアでは 、この言葉は一般的に 、
       これらの政策が『 過剰である 』とか『 不当であ
       る 』といった意味合いの蔑称として使われている 。」

       以上ウィキ情報 。 )

 

 

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする