がじゅまるの樹の下で。

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【続】 逆賊でも英雄でもない阿麻和利像

2012年10月25日 | ・和心な本、琉球な本

[前記事の続き]

 

梟雄でも英雄でもない、
単なる「お目出たい男・阿麻和利」像について、

ワタシが思い当たった節がもう一つ。

 

それは大城賢雄(夏居数)の子孫の書いた
『夏姓太宗由来記』

この由来記の中に、阿麻和利のこんなシーンが出てきます。

直訳だと固いので
ちょっと小説仕立てに意訳してみましたのでどうぞ♪

 

 

ある夜、阿麻和利は一人密かに城を出て城下町へ向かった。

――茂知附を滅ぼし俺が新たに勝連按司となったが
それに背き、良からぬことを企てている輩がいるかもしれぬ…。

目を光らせるように村を歩いているとある家の灯りが目に付いた。

家には人が集まり酒を飲みながら何やら政治――古今の勝連の興廃について
議論し合っているようだった。

阿麻和利がそっとその家の中をうかがうと、
周りをはばかるように声を低くして話す男の声が聞こえてきた。

「阿麻和利加那め、卑しい生まれのくせに按司になりよった。
これはたまたま起きた、想定外の幸運ではないか。
按司になれたのは奴の才能などではない、いわば棚から牡丹餅ってとこよ」

その男の言葉にわっと場が沸き立った。
その笑い声が男の言葉への同意を表していた。

阿麻和利はそれを聞くや否や、
その家の戸をぶち破る勢いで開け放った。

「貴様ら、この阿麻和利を愚弄するか!!」

家中に阿麻和利の怒号が鳴り響いた。
その顔は怒りで燃え上がっていた。

「阿…阿麻和利様…っ!?」

一同はたった今囃してた阿麻和利がそこに立っていることにしたたか驚き、
顔面蒼白で返す言葉もなく平伏した。

「答えよ!!!」

おさまらぬ阿麻和利の怒りの形相に、一同は震え上がるばかりだったが、
老人が進み出ておずおずと答えた。

「あいや、阿麻和利様、あなた様のその素晴らしい威光は道行く人も皆知っており、
誰もがあなた様の聖徳をたたえておりまする。
当然、我らもあなた様を深く仰ぎ慕っておりまする。
そう、それはまるで子どもが親を慕う様と同じでございます。
屋良の阿麻和利様が我らの君主となられたことは我らの幸せそのもの!
水を得た魚のように生き返った心持ちでございます!
そんな我らが、君主たるあなた様を誹ることはありえませぬ。」

揉み手をしながらなだめるように言う老人の言葉に
阿麻和利の怒りは次第に褒められた喜びに変わって行った。

「ん…?…うむ。まぁ、分かっているのなら良い。」

阿麻和利の怒りが収まって行くのを感じたのか
一同も次々と老人に同意し、阿麻和利を持ち上げ始めた。

「ははは、なるほど、父母を慕う子どもか。水を得た魚か。
おぬしらもうまいことを言う。」

次々と重ねられる称賛の言葉に阿麻和利はすっかり気を良くしてしまった。
結局、阿麻和利はおおいに喜んで城に戻って行った。


『夏姓太宗由来記』(1884)
意訳/和々

 

 

確かに単純でお目出たい男だ。

ワタシは「バカかぃ!」ってツッコみましたけどね(笑)

単純と見るか、バカと見るか、お目出たいと見るか、
それとも憎めない愛すべきヤツと見るか、

それもみなさんそれぞれでどうぞ(笑)

 

それにしても夏姓太宗由来記は面白い。
前も書いたけどワタシはコレは一種の「小説」だと思ってます。
(「中山世鑑」なんかもけっこう…)

阿麻和利らが死んで数百年後に書かれたものにも関わらず
阿麻和利がこう喋ってたとかこう思ってたとか
由来記の著者が分かるわけないし。

そこのところを想像豊かに書いているあたり
1884年に書かれた歴史小説、いわば歴史エンタメ!?だと思うのですわ。

前半はほぼ阿麻和利についての描写で
後半はスーパーサイヤ人ならぬ、スーパー賢雄です(笑)

なので今回みたいに全文意訳したら絶対面白い。

 


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写真は勝連グスクと城下町。


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逆賊でも英雄でもない阿麻和利像

2012年10月25日 | ・和心な本、琉球な本

阿麻和利の人物像に関しては
王をだまし、護佐丸を殺し、王府簒奪を狙った逆賊像、
勝連を栄えさせ、民にほめたたえられた英雄像とありますが

逆賊でも、英雄でもない、
こんな人物像(説)をご紹介しましょう。

 

名付けて、

「お目出たい男・阿麻和利」像。

 

このお目出たい阿麻和利像の出典は
『沖縄歴史物語』
(山里永吉著/1967)

タイトルにもあるように「歴史物語」なので
著者の推測(~のような気がする、~に違いない)による見解で綴られた本。

言うに、阿麻和利は

 

単純な田舎者

尚泰久に踊らされたただの道具

大した人物ではない

護佐丸と比べても数等見劣りする人物

男の風上にもおけない、実にお目出たい人物

武将としては落第

 

…と、散々な言いよう

本には武将としては二流の男、と書いてありますが
二流どころか三流と言わんばかりの言い草です

 

著者がそう推理した理由はざっと以下の通り。

 

本当に天下をねらっていたのであれば
すでに老齢だった護佐丸が自然に没するのを待つのが得策。

きっと尚泰久に踊らされていただけに違いない

阿麻和利は百十踏揚降嫁によって感激し
同時に、うぬぼれも生じただろう。

すっかり尚泰久の手玉にとられ
まんまと尚泰久(+金丸)の策にハマった。

単純な奴だ。

護佐丸討伐後何の未練もなく勝連に引き上げている。
(野心があるのであれば中城に残り中城拝領を願うのが得策)

中城での勝利に自ら酔いしれていた。

また、

鬼大城つきの百十踏揚の嫁入りを
単純に受けて入れている。

男付きの花嫁を喜ぶとは
そんな馬鹿な男がいるものか。

また、

鬼大城がスパイだと警戒しなかった(気にしなかった)のだろうか。

実に単純で、お目出たい男だ。

 

ってことで、つまりは尚泰久(+金丸)黒幕説を述べております。

まぁ、これらのお目出たい男阿麻和利像やその理由についての賛否は
みなさんそれぞれで判断してもらって構わないのですが。

梟雄でも、英雄でもない、
雑魚な阿麻和利像
というのもある意味新鮮ですね。

ちなみに著者の山里永吉氏の書いた琉球史小説の過去記事はこちら
 『風雲』(金丸と阿麻和利)
 『心中した琉球王』(尚徳)
 『風雲』(護佐丸)

 

ところで、このお目出たい男・阿麻和利像ですが、
実はこれを読んでワタシが思い当たる節がもう一つ…(笑)

 

[つづく]

 


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