松静自然 -太極拳導引が教えてくれるもの-

松静自然とは落ち着いた精神情緒とリラックスした身体の状態をいい、太極拳導引の基本要求でもあります。これがまた奥深く…

門外漢の食養生(5) -マクロビオティック-

2008-03-03 | 養生の栞-食・眠・動-
食養生といえば必ずといっていいくらいに見聞きする
マクロビオティック(macrobiotique)。
でも意外と内容は知らない人が多いのかも。
かくいう私もその中のひとり。
とりあえずの印象としては
砂糖を一切使わない、
肉などはほとんど取らない玄米菜食が中心で、
食品を陰性と陽性に分けて考えるといった程度でした。

マクロビオティック本来の意味は
長生術、長生き法という意味だそうですが、
桜井如一氏の提唱による
正食法(言わば和の薬膳のようなもの)の意味として
広く使われているようです。

実はマクロビオティックを実践している知人がいます。
マクロビオティックを始めてから
2年ぶりに再会したときに
とにかくその肌の透明感に驚きました。
くすみがないなんていう表現では足りないくらいに
不純物というか毒っ気が
まったく感じられませんでした。
まるできれいに片付けられた部屋のような
スッキリとして風通しのよい開放的な感じがしました。

それ以来、ずっと気にはなっていたものの
ちゃんと調べたりすることのなかったマクロビオティック。
門外漢が理解できる範囲はたかが知れているのですが
とにもかくにもかじってみることに。



 ☆正食の流れ
正食の歴史は、日本陸軍の軍医だった石塚左玄(1851-1909)氏が著した
「化学的食養長寿論」(1896年)に始まります。
彼はまだ栄養学が学問として確立されていない時代に
食物と身体の関係を理論化し、医食同源としての食育を提唱、
食育食養の普及につとめました。

彼の主要な考え方は次の通りです。

    食本主義 「食は本なり、体は末なり、心はさらに末なり」
         (心身の病因は食にあり)

 人類穀食動物論 人間の歯は穀類を噛む臼歯20本、菜類を噛み切る門歯8本、
         肉を噛む犬歯4本なので、人類は穀食動物である

    身土不二 その土地の主産物を主食に副産物を副食にすることで
         心身もまた環境に調和する

    陰陽調和 当時の西洋栄養学では軽視されていたミネラルに注目
         陽性のナトリウム、陰性のカリウムのバランスが崩れ過ぎると
         病気になるので、両者のバランスを整えるようにする

    一物全体 ひとつの食品をまるごと食べることで陰陽のバランスが保たれる

この中で注目されるのは、陰陽調和の項にあるように
ナトリウムとカリウムのバランスをみるとした点です。
たとえば食品分析した数値のうち、
ナトリウム塩の多い順に列挙していくと、
 ・ナトリウムが少なくなればなるほどカリウム塩が多くなる
 ・ナトリウム塩が多い食品は漢方でいうところの陽性のように
  体を温めるものであること
 ・カリウム塩の多い食品は漢方でいうところの陰性のように
  体を冷やすものであるといわれてきた食品であること
というような事例を発表したのです。

つまりナトリウムとカリウムは相互に拮抗したり相補性のある
基本的要素(たとえば一組の夫婦のように)であるとして
また、それが食物の性質を決めるのに大きな役割を担っていて
そのバランスによって人間の健康状態を左右すると考えたのです。

中医学が食物の性能概念を長年の応用実践から導き出して
性質や味がどの臓腑、経路、部位に作用するのか等の研究をしてきたことを
仮に食物と人体の関係を整体的な視点からみたものだとすれば、
彼が発表した理論は中医学の陰陽理論を化学(科学?)的な視点からみた
ひとつの実用応用例ともいえそうです。

この石塚氏の学説(温性のナトリウム、陰性のカリウム)に
中国の陰陽理論(易経)を結びつけて無双原理という独自の説を提唱し
国際的に広めたのが桜沢如一氏です。

体においてナトリウムが縮める力、カリウムが緩める力を持つと説き、
現代人に理解しやすいように
縮める力を求心性エネルギー、緩める力を遠心性エネルギーとして
石塚氏の学説内容を説明していきます。


実は中国の陰陽理論と正食の陰陽の考え方は
まったく同じというわけではありません。
見方が違うために相違点が出てくるのですが、
混乱しやすいところでもあるかと。
このあたりもなるべく整理してみたいと思います。