『宇宙考古学 1(分り易く言えば「宇宙から探る地上の考古学」)』
―著書のタイトルは「宇宙考古学の冒険(原作:ARCHAEOLOGY FROM SPACE)」―
表題の著書を読む前に、航空レーザーによるマヤ文明の遺跡発見の情報を読み、航空レーザー・航空写真に興味を持ちました。 今までも良く見ていた、グーグルの航空写真については、今までの地理・地形への興味から、歴史にも関連付けるようになりました。
メキシコにあるマヤ文明「アグアダ・フェニックス遺跡」の航空レーザー測量画像。 巨大な長方形の祭祀(さいし)施設は南北1413メートル、東西399メートル(米アリゾナ大の猪俣健教授提供)
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以前、日経新聞の文化欄に紹介された、パーカック・サラ著、『宇宙考古学の冒険 古代遺跡は人工衛星で探し出せ(原作:ARCHAEOLOGY FROM SPACE・HOW THE FUTURE SHAPES OUR PAST)』がありました。 好奇心からだけですが、宇宙にも、考古学にも少し興味があったもので、タイトルを見た瞬間に考古学も宇宙まで拡がったのかと思い、読み始めました。
ウェブ情報から引用
要旨(ウェブ情報から抜粋・引用)
現代のインディ・ジョーンズ”は、人工衛星で遺跡を探す!「宇宙考古学」とは、衛星画像データを 分析することで遺跡を発見する学問だ。 現代では、より高解像度でマルチスペクトル画像(*)を安価に扱えるようになったことで、表面の植生の違いからその地下にある物体の差異を見つけたり、踏査の難しい砂漠や密林を探索したりすることができる。 この分野の第一人者であり、気鋭のエジプト学者であるパーカック・サラが、みずからの体験を軸に、宇宙考古学の最先端、大発見、そして秘められた可能性を余すところなく紹介する。また、世界の古代遺跡の保全のために宇宙考古学が必要である理由、そしていま私たちが破滅した世界から学ばなくてはならない理由にもふれる。
(*)マルチスペクトル画像には、人の目で見える可視光線の波長帯の電磁波だけでなく、紫外線や赤外線、遠赤外線などが該当する、人の目で見えない不可視光線の波長帯の電磁波も記録されます。
著者 パーカック・サラ(Parcak,Sarah) (ウェブ情報から抜粋・引用)
アラバマ大学考古学教授。エジプト学者。衛星画像から遺跡を探すクラウドソーシングのプラットフォーム「グローバルエクスプローラー」を2016年に創設。 現在までに約10万人のボランティアが参加し、南米などでの遺構の探索に貢献している。 リモートセンシング(**)を考古学研究に応用した活動には世界中のメディアが注目し、英国BBCはエジプト、ローマ、ヴァイキングの古代文明について著者をプレゼンターとして番組を製作した。 2016年TED Prizeを受賞。ナショナルジオグラフィック協会のエクスプローラーでもある。
(**)対象に触れずに計測を実現する技術の総称である。 主に遠隔地にあって規模 の大きい計測対象を調べる際に多く用いられている。
この著者は冒頭にこう言っています『私はずっと、滅びた世界を相手にしてきた。 比喩ではなく、文字道理の意味で。 私は考古学者だ。 エジプトや中東での発掘作業、中南米の遺跡の探査、ヨーロッパ全域の遺跡のマッピングに明け暮れてきた。 要するに、足下の土と、そこにあるかもしれない不思議なものに夢中なのだ』と。
このような地上の踏査と発掘からリモートセンシングを考古学研究に応用した活動に入っていっています。 さて、その切掛けですが、祖父のノルマンディー上陸作戦の落下傘部隊作戦のための、当時は最先端技術であった航空写真の分析を、事後、孫娘のパーカック・サラは聞いたことのようです。
風景を俯瞰するのは良いものです。
❶昔、商用出張でロスアンゼルスから中米へのフライトはカルフォルニアの岩石砂漠の上を飛行します。 数時間の間、地上の風景にクギ付けになりました。
❷最近は、ゴーグルマップの航空写真で世界中のどこでも、俯瞰できます。
❸昔、江戸時代の絵師・北斎はこのような鳥観図を描いています。
ウェブ情報から引用
宇宙考古学が扱う範囲
人工衛星画像のような新しいテクノロジーによる発見は本当に驚異的。 そうした発見は、私たちの歴史を書き換える手助けをしてくれている。 長期間を費やして、数十カ所の遺跡をマッピングしていたことが、数週間で数百カ所の遺跡で同じことができる。 更にAIの発達が同じことを数時間で処理できるようになる。
遺跡の位置を知ることは最初の一歩にすぎず、その後も、地上で遺跡を調査する『グラウンドトゥルース』という作業が必要になり、その次には『力仕事』の発掘作業になる。
ここで、余談です。 考古学が変わったように、大概のことは、変わるには、デジタル化(定数化・定量化)とIT化で傾向・経緯を観察と結果の検証が必要。 効率の良い『力仕事』を皆がやれば、いろいろな問題が浮き彫りされ、優先順位を自ずと解る。 『力仕事』には、当然、手作業も、頭脳作業も、『国会の会議』も入ります。
日経新聞の一面に『日本は変われたか 大震災10年』が連載されていました。
①復興の哲学を変える必要があった(岡本全勝・元復興庁事務次官)。
②危機なのに法律の壁を感じた(佐藤仁・宮城県南三陸町長)。
③デジタル社会の構築に限界を感じた(武藤真祐医師)。
④アクション伴わねば意味なし(斎藤淳・元東京証券取引所グループ社長)
表題に戻ります。
20数年前にはなかった、人工衛星画像による宇宙考古学と地上探査によって、最初に見付かったのは、当然ですが広大なブラジルのアマゾン流域で見つかった『先コロンビア期の遺跡・サンタレン文化』でした。
宇宙から遺跡をマッピングするのは楽しい作業のようですが、その遺跡を実際に調査する『力仕事』は大変なようです。 数千年もの時間を溯ることになり、当時の人々が、様々な神を信じ、今では失われた言語を話し、人の住んだことのないと思われる場所に住んでいた時代だ。
歴史は「積み重なる」
パーカック・サラ氏がエジプト考古学に余生を過ごすようになった切掛けを、この著書の中で、このように語っています。
『1999年のある午後、カイロに向かう飛行機に乗っていた。 偶然か、それとも天の配剤か、左側の窓側の席に座っていた。 飛行機がギザのピラミッドの上を低く飛んだ。 ずっと心の中にあった夢のすべてが、『太陽の光を浴びて金色(建造当時のキャップストーンは、ただし表面は白石灰岩の化粧石で平斜面に化粧されて)光る4500年前の、(が今は)、風化した石灰岩の、階段状の四角錐として、目の前に、横たわっている。
ギザの地を何度も踏んだ今でも、ピラミッドを訪れると心が揺さぶられる。古代エジプト人が推定2万人の作業者を使って、第四王朝の偉大の王たちの墓(神殿も兼ねた)を立てた理由や、建設の時期や方法について、理解しているが、その知識で驚きが色あせることはない』と。
また、余談です。 四半世紀も昔のことですが、欧州商用出張に北回り(アンカレッジ経由)パリ行きをよく利用しました。 数杯のナイトキャップとアンカレッジで夜食、後は映画というパターンでした。 ある日のフライトの時ですが、夢中になって『座頭市…』を見ていたら、突然CAに起こされました。 『機窓からオーロラが見えています』と。
良き貴重な経験が出来ました。 『地上から見るように、きれいな色のついたカーテン状のものではなく、白色の雲がたなびいて、かすかに色がつぃいている』みたいな感じでした。 仰観ではなくほぼ水平視でした。
表題に戻ります。
遺跡は「写真」ではなく「フィルム」
かって存在したものから教えられることの一つは、私たち自身が間違いなく、やがて消え去るということだ。 英語では遺跡のことを『ruins』(*)という。 この単語は破壊を暗示しており、普通のものや当たり前のものより、否定的なものを意味している。
(*)〈…を〉破滅させる、荒廃させる、台無しにする、めちゃくちゃにする
パルミラ遺跡で起こった事件は、パルミラは、古代世界で東洋と西洋の境界線上にあり、さまざまの文化が行き交ったシリアの大都市だ。 このパルミラ遺跡のベル神殿の一部が、ISIL(イスラム国)に爆破された。 考古学者のコミュニティーはベル神殿の再建を巡って大議論が続いている。
ゼノビア女王の下で、隆盛を極めるまでに何度も文化が入れ替わっていた。 そして272年ローマ皇帝アウレアヌスは兵士たちに、パルミラの略奪を許した。 その後、ティムール朝によって破壊された。 つまり、現在のパルミラ遺跡にあるのは、幾重にも複雑に重なり合った破壊の跡であり、 世界規模の権力闘争と変化する政治同盟の遺物だと言える。
一方、ISILによる破壊も占領も、その歴史の流れの一部であり、ISILの残虐さの認識と、無残な破壊の瞬間を永久にとどめて、忘れないようにすべきだろうという意見もある。
まさに『歴史は「積み重なる」』です。 現状維持も再建も難しい判断になるものです。
(20210313 纏め、#294)