◎昭和16年発表、文部省「標準漢字表」の中の難字
昨日のコラムで述べた通り、一九四二年(昭和一七)に文部省が発表した「標準漢字表」の紹介を続けようとしたが、思いがけない支障が生じ、一時、中断せざるをえなくなった。その「思いがけない支障」とは、端的に言えば、手ヘンのところに、見かけない漢字を発見してしまったことであった。
それは、暮という字の日の部分が手となっている漢字であった。その字の前にあるのは、摸(模という字のヘンが手ヘン。ただし、クサカンムリは、左右にわかれている)があり、その字のあとには、撚という字がある。したがって、この字が、手の一二画の字であることは間違いない。しかし、一万字を収録しているという『新字源』に、この字を見出すことはできなかった。
一九四二年(昭和一七)に文部省が発表した「標準漢字表」には、全部で二六六九字が載っている。義務教育六年間(国民学校初等科)において習得すべき漢字であるという。しかし、この字(暮という字の日の部分が手となっている漢字)は、おそらく、多くの日本人が生涯で一度も見ることなく、もちろん使用もしない字だと思う。なぜ、そんな珍しい漢字が、二六六九字の中に、はいっているのか。この一字のために、この「標準漢字表」そのものに対して、ふつふつと疑念が生じてきた。
もちろん、この難字は、ブログ上では表示できないであろう。実は、それ以外にも、ブログ上で表示できそうもない字が、いくつも出てきた。そんなわけで、「標準漢字表」の紹介を続ける気が、すっかり失せてしまったのである。
なお、この難字(暮という字の日の部分が手となっている漢字)が実在することは、間違いない。昨日、簡野道明の『字源』を引いてみたところ、これには載っていた。摸とほぼ同義の字のようだ。しかしそれならば、「標準漢字表」には、摸を採用すれば十分なのであって、なぜわざわざこの難字を採用したのかという疑念が生ずるのである。
本日は、こんなことを述べたために、原敬の「漢字減少論」(一九〇〇)の紹介のほうも、中断することになってしまって、恐縮である。明日は再び、原敬の「漢字減少論」に戻りたい。なお、「標準漢字表」の紹介は、きわめて困難であるし、今は紹介する気力もないが、そのうちまた再開することになるかもしれない。
【昨日のクイズの正解】 2 大阪毎日新聞に勤める以前、他の新聞社に勤めていたことがある。■原敬は、1879年(明治12)に、郵便報知新聞社に入社、1882年(明治15)退社。同年4月、『大東日報』の主筆となり、同年10月退社。
今日の名言 2013・5・12
◎自分の未来には、もう涙しか用意されていない気がした
作家の青山七恵さんの言葉。小学生のとき、先生が「そして、トンキーもしんだ」というお話を読み聞かせてくれた。先生は、それを読みながら泣いてしまった。青山さんは、その事件の回想を中心に、「わたしの『先生』」というエッセイを書いた。必読である。本日の日本経済新聞「文化」欄より。