礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

ルビつき活字を考案した大阪朝日の松田幾之助

2014-01-27 04:26:41 | 日記

◎ルビつき活字を考案した大阪朝日の松田幾之助

 本日も、下村海南『来るべき日本』(第一書房、一九四一年)の中から、「文字と言語」に関わる文章を紹介する。本日紹介するのは、「恐ろしいルビつき活字」という文章だが、これは、かなり長文なので、数回にわけて紹介する。文中、傍点が振られている箇所は、ゴチックで代用する。

 七四 恐ろしいルビつき漢字
 漢字には音があり、訓があり、あてよみが多いから、どうしても出版物などのはいちいちふりがなをつけることになる。新聞を見ると、あの小さな活字の横へ又一層小さいカナがついてゐる。印刷所ではあの振ガナのことをルビといふ。あのルビをいちいちつけることは、一秒一刻を争ふ新聞紙では、大変な手数である。それで、今から約四十年ほど前、日清戦争の頃に、大阪の朝日新聞社の松田幾之助といふ人がはじめからルビの附いた活字を案出した。たとへば、行といふ字にはカウとかギヤウとかユクとかオコナウといふ発音が多いから、さういふルビのついた活字をつくることにした。欧米の出版業者は、A・B・Cのアルファベット二十六文字だけをつくれば沢山である。日本では、それにあたるカナ文字の活字のほかに、数知れない漢字の活字、それもルビつきで、一層種類が増すばかりである。今は日本でも文部省なり新聞社で、常用漢字を大体二千字ほどにきめてある。ふだん最も多く使ふ漢字を二千字ばかり選び、それで用を足して、それ以外の漢字をなるべく使はないやうにしてゐる。しかし、それだけにしても大変なものである。こればかりは外国人も新聞社の植字工場を見ると、眼を丸くして肝を潰す。Wonderful(おどろきますね)を通り越してTerrible(おそろしいですね)といふ。
 だから東京、大阪あたりで、一日十六ページ刷り出してゐる新聞社は、毎日四五十万の活字を使ふが、仮名やローマ字のほかに数知れぬ漢字が交つてゐる。本当なら、組んだ活字の版は印刷し終つて要らなくなると、解版といつて解きほぐし、それぞれもとの活字箱にふり分けて収めるのだが、毎日四五十万の活字を、一つ一つ又もとの活字のケースヘ入れるやうな手数をくりかへしてはゐられない。だから全部皆溶かして〈トカシテ〉しまふ。そして一方では毎日五十万字位づづ新たに活字を鋳造する。そして各ケースに並べてある約千五百万個の活字の不足を補つてゆくのである。【以下は次回】

 

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