◎テレタイプシェッターという植字機
昨日に続いて、下村海南の「恐ろしいルビつき活字」という文章を紹介する。昨日、紹介した箇所の次のパラグラフから。
ヨーロッパやアメリカでは、ローマ字だけで用が足りるからタイプライターが盛んにつかはれる。日本でもカナのタイプライターがあり、近頃は次第に用ひられるが、まだ一般に漢字を使つてゐるので、邦文タイプライターといふカナのほかに、主な漢字をならべた印字機か多く使はれてゐる。しかし、この機械は無論場所をひろくとる、漢字の数も三千百十二字あり、それでもまだ用は足りない。何分字数が多いだけ、時間を多くとつてゐる。外国ではタイプライターのほかに、リノタイプ、モノタイプ、テレタイプシェッター、インタータイプなど、いろいろの植字機があつて、新聞などもたとへば東京の新聞社で、原稿によりて植字機を押しつつ順々に新活字を組んでゆくと、同時にそれが電信で大阪に通じる、大阪ではまた、その着信した符号に相当する新活字が、機械で自然に順々と組まれてゆく。つまり、東京と大阪と同時に、同じ原稿が活字に組まれてゆく。ところが日本語では、印刷のために特別な時間と手数がかかるばかりか、会話をする時とか、電信や電話のときなどに、漢字の説明、解釈のために余分な時間と手数を貸さねばならない。かうした不便さはひとり新聞ばかりではなく、官署でも陸海軍でも銀行でも会社でも、工場でも商店でも、またわれわれ個人の社交の上でも、いつもつきまとつてゐる大きな不便さである。
日本人の短い寿命で、かうした不便さを背負つて、国際競争裡〈リ〉に立たねばならないとは、誠に残念なことである。どうしても、一方では寿命を長くすることにつとめると共に、他方ではかうした不便を出来るだけ除くやうにせねばならない。【以下は次回】
上記に出てくる「リノタイプ」とは、ライノタイプともいう(Linotype)。「テレタイプシェッター」は、調べてみたが、よくわからなかった。なお、「シェッター」というのは、金型関係の用語らしい。