◎橋本進吉「国語の音節構造と母音の特性」を読む
昨年の11月末、五反田の古書展で、『昭和十六年十一月 日本諸学振興委員会研究報告 第十二篇(国語国文学)』(教学局、1942年1月)というものを入手した。
ここには、池田亀鑑、平山輝男、有坂秀世、岩淵悦太郎、橋本進吉、西尾實、守随憲治、穎原退蔵といった面々がおこなった報告が掲載されている。これで、古書価200円は安かった。
これらの報告のうち、橋本進吉の報告「国語の音節構造と母音の特性」を、本日以降、何回かに分けて紹介してみたい。
国語の音節構造と母音の特性
東京帝国大学教授文学博士 橋 本 進 吉
私のこれから申上げようとしますことは、既に先程池上〔禎造〕さんの御話の中に出て居りましたことの一部分のやうなものであります。さう云ふ意味で或は池上さんの御話の一部分の注釈或は解説の如きものになるのかも知れませぬ。注釈ならば委しく分るやうにするのがよいのですけれども、時間がございませぬので、少し急がなくてはならないかと思ひます。
現代の標準語における音節は其の構造から観ますと、大抵〈タイテイ〉四種類に分けることが出来ると思ひます。第一は母音一つから出来上つて居る音節で、ア、イ、ウ、エ、オ、のやうなもの、第二は母音の前に子音が結びついたもので、カ、キ、ク、ケとか、キヤ、シヤとか云ふやうなもの、第三にはン一つで成立つて居るもの、第四は促音、此の促る〈ツマル〉音も一つの音節と認むべきであると考へます。先づ大きく分けて此の四つ位になります。此の中〈ウチ〉の後の二つ、即ちンと促音とは後世になつて出来たものと認められるのでありまして、古代からあつたのは最初の二種類、即ち母音一つから出来上つて居るものと、母音の前に子苻音結びついて出来たものと、此の二種類であります。
さうしますと国語本来の音節構造としては必ず母音が必要である。さうして子音がそれに附くことがありますが、それは母音の前に附くのであつて、後へ附くことはないのであります。詰り〈ツマリ〉音節としては母音で終る、所謂開音節であります。
斯様〈カヨウ〉に古代国語に於いては、母音は音節を構造する為には欠くべからざるものでありますが、併し母音一つだけで出来たアイウエオと云ふやうな音節には色々な特異性がありまして、国語の音節構造の最も基本的な形式としましては、矢張り母音の前に子音が附いたものであると考へられます。〈160~161ページ〉【以下、次回】
昨年の11月末、五反田の古書展で、『昭和十六年十一月 日本諸学振興委員会研究報告 第十二篇(国語国文学)』(教学局、1942年1月)というものを入手した。
ここには、池田亀鑑、平山輝男、有坂秀世、岩淵悦太郎、橋本進吉、西尾實、守随憲治、穎原退蔵といった面々がおこなった報告が掲載されている。これで、古書価200円は安かった。
これらの報告のうち、橋本進吉の報告「国語の音節構造と母音の特性」を、本日以降、何回かに分けて紹介してみたい。
国語の音節構造と母音の特性
東京帝国大学教授文学博士 橋 本 進 吉
私のこれから申上げようとしますことは、既に先程池上〔禎造〕さんの御話の中に出て居りましたことの一部分のやうなものであります。さう云ふ意味で或は池上さんの御話の一部分の注釈或は解説の如きものになるのかも知れませぬ。注釈ならば委しく分るやうにするのがよいのですけれども、時間がございませぬので、少し急がなくてはならないかと思ひます。
現代の標準語における音節は其の構造から観ますと、大抵〈タイテイ〉四種類に分けることが出来ると思ひます。第一は母音一つから出来上つて居る音節で、ア、イ、ウ、エ、オ、のやうなもの、第二は母音の前に子音が結びついたもので、カ、キ、ク、ケとか、キヤ、シヤとか云ふやうなもの、第三にはン一つで成立つて居るもの、第四は促音、此の促る〈ツマル〉音も一つの音節と認むべきであると考へます。先づ大きく分けて此の四つ位になります。此の中〈ウチ〉の後の二つ、即ちンと促音とは後世になつて出来たものと認められるのでありまして、古代からあつたのは最初の二種類、即ち母音一つから出来上つて居るものと、母音の前に子苻音結びついて出来たものと、此の二種類であります。
さうしますと国語本来の音節構造としては必ず母音が必要である。さうして子音がそれに附くことがありますが、それは母音の前に附くのであつて、後へ附くことはないのであります。詰り〈ツマリ〉音節としては母音で終る、所謂開音節であります。
斯様〈カヨウ〉に古代国語に於いては、母音は音節を構造する為には欠くべからざるものでありますが、併し母音一つだけで出来たアイウエオと云ふやうな音節には色々な特異性がありまして、国語の音節構造の最も基本的な形式としましては、矢張り母音の前に子音が附いたものであると考へられます。〈160~161ページ〉【以下、次回】
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