礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

松川事件「真犯人からの手紙」は本物か

2015-07-10 05:40:21 | コラムと名言

◎松川事件「真犯人からの手紙」は本物か

 松川事件が最高裁で審理されていた一九五八年(昭和三三)一一月、弁護団の松本善明〈ゼンメイ〉弁護士宛に、「真犯人からの手紙」が届くという出来事があった。
 以下は、ウィキペディア「松川事件」からの引用(昨日、閲覧)。

 1958年11月、被告側弁護団の一員だった松本善明宛に、「私達は現犯人」(原文ママ)と記した手紙が届いた。「私達は福島列車転覆事件を実際にやった私達今(原文ママ)、被告として裁判に付されている方々本当に申し譯なく思います」などとあり、事件に関わったのは7人で、名古屋(3人)、前橋(2人)、岡山(2人)にいる、とし、更に、「事件には当時の共産係二名に関係して居ります」と記されていた。また、手紙が愛知県名古屋市熱田区から出されたことが封筒の裏面に記載されていた。
 弁護団はジャーナリストなどとこの手紙を調査し、名古屋市熱田区の旅館で書かれた可能性があることを突き止めた。手紙の筆者は、年齢当時35歳以上、高等小学校卒、文章をほとんど書かない、肉体労働に従事、東日本出身(東北地方か北海道)で、若い頃から外国で生活していた、という人物像が浮かんだ。
 事件当時、松川駅の方から歩いてくる9人の背の高い男が目撃されており(『にっぽん泥棒物語』で映画化)、「真犯人」からの手紙の人数と一致し、手紙の信用性を「決定的に高めた」としている。手紙を受け取った松本は「これは本物だ」と第一印象を述べている。

 ウィキペディア同項の執筆者は、松本善明氏が書いた『謀略――再び歴史の舞台に登場する松川事件』(新日本出版社、二〇一二)を参照している。この本は私も、一年ほど前に購入し、一読している。
 関係する部分を、引用させていだだこう(八三~八七ページ)。

 この手紙については、すでに紹介した大野達三さんの『松川事件の犯人を追って』〔新日本出版社、一九九一〕、吉原公一郎さんの『松川事件の真犯人』〔三一新書、一九六二〕、伊部正之さんの『松川裁判から、いま何を学ぶか』(二〇〇九年、岩波書店刊)のほかに、斎藤茂男さんの『夢追い人よ』(一九八九年、築地書館刊)など、多くの松川事件の真犯人について論じた著書に取り上げられてきました。
 しかし、この手紙を受け取った当の本人である私自身がこれについて述べたのは、『民主文学』二〇〇九年九月号の「松川事件六〇年特集」が初めてでした。自分の問題なのでこれまであまり書いてこなかったのです。けれども、今回は、これはやはり最も重要な真犯人捜査の手がかりになると考え、知っていることのすべてを書くことにしました。私は前述の皆さんの労作なども参考にしながら、真犯人への到達の道を切り開きたいと思うのです。
 第四節 真犯人からの手紙
 私宛に来た真犯人からの手紙は、前掲の著書などに引用されていますが、まずどんな手紙が来たか、内容をまず知っていただくのは不可欠でしょう。読者の皆さんにもこれが本物かどうか考えながら読んでいただきたいと思うのです。
 この手紙は一九五八年一一月一六日となっていますが、投函は「昭和局三三年一一月二〇日午後零時~六時」で、封筒表は「東京都内弁護士会館内松川事件担当弁護人松本善明殿」となっており、裏面は「愛知県名古屋市熱田区丸高出」となっていました。三枚の便箋に書かれてありましたが、それを全文紹介します。
 行替え、句読点、仮名遣いの大部分は原文のままにして、読者に手紙の雰囲気を感じ取っていただきたいと思いました。また、「せ」という字は「也」、「会う」の字は「公う」というように読める特徴をもっています。その他の誤字の一部は修正しましたことを付記します。
「突然のお手紙失礼致します先日松川事件第三回口頭弁論が終わりましたが実は約十年前私達七人にて事件を起した其の一人ですが今裁判を受けてゐられる被告の方々には当時の事件以来今日迄十年本当にお気の毒な事と思います私達七人が自首しない為に最高裁まで裁判を持って行かれましたが私達の自首する口が近づいて来ました■■又、最高裁の成行きを私達は今守って見て居りますのでどうか其れ迄現被告の方々に申し譯御座居ま也んが頑張って下さい私達と、かはって晴れる日が近い日に来ます、其れ迄私達七人を社会に置いて下さい(■■は、差出人本人が消した字)
 私達七人の内二人は名古屋、二人は前橋、二人は岡山に現在います鉄道関係、東芝工場関係は全然関係ありま也ん。(諏訪メモ)で対立して居ますが其も関係ありま也んので私達七人を代表してお知らせします――
 私達七人は弁護側、又起訴した検察側又最高裁も重大な責任があり、私達は現犯人なので現在裁判に関係してゐるどれにも、私達は賛成しておりま也ん又、最高裁も一審二審とならって判決を下そうとしております、起訴しました無実の被告を裁判にかけた検察側が一番重大な責任があり、被告を受け持つ弁護側も、あっけないところがあると思います私達七人が現、社会にいるとしらず、回覧で事実調べを終わるなど、最高裁も私達七人にいわ也れば、あっけない最高裁と思います、私達は福島列車転覆事件を実際にやった私達今、被告として裁判に付されている方々本当に申し譯なく思います、私達七人が白首する迄もう外のこと思はず気を大きく持つ日を送ってほしいものです勿論事件にはたしかに道具はつかっておりますが出所については自首して後に致します事件には当時の共産係二名に関係して居りますので自首するまでは申也られませんが自首後申すことに致します
 私達が自首しない為にこのような最高裁判になった結果について日本人として本当に私達七人は申し譯けなくおもいますどうか、七人が自首する迄お詫びいたします」
 ここまで便箋二枚に書かれています。
 三枚目は、
「松本弁護人様へ 私達は突然お手紙をだす事に七人で致しましたので十年後の今日松本様へ私達が犯人であることを自首し現在の被告の方々には本当に申し譯なく詫びる気持で一杯です、だが私達は、今最高裁の出方を見守って自首する日をきめております、無罪である現被告を起訴した検察側、また私にいわせれば弁護側にも幾分の手おちもありいずれにしても私達が自首する迄どうか現被告の弁護をお願ゐします、自首する日は二日前に手紙にて松本様にお知らせすると共に弁護人十数人をともなって、お公い致します、それ迄宜しく
 住所は自首するまでそのままにしておいて下さい
 日本人として正しく裁かれる日を待つ日、近く自首する私達七人に栄あれ
  十一月十六日 日曜日」

 この手紙について、松本善明氏は、「読者の皆さんにもこれが本物かどうか考えながら読んでいただきたいと思うのです」と言われている。そこで、これが「本物」かどうか、検討してみることにしたい。【この話、続く】

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