礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

警視庁令「興業取締規則」(1940)と「脚本」の検閲

2013-05-26 17:14:30 | 日記

◎警視庁令「興業取締規則」(1940)と「脚本」の検閲

 昨日の続きである。ここのところ、日本演劇協会編纂『演劇年鑑 昭和十八年版』(東宝書店、一九四三)の巻末にある「興業取締規則」(警視庁令第二号、一九四〇年二月一日)を紹介している。昨日は、第三章「興業」第二節「技芸者、演技者、演出者」の第八十五条から第八十七条までを紹介したが、本日は、同章の第三節「脚本」の全条文を紹介する。

 第三章「興業」第三節「脚本」
第九十八条 脚本ヲ演劇興行ノ用ニ供セントスルトキハ一頁三百字詰以内ニシテ(活字印刷ノモノヲ除ク)明瞭ニ記載シタル脚本正副二部ニ左ノ事項(脚本題名変更ノ場合ハ第三号事項ヲ除ク)ヲ具シ交付ヲ受ケントスル日ヨリ十日以前ニ(再検閲ノモノニシテ検印アルモノニ限リ正本ノミヲ五日以前)警視総監ニ申請シ許可ヲ受クベシ脚本ノ題名ヲ変更セムトスルトキ亦同ジ
一 住所、氏名及生年月日(法人ニ在リテハ其ノ名称、事務所所在地、代表者ノ住所、氏名及生年月日)
二 題名及作者名(翻訳又ハ改作ニ係ルモノハ原名及原作者名ヲモ付記スルコト)
三 脚本冊数及頁数
四 上演場所及期日
五 上演団体名
前項各号ノ外必要アリト認メタルトキハ脚色中ノ事件ニ利害関係ヲ有スル者ノ承諾書ヲ添付セシムルコトアルベシ
第九十九条 前条ノ許可ヲ為シタルトキハ脚本ニ様式第二号ノ許可ノ印ヲ押捺シ交付ス、許可ノ有効期間ハ三年トス
第百条 脚本ニシテ左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ第九十八条ノ許可ヲ為サズ
一 皇室ノ尊厳ヲ冒涜シ国威ヲ損スル虞レアルモノ
ニ 公序良俗ヲ紊ル〈みだる〉思想ヲ鼓吹スル虞レアルモノ
三 嫌悪卑猥又ハ惨酷ニ渉ルノ虞アルモノ
四 犯罪ノ手段方法ヲ誘致助成スルノ虞アルモノ
六 濫ニ〈みだりに〉時事ヲ諷シ又ハ政議ニ紛ラハシキモノ
七 国交親善ヲ阻害スルノ虞アルモノ
八 教育上悪影響ヲ及ボス虞アルモノ
九 著シク低劣卑俗ニ亘ルモノ
十 前各号ノ外公安ヲ害シ又ハ風俗ヲ紊ルノ虞アリト認メタルモノ
第百一条 演芸興行ニシテ必要アリト認メタルトキハ其ノ台本ヲ警視総監ニ提出シ許可ヲ受ケシムルコトアルベシ
第百二条 興行者以外ノ者ト雖モ興行ヲ為ストキハ第五十九条乃至第七十九条、第八十三条、第八十四条ノ規定ヲ、技芸者、競技者又ハ演出者以外ノ者ト雖モ興業ニ出演シテ技芸、競技又ハ演出ヲ為ストキハ第九十条、第九十一条ノ規定ヲ準用ス

「脚本」の検閲についての規定である。「検閲」という言葉は、出てこないが、第九十八条の「再検閲」という言葉があるので、これが検閲についての規定であることは間違いない。
 条文中に「虞レ」と「虞」という、ふた通りの表記があるが、原文のまま。第百条に「五」が欠けているが、これも原文のまま。

*本日は、これまで。明日は、日本演劇協会編纂『演劇年鑑 昭和十八年版』(東宝書店、一九四三)から、別の資料を選んで紹介します。

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「興業取締規則」(1940)と「技芸者、演技者、演出者」の遵守事項

2013-05-25 20:42:55 | 日記

◎「興業取締規則」(1940)と「技芸者、演技者、演出者」の遵守事項

 二三日からの続きである。日本演劇協会編纂『演劇年鑑 昭和十八年版』(東宝書店、一九四三)の巻末にある「興業取締規則」(警視庁令第二号、一九四〇年二月一日)の紹介を続ける。二三日は、第三章「興業」第二節「技芸者、演技者、演出者」の第八十五条から第八十七条までを紹介したが、本日は、第八十五条から第八十七条までを紹介する。

 第三章「興業」第二節「技芸者、演技者、演出者」
第九十一条 技芸者、演技者、演出者ハ興行中左ノ各号ノ事項ヲ遵守スベシ
一 観覧席ニ出入シ又ハ観覧者ヲ楽屋、舞台等ニ出入セシメザルコト但シ臨検警察官吏ノ承認ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
二 公安ヲ害シ又ハ風俗ヲ紊ス〈みだす〉虞〈おそれ〉アル言辞、所作、扮装其ノ他ノ行為ヲ為シ又ハ為サシメザルコト
三 演劇行ニ在リテハ第九十八条ノ許可ヲ受ケタル脚本ニ相違スル行為ヲ為シ又ハ為サシメザルコト
四 技芸者ニアリテハ興行中技芸者之証ヲ携帯スルコト但シ再交付申請中ノモノニ在リテハ此ノ限ニ在ラズ
五 技芸者ニ在リテハ扮装ノ侭街路ニ佇立〈ちょりつ〉シ若ハ徘徊セザルコト
六 前各号ノ外所轄警察署長ノ命ジタル事項
第九十二条 技芸者ハ許可ヲ受ケタル日ヨリ五年毎ニ技芸者之証ヲ警視総監ニ提出シ検査ヲ受クベシ
第九十三条 技芸者之証ノ記載事項ニ異動ヲ生ジタルトキハ五日以内ニ警視総監ニ届出デ技芸者之証ノ訂正ヲ受クベシ
第九十四条 技芸者之証ヲ滅失又ハ毀損シタルトキハ其ノ自由ヲ記シ五日以内ニ警視総監ニ屈出デ再交付ヲ受クベシ
第九十五条 技芸者、演技者、演出者其ノ業務ヲ廃止シタルトキハ(技芸者ニ在リテハ技芸者之証ヲ添へ)遅滞ナク警視総監ニ届出ヅベシ 【以下略】 

*本日は、これまで。明日は、第三章「興業」第三節「脚本」の箇所を紹介します。

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警視庁令「興業取締規則」(1940)と「技芸者之証」

2013-05-23 16:08:23 | 日記

◎警視庁令「興業取締規則」(1940)と「技芸者之証」

 昨二二日、古書店で日本演劇協会編纂『演劇年鑑 昭和十八年版』(東宝書店、一九四三)を入手した。興味深い情報とデータが満載の一冊であるが、本日は、同書の巻末にあった「興業取締規則」(警視庁令第二号、一九四〇年二月一日)の一部を紹介しよう。

 第三章「興業」第二節「技芸者、演技者、演出者」
第八十五条 技芸者タラントスル者ハ左ノ各号ノ事項ヲ記載シタル許可申請書正副二通ヲ警視庁ニ提出シ許可ヲ受クベシ但シ演劇、演芸ノ教授ヲ為スヲ業トスル者ニシテ警視庁ニ於テ必要ナシト認メタル者ハ此ノ限ニ在ラズ
一 本籍、住所、氏名及生年月日
二 芸名.
三 技芸ノ種類
四 専属スル興行場又ハ劇団、協会若ハ教授所ノ名称及所在地
前項ノ申請書ニハ履歴書及写真(出願前六月以内ニ撮影シタル小名刺型、無帽、半身、無台紙)二葉ヲ添附スベシ
第八十六条 前条ノ許可ヲ与ヘタル者ニ対シテハ様式第一号技芸者之証ヲ交付ス
第八十七条 左ノ各号ノ一〈ひとつ〉ニ該当スルモノニ対シテハ第八十五条ノ許可ヲ為サズ
一 精神病者又ハ不具畸形者ニシテ技芸ヲ為スヲ不適当ト認ムル者
二 十四歳未満ノ者ニシテ軽業〈かるわざ〉、曲芸其他危険ナル技芸ヲ為サントスル者
三 偽名其ノ他不正ノ方法ニ依リ申請シタル者
四 許可ノ取消処分ヲ受ケ一年以上ヲ経過セザル者
五 故ラニ〈いたずらに〉他人ト同一又ハ紛ラハシキ芸名ヲ用ヒタル者
六 思想、素行、経歴其ノ他不適当ト認ムル者       【以下略】

*本日は、これまで。「興業取締規則」の紹介、および『演劇年鑑 昭和十八年版』の紹介は続行しますが、明二四日から数日間は、都合により、ブログをお休みします。

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「当用漢字表」(1946年11月)の簡易漢字について

2013-05-22 08:56:27 | 日記

◎「当用漢字表」(1946年11月)の簡易漢字について

 数日前、総理庁・文部省編集『公文用語の手引 改訂版』(印刷局、一九四九)という本を入手した。当然、「当用漢字表」(一九四六年一一月「内閣告示第三十二号」)も載っている。その最後に、「簡易字体」の一覧があったので、これをそのまま紹介してみよう。

三 画 万
四 画 区円欠双予
五 画 台写旧号弁処圧
六 画 会礼当糸虫辺弐仮両
七 画 乱余励壱対択沢声医麦囲労体図
八 画 併殴学実宝岳担画並径枢欧参拡炉拠届
九 画 浅発独研窃胆変点茎栄
十 画 剤恋帰残浜称蚕挙悩党
十一画 断済訳釈斎脳経粛逓猟惨
十二画 満属廃湾蛮歯軽営覚証絵堕
十三画 勧数滝献継続豊践辞遅鉄随触誉鉱塩楼
十四画 駆駅関銭読総隠
十五画 嘱権歓霊賛潜
十六画 穏
十七画 齢犠
十八画 観
二十画 髄
  (計一三一字)

 これを見て、いくつか気づくことがある。「区」の最後の画は、丸みを帯びて曲がっている。これは、「区」の部首が、カクシガマエであることを意識したからであろう。「礼」のヘンは「示」になっている。だから、「六画」のところにはいっている。「辺」のシンニュウにはテンがふたつある。だから、「六画」のところにはいっている。「逓」、「遅」のシンニュウにもテンがふたつある。「齢」の最後の二画は「マ」になっている。
 活字そのものも、いかにも洗練されておらず、総じて、かなり過渡的な印象を与える一覧であった。

今日の名言 2013・5・22

◎国内の自浄作用は働かなかった

 本日の東京新聞「こちら特報部」欄より。一連の政治家の暴言に対する批判が、いずれも、海外から始まっていることについて、東京新聞は、「国内の自浄作用は働かなかった」と捉え、「私たちメディアの責任もある」と受けとめている。執筆は、上田千秋・小坂井文彦両記者。この言葉は、天下の朝日新聞から聞きたかったと思う。

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『かぶきの成立』(1949)における注意すべきルビ

2013-05-21 12:46:29 | 日記

◎『かぶきの成立』(1949)における注意すべきルビ

 四月一八日のコラムで、『須多因氏講義筆記』(牧野善兵衛、第三版一八八九年一二月)に見られる特異なルビについて言及した。それは、「意氣自ラ」の「自」の右上に(「氣」の右下に)、一字のみ〈オ〉と振られているルビである。コラムでは、おそらくこれは、「自ラ」を〈オノズカラ〉と読め(〈ミズカラ〉ではなく)という符号であろうと推定し、また、この符号について、漢字の横に振って読みを指定しているという意味においては、ルビと言えるだろうという見解を示しておいた。
 その後、某古書店の百円均一の棚で、林屋辰三郎『かぶきの成立』(推古書院、一九四九)という本を入手した。戦後間もなく発行された本であり、いかにも貧弱な装丁だが、当時としては画期的な歌舞伎論だったのではないかと推測する。
 読んでいて驚いた。その六〇ページの「民心は自ら向けられる」とある部分の「自」に、〈オ〉という「ルビ」が振られていたのである。もちろんこれは、「自ラ」を〈オノズカラ〉と読め(〈ミズカラ〉ではなく)という指示である。
『須多因氏講義筆記』における〈オ〉というルビのような符号は、明治中期の特殊な符号であるかと思っていたが、戦後においても、こうした例があったことに驚いたのである。ただし、『須多因氏講義筆記』における〈オ〉が、「自」の右上に(前の字の右下に)振られていたのに対し、『かぶきの成立』の〈オ〉は、「自」の右側のルビの位置に(正確に言えば、ルビに位置に上部分に)振られている。
 著者の林屋辰三郎は、なぜこういう「ルビ」の振りかたをしたのか。こういう「ルビ」の振りかたをどこで覚えたのだろうか。そして、こういう「ルビ」の振りかたを何と呼ぶのだろうか。

【昨日のクイズの正解】 1 終夜(よすがら)  2 逝る(みまかる)  
3 嗇(やぶさか)  4 汚穢し(むさくるし)  5 咲む(ゑむ)  
6 忽(ゆるかせ)  7 饗応す(もてなす)  8 綿津海(わたつみ)  
9 運る(めぐる)  10 臠す(みそなはす)  
11 覇(ほだし)  12 阻つ(へだつ)  

今日の名言 2013・5・21

◎此頃カブキ踊ト云事有

『当代記』第三巻は、慶長八年(一六〇三)四月のところに、こう記しているという。〈このごろかぶきおどりということあり〉と読む。林屋辰三郎『かぶきの成立』(推古書院、1949)59ページより。

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