私がいつも腰痛治療で通っている鍼灸医Aさんとの雑談の中で、「給料は全然上がらないのに、ガソリンや食料品の値段ばかり上がって」という話から、スタグフレーションの話題に及んだ時です。「××さん(私の本名)、スタグフレーションって言葉の意味を説明できます?」とAさんが聞くので、「賃金は上がらないのに物価だけが上昇する現象でしょう」と私が答え、Aさんが「その通りですね」と言いながら出してきたのが、やたら分厚い中学校社会科の参考書でした。
※追記:今考えると、何故そんなものが鍼灸医の診察室にあったのか?と思うのですが、ひょっとしたら、この先生は、当該参考書を簡易便利事典か、或いは次の予約診療時間までの暇つぶしの読み物として使っていたのかも?
私は、物珍しさと懐かしさも手伝って、その参考書をパラパラとめくってみたのですが、直ぐに読むのに嫌気がさしてきました。その参考書は旺文社発行によるもので、「詳しい解説で日常学習から入試レベルまで対応!」「最強の執筆陣によるハイレベル参考書」と銘打たれていたのですが、何と600ページもあるのです。
早速その内容にも目を通してみましたが、ハイレベルと銘打っているだけあって、確かに詳しいのは詳しいです。地理・歴史・公民の中学校社会科3分野全てを網羅していて、例えば公民的分野の先の「スタグフレーション」の項目の所でも、下記の様な説明が為されていました。
>(6) スタグフレーション―不況なのにインフレ
>stagnation(停滞)、inflation(インフレーション)の合成語。経済活動の停滞(不況)と物価の持続的な上昇(インフレ)が共存する状態を指す。失業が悪化するとともにインフレが進行する。デフレーションと比べると、インフレによって貨幣や預貯金の価値が低下する分だけ生活がさらに苦しくなる。スタグフレーションの主な原因は、いろいろな供給が少なくなることである。原油価格が急に高くなると、それまでの価格で生産していた企業がやっていけなくなり商品の供給が少なくなる。石油危機(石油ショック)の際に起こったスタグフレーションでは省エネなどでエネルギーを節約し、のりきることができた。
・・・とまあ、こんな感じです。確かに大の大人が読めば、それでもまだ書いてある事は「何となく」理解できるでしょうが、この文章を中学生が読んで、果たして何人の生徒が内容を理解できるやら。オイオイ、お小遣い程度の金銭感覚しか無い中学生を相手に、いきなり「貨幣や預貯金の価値が低下」なんて説明だけで、中身を理解させるつもりかよ。これでも一応「自習用参考書」なので、あくまでもそのつもりなのでしょうが。私は、こう見えても昔から社会科大好き人間でしたが、そんな私ですら、この参考書を見た途端に「嗚呼、教師になぞ成らずにいて良かった」と、つくづく思った位です。
その前後のページをめくってみましたが、なかなか手強いというか。「ものが売れる→会社の生産活動が活発になり賃金が上昇→在庫が増える→生産が減り賃金も下がる」という景気循環の説明まではまだ分かるとしても、その横の備考欄にある「三面等価の原則」の説明に至っては・・・。
>三面等価の原則
>経済活動は、生産→流通→消費という循環を繰り返すが、これらは同一の価値の流れを異なった側面から捉えたにすぎないので、概念上の調整を加えると、生産=分配=支出となる。
・・・何か、言葉が宙を舞っているような感じで。多分「金は天下の回りもの」という事を言わんとしているのでしょうが、こんな説明では、大の大人の私ですら、何を言っているのか、さっぱり分からんわい!
実際、今の中学生の間の学力格差は、すごいらしいです。公立進学校はおろか、灘や開成やラサールに行くような子なら、ひょっとしたらこの説明でも、実際には何も分からなくても、「何となく」分かった様な気分にもなれるでしょう。しかし、九九や分数の計算も出来ない、小学校で習う漢字もまともに読み書き出来ない生徒が相手では、こんな説明で分かる筈が無い。何を言っているのかチンプンカンプンなまま、45分間なり1時間なりを教室の椅子にずっと座ったまま毎日聞かされ続けたら、そりゃあ暴れたくもなるわな。
昨今、例の「品流し」で有名な東京都品川区の教育長を筆頭にし、「競争教育は、格差や差別の象徴ではなく、寧ろそれ負けずに打ち勝つ力を、身につけさせる為のものだ」という新自由主義教育論が、一部でやたら持てはやされるようになりました。そのお陰で、有料補習塾に力を入れている都内杉並区立和田中学校や、有名大学への進学率を飛躍的に伸ばした京都市立堀川高校の例が、やたら注目されています。
しかし、上記の様な「分かったようで分からない」用語解説を、そのまま丸暗記させるだけの教育を幾ら繰り返した所で、本当に「周囲の環境に打ち勝つ力」や「生きた学力」が身につくのでしょうかね。私は疑問に思います。
寧ろ、教師としての真の力量が試されるのは、和田中学校や堀川高校なんかではなく、低学力校においてなのです。進学校では、こと受験という事だけに限って言えば、仮に教師の力量が劣っていたとしても、生徒は放っておいても勝手に勉強しますから。
社会科という教科においては、特にそうです。何故ならば、社会科というのは、日本や世界における様々な出来事やニュースに対する自分の認識(社会認識)を広げ、物の見方考え方を鍛えていく教科ですから、漢字の書き取りや計算問題の様に、「意味内容は分からなくても良いから、とにかくこの問題をやっておけ」という形でのゴマカシは、一切通用しません。また、進学校の場合では、「実際には何も分からなくても如何にも分かったような気分に」錯覚させる事もまだしも可能ですが、低学力校ではそういうのも一切通用しません。
若し私が定時制高校の社会科教師なら、こんな「スタグフレーション」や「三面等価の法則」みたいな説明ではなく、もっと生徒にとって身近な所から授業を進めますね。例えば、「毎日毎日朝から晩までこき使われているのに、何故納豆ご飯やカップラーメンしか食えないのか?」という所から、経済の仕組みについて説明していきます。
その事によって、例えば、派遣会社がその本質においてあいりん地区の手配師と何ら変わりない事や、エムクルーなどの貧困ビジネスの搾取の仕組み、借金の金利が雪だるま式に増える複利のカラクリ、連帯保証の怖さなどについて、しっかり教え込む事の方が、よっぽど「周囲の環境に打ち勝つ力」になるでしょう。たとえ生徒が将来自営業の道に進んで、銀行に担保を差し出し保証人を立てなければならない様になったとしても、その事を知っているのと全く知らないのとでは、その生徒の将来は天と地ほども違ってきます。
或いは、今日び大多数の中高生が利用している携帯インターネットやメールを教材にして、学校裏サイトの虐めの問題や、2chなどのメディア・リテラシーの問題、携帯電話部品のレアメタル争奪戦からアフリカの内戦や南北問題、またそういったマイナス面だけでなく、ネット情報を通しての情報共有や市民メディア育成の可能性について、教えるという事も出来るでしょう。
参考書の内容はそれこそ玉石混交で、片やイラク戦争や非核地帯条約の事も取り上げられている一方で、例えば地理的分野での中国の改革開放政策についての記述では、「それまでの社会主義一辺倒から、外資を導入しての市場経済導入で豊かになった」という記述だけで、低賃金やスウェット・ショップ(搾取工場)の現状についての言及は何も無かったり。但し環境・エネルギー問題には言及していましたが。
私はこの参考書を見て、改めて確信しました。こんな、「椅子取りゲーム」の中で生き延びる事ばかり教え込んで、椅子に座れない奴は最初から見捨て、「椅子を増やす」事なぞ思いも及ばないような教育ばかりしていたら、最後には誰も教師に成りたいと思う人なぞ居なくなり、日本中の子供は全員、ブッシュかホリエモンか加藤の、3つのキャラのうちのどれかになってしまうだろうな、と。
ブッシュというのは、謂わば「勝ち組」政治家のネオコンです。この旺文社の参考書に書いてある事をそのまま信じて、世界を単純に、自分本位の基準で善と悪に分けて考える事しか出来ない人間です。ホリエモンというのは「勝ち組」財界人で、これも参考書に書いてある事をそのまま信じて、己の私利私欲の為にはどんな悪どい手を使っても構わないと思い込み、或いは法律スレスレの事をやっていても捕まらなければ良しとし、それを恰も個人の才覚であるかのように履き違えている人間です。そして最後の加藤が「負け組」に転落した無差別殺傷事件の容疑者で、次第に参考書に書いてある事がチンプンカンプンになっていって、最後に切れてしまった人間です。
このままの教育で行くと、この日本には、最後にはその3タイプの人間しかいなくなるでしょう。それでブッシュとホリエモンが、加藤からの無差別テロに怯えて、形だけは如何にも民主国家を装いながら、その実、国内を監視カメラだらけにして、ビラ撒きもデモも徹底的に弾圧する、と。かくして日本は、今の北朝鮮・米国・イスラエルや、かつての南アフリカのような国家になる、と。
※追記:今考えると、何故そんなものが鍼灸医の診察室にあったのか?と思うのですが、ひょっとしたら、この先生は、当該参考書を簡易便利事典か、或いは次の予約診療時間までの暇つぶしの読み物として使っていたのかも?
私は、物珍しさと懐かしさも手伝って、その参考書をパラパラとめくってみたのですが、直ぐに読むのに嫌気がさしてきました。その参考書は旺文社発行によるもので、「詳しい解説で日常学習から入試レベルまで対応!」「最強の執筆陣によるハイレベル参考書」と銘打たれていたのですが、何と600ページもあるのです。
早速その内容にも目を通してみましたが、ハイレベルと銘打っているだけあって、確かに詳しいのは詳しいです。地理・歴史・公民の中学校社会科3分野全てを網羅していて、例えば公民的分野の先の「スタグフレーション」の項目の所でも、下記の様な説明が為されていました。
>(6) スタグフレーション―不況なのにインフレ
>stagnation(停滞)、inflation(インフレーション)の合成語。経済活動の停滞(不況)と物価の持続的な上昇(インフレ)が共存する状態を指す。失業が悪化するとともにインフレが進行する。デフレーションと比べると、インフレによって貨幣や預貯金の価値が低下する分だけ生活がさらに苦しくなる。スタグフレーションの主な原因は、いろいろな供給が少なくなることである。原油価格が急に高くなると、それまでの価格で生産していた企業がやっていけなくなり商品の供給が少なくなる。石油危機(石油ショック)の際に起こったスタグフレーションでは省エネなどでエネルギーを節約し、のりきることができた。
・・・とまあ、こんな感じです。確かに大の大人が読めば、それでもまだ書いてある事は「何となく」理解できるでしょうが、この文章を中学生が読んで、果たして何人の生徒が内容を理解できるやら。オイオイ、お小遣い程度の金銭感覚しか無い中学生を相手に、いきなり「貨幣や預貯金の価値が低下」なんて説明だけで、中身を理解させるつもりかよ。これでも一応「自習用参考書」なので、あくまでもそのつもりなのでしょうが。私は、こう見えても昔から社会科大好き人間でしたが、そんな私ですら、この参考書を見た途端に「嗚呼、教師になぞ成らずにいて良かった」と、つくづく思った位です。
その前後のページをめくってみましたが、なかなか手強いというか。「ものが売れる→会社の生産活動が活発になり賃金が上昇→在庫が増える→生産が減り賃金も下がる」という景気循環の説明まではまだ分かるとしても、その横の備考欄にある「三面等価の原則」の説明に至っては・・・。
>三面等価の原則
>経済活動は、生産→流通→消費という循環を繰り返すが、これらは同一の価値の流れを異なった側面から捉えたにすぎないので、概念上の調整を加えると、生産=分配=支出となる。
・・・何か、言葉が宙を舞っているような感じで。多分「金は天下の回りもの」という事を言わんとしているのでしょうが、こんな説明では、大の大人の私ですら、何を言っているのか、さっぱり分からんわい!
実際、今の中学生の間の学力格差は、すごいらしいです。公立進学校はおろか、灘や開成やラサールに行くような子なら、ひょっとしたらこの説明でも、実際には何も分からなくても、「何となく」分かった様な気分にもなれるでしょう。しかし、九九や分数の計算も出来ない、小学校で習う漢字もまともに読み書き出来ない生徒が相手では、こんな説明で分かる筈が無い。何を言っているのかチンプンカンプンなまま、45分間なり1時間なりを教室の椅子にずっと座ったまま毎日聞かされ続けたら、そりゃあ暴れたくもなるわな。
昨今、例の「品流し」で有名な東京都品川区の教育長を筆頭にし、「競争教育は、格差や差別の象徴ではなく、寧ろそれ負けずに打ち勝つ力を、身につけさせる為のものだ」という新自由主義教育論が、一部でやたら持てはやされるようになりました。そのお陰で、有料補習塾に力を入れている都内杉並区立和田中学校や、有名大学への進学率を飛躍的に伸ばした京都市立堀川高校の例が、やたら注目されています。
しかし、上記の様な「分かったようで分からない」用語解説を、そのまま丸暗記させるだけの教育を幾ら繰り返した所で、本当に「周囲の環境に打ち勝つ力」や「生きた学力」が身につくのでしょうかね。私は疑問に思います。
寧ろ、教師としての真の力量が試されるのは、和田中学校や堀川高校なんかではなく、低学力校においてなのです。進学校では、こと受験という事だけに限って言えば、仮に教師の力量が劣っていたとしても、生徒は放っておいても勝手に勉強しますから。
社会科という教科においては、特にそうです。何故ならば、社会科というのは、日本や世界における様々な出来事やニュースに対する自分の認識(社会認識)を広げ、物の見方考え方を鍛えていく教科ですから、漢字の書き取りや計算問題の様に、「意味内容は分からなくても良いから、とにかくこの問題をやっておけ」という形でのゴマカシは、一切通用しません。また、進学校の場合では、「実際には何も分からなくても如何にも分かったような気分に」錯覚させる事もまだしも可能ですが、低学力校ではそういうのも一切通用しません。
若し私が定時制高校の社会科教師なら、こんな「スタグフレーション」や「三面等価の法則」みたいな説明ではなく、もっと生徒にとって身近な所から授業を進めますね。例えば、「毎日毎日朝から晩までこき使われているのに、何故納豆ご飯やカップラーメンしか食えないのか?」という所から、経済の仕組みについて説明していきます。
その事によって、例えば、派遣会社がその本質においてあいりん地区の手配師と何ら変わりない事や、エムクルーなどの貧困ビジネスの搾取の仕組み、借金の金利が雪だるま式に増える複利のカラクリ、連帯保証の怖さなどについて、しっかり教え込む事の方が、よっぽど「周囲の環境に打ち勝つ力」になるでしょう。たとえ生徒が将来自営業の道に進んで、銀行に担保を差し出し保証人を立てなければならない様になったとしても、その事を知っているのと全く知らないのとでは、その生徒の将来は天と地ほども違ってきます。
或いは、今日び大多数の中高生が利用している携帯インターネットやメールを教材にして、学校裏サイトの虐めの問題や、2chなどのメディア・リテラシーの問題、携帯電話部品のレアメタル争奪戦からアフリカの内戦や南北問題、またそういったマイナス面だけでなく、ネット情報を通しての情報共有や市民メディア育成の可能性について、教えるという事も出来るでしょう。
参考書の内容はそれこそ玉石混交で、片やイラク戦争や非核地帯条約の事も取り上げられている一方で、例えば地理的分野での中国の改革開放政策についての記述では、「それまでの社会主義一辺倒から、外資を導入しての市場経済導入で豊かになった」という記述だけで、低賃金やスウェット・ショップ(搾取工場)の現状についての言及は何も無かったり。但し環境・エネルギー問題には言及していましたが。
私はこの参考書を見て、改めて確信しました。こんな、「椅子取りゲーム」の中で生き延びる事ばかり教え込んで、椅子に座れない奴は最初から見捨て、「椅子を増やす」事なぞ思いも及ばないような教育ばかりしていたら、最後には誰も教師に成りたいと思う人なぞ居なくなり、日本中の子供は全員、ブッシュかホリエモンか加藤の、3つのキャラのうちのどれかになってしまうだろうな、と。
ブッシュというのは、謂わば「勝ち組」政治家のネオコンです。この旺文社の参考書に書いてある事をそのまま信じて、世界を単純に、自分本位の基準で善と悪に分けて考える事しか出来ない人間です。ホリエモンというのは「勝ち組」財界人で、これも参考書に書いてある事をそのまま信じて、己の私利私欲の為にはどんな悪どい手を使っても構わないと思い込み、或いは法律スレスレの事をやっていても捕まらなければ良しとし、それを恰も個人の才覚であるかのように履き違えている人間です。そして最後の加藤が「負け組」に転落した無差別殺傷事件の容疑者で、次第に参考書に書いてある事がチンプンカンプンになっていって、最後に切れてしまった人間です。
このままの教育で行くと、この日本には、最後にはその3タイプの人間しかいなくなるでしょう。それでブッシュとホリエモンが、加藤からの無差別テロに怯えて、形だけは如何にも民主国家を装いながら、その実、国内を監視カメラだらけにして、ビラ撒きもデモも徹底的に弾圧する、と。かくして日本は、今の北朝鮮・米国・イスラエルや、かつての南アフリカのような国家になる、と。