朝日新聞が従軍慰安婦の問題で安倍政権や右翼から叩かれています。何でも「従軍慰安婦の事を取り上げた記事の中で、吉田清治という人の証言については、まったく捏造(ねつぞう)である事が明らかになったのに、朝日はその後20年以上も訂正も謝罪もしなかった。この8月になって、ようやく吉田証言のデタラメについて明らかにしたが、そこでも謝罪はなかった。こんなウソツキ新聞は廃刊に追い込んでしまえ」という事のようです。
この吉田清治(よしだ せいじ)という人は、太平洋戦争当時、勤労動員を実施した「労務報国会」という団体の山口県支部の役員として、今の韓国・済州島で軍の命令に基づき「慰安婦狩り」を行ったとされていました。しかし、後に実際に調べてみると、吉田が済州島でその様な事を行った形跡が全然ない事が次第に明るみになってきました。今では、秦郁彦(はた いくひこ、元・日大教授)などの「慰安婦なんて元々いなかった」派だけでなく、吉見義明(中大教授)などの「慰安婦は確かにいた」派によっても、吉田証言の信ぴょう性については否定されています。
でも、この吉田証言以外にも、次に述べる鹿内信隆(しかない のぶたか、元・産経新聞社長)や中曽根康弘(元首相)のように、「慰安婦狩り」に関与した軍の関係者は他にも一杯いるのに、一部の証言だけが否定されたからと言って、それで「従軍慰安婦なんていなかった」という事には全然ならないでしょう。
実際、鹿内は陸軍、中曽根は海軍と、どちらも戦時中は旧日本軍経理部の将校や下士官として、武器や食糧の調達業務を行っていました。その彼らが、自叙伝の中で、慰安婦の調達にも当った事を、戦後も何ら悪びれずに(全く反省も謝罪もせずに!)、得々とその事を自慢しているのですから。
・「女の耐久度」チェックも! 産経新聞の総帥が語っていた軍の慰安所作り(LITERA)
http://lite-ra.com/2014/09/post-440.html
・中曽根元首相が「土人女を集め慰安所開設」! 防衛省に戦時記録が(同上)
http://lite-ra.com/2014/08/post-413.html
・朝日誤報と国連の批判は無関係…安倍政権の慰安婦問題スリカエを暴く(同上)
http://lite-ra.com/2014/09/post-471.html
以下、彼らの自叙伝の記述から「慰安婦狩り」の「自慢話」を引用します。
まずは、鹿内信隆と桜田武・元日経連会長との対談集「今明かす戦後秘史」サンケイ出版より。(記事冒頭の左写真)
「鹿内 (前略)軍隊でなけりゃありえないことだろうけど、戦地に行きますとピー屋が……。
桜田 そう、慰安所の開設。
鹿内 そうなんです。そのときに調弁する女の耐久度とか消耗度、それにどこの女がいいとか悪いとか、それからムシロをくぐってから出て来るまでの“持ち時間”が将校は何分、下士官は何分、兵は何分……といったことまで決めなければならない(笑)。料金にも等級をつける。こんなことを規定しているのが「ピー屋設置要綱」というんで、これも経理学校で教わった。」(以上引用)
(注)文中の「調弁」とは、当時の軍隊用語で、「調達」と同じ意味です。むしろ、当時の日本軍の実態からすると、「略奪」と言った方が良いかも知れません。
そして、松浦敬紀・著、文化放送開発センター・刊「終わりなき海軍」より。(同じく右写真)
この中に、当時、海軍主計士官だった中曽根康弘の述懐が出てきます。
「三千人からの大部隊だ。やがて、原住民の女を襲うものやバクチにふけるものも出てきた。そんなかれらのために、私は苦心して、慰安所をつくってやったこともある。かれらは、ちょうど、たらいのなかにひしめくイモであった。卑屈なところもあるし、ずるい面もあった。そして、私自身、そのイモの一つとして、ゴシゴシともまれてきたのである。」(以上引用)
これのどこが「軍は無関係」ですか。当時の政府や軍部も、裏では積極的に「慰安婦狩り」を行っているではないですか。
しかも、こういう話を、戦後既に30~40年経った1970~80年代においても、まだ戦前と同じ考え方のまま、「女の耐久度」とか「土人女」と言うような、戦争の犠牲になった女性やアジアの人々の人権を平気で踏みにじる様な物言いで、彼らは得々と喋っているのです。
この一事だけでも、中曽根・産経や、彼らと同じ思想を共有する今の安倍政権に、「朝日叩き」を行う資格なぞ、これっぽっちもない事がお分かりになると思います。
右翼から「反日」と忌み嫌われる朝日新聞も、本当は「反権力」でも何でもありません。戦時中は他の新聞と同様に戦争熱を煽ったし、戦後も例えば60年安保闘争の時なぞ、それまでのデモに一見同情的な論調から、一転して政府支持に論調を変えたりもしてきました。今も、消費税増税やTPPについては、読売や産経と同様、推進・賛同の立場に立っています。
それでも、さすがに「何でもかんでも政府べったり」では、「どの新聞も同じだ」という事になって商売にならなくなるので、原発や歴史問題では読売や産経とは違う所を見せようとするのです。その程度の「反権力」なので、怪しげな吉田証言でも、ろくに裏付けも取らずに「商売のネタ」に使ってしまったのです。
もし、朝日が本当に「反権力」なら、読売や産経と一緒になって、「記者クラブ」なぞという御用新聞のサロンに加入して、幹部が政府高官と夜な夜な会食を重ねたりするものですか。
さて、今回、朝日新聞が犯した罪は「誤報」です。数ある慰安婦証言の中でも、最も信ぴょう性のおけない証言に依拠して、「従軍慰安婦の嘘」を世界中にばらまいたと、右翼から散々叩かれています。実際は、既に80年代から、「その証言は余り信用が置けない」と、従軍慰安婦の罪を告発する側からも疑問が持たれていて、国連の慰安婦問題報告書(クマラスワミ報告書)の中でも、その事は取り上げられていました。国連は、その上で、その他のもっとちゃんとした証言を基に、従軍慰安婦の蛮行をあばいたのですが。
もちろん、それでも「誤報」は「誤報」です。朝日は他に、福島第一原発の事故報道でも、当時の吉田昌郎(よしだ まさお)・福島第一原発所長が「所員に撤退なぞ命じていない」と調書の中で書いているにも関わらず、「所員の9割が所長命令に背いて勝手に福島第二原発の方に逃げた」と「嘘の報道」をしました。いずれも、それ自体が、報道機関としては絶対にやってはいけないミスです。朝日新聞には、今後は絶対にそんな事を起こさない様にしてもらわなければなりません。
しかし、ではその朝日を「売国」だ何だと盛んに攻撃している、読売や産経、安倍政権などに、朝日を攻撃する資格があるでしょうか。
私は「ない」と思いますね。だって、これらのメディアは、今も「従軍慰安婦なんてただの売春婦だ」「当時の日本軍がそんな事に関わっていたはずがない」と主張しているのでしょう。ところが、実際は当の自分たちも、戦時中に慰安所の設営や運営に積極的に関わってきた事が明るみになったのですから。鹿内は産経新聞のオーナーであり、中曽根も正力松太郎(読売新聞の創立者)とは昵懇(じっこん)の仲です。そして、今の安倍政権も、産経や読売とは大のお友達です。
これはもう「誤報」以上の問題ではないですか。世紀の人権侵害、戦争犯罪とも言える従軍慰安婦の設営自体に、積極的に関与していたのですから。
これは、福島原発事故の問題についても同じ事が言えます。吉田所長は調書の中で、「下手すれば東日本全体が放射能に汚染されてしまう所だった」と言っています。朝日の「誤報」なぞよりはるかに重大な問題です。それでも、読売や産経、安倍政権は、「福島はコントロールされている」と言いくるめ、今も原発を推進しているではないですか。むしろ、こちらの方が、朝日の「誤報」以上に犯罪行為ではないですか。
そんな読売や産経、中曽根や安倍、西村真悟や百田尚樹や「在特会」が、「ウソの吉田証言を広めて日本の信用を貶めた朝日新聞を廃刊にせよ!」と主張するに至っては、正に噴飯物という他ありません。私はむしろ、読売や産経の方こそ、廃刊すべきだと思います。安倍政権についても、即刻退陣すべきだと思いますがね。