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大阪都構想の次は安保法制や集団的自衛権の問題を当ブログでも取り上げようと思い、色々調べ始めてもいるのですが、分かりにくい事この上もありません。
安全保障法制(安保法制)、別名「戦争法案」とも呼ばれる、この一連の法律案は、具体的には次の二つを指します。
一つは「国際平和支援法案」です。これは新たに作られる法案で、今まで特措法の形で行っていた、自衛隊のイラクなどへの海外派兵を、恒久法の形で常時行えるようにしようとするものです。
もう一つは「平和安全法制整備法案」です。これは既存の法律の改正案を、一本の法案にまとめて一気に採択しようとするものです。改正の対象となる法律は次の10本です。①武力攻撃事態法、②重要影響事態法、③PKO協力法、④自衛隊法、⑤船舶検査法、⑥米軍等行動円滑化法、⑦海上輸送規制法、⑧捕虜取扱い法、⑨特定公共施設利用法、⑩国家安全保障会議(NSC)設置法。これで、例えば「自衛隊法」改正案では、自衛隊の任務に新たに在外邦人救出や米艦防護が加わります。また、それまでの周辺事態法に代えて「重要影響事態法」という法律にする事で、適用範囲を日本の周辺以外にも広げようとしています。
・・・とまあ、ここまではまだ何となく理解できます。もちろん賛成はできませんが・・・。
しかし、その「国際平和支援法案」や「平和安全法制整備法案」の中に、「何ちゃら事態」という良く似た言葉が、手を変え品を変え次々と出て来るので、余計に頭の中がこんがらがってしまうのです。一応、それらの「何ちゃら事態」の定義や適用条文について、下記の新聞記事なども参考にして、我流で整理してみましたが、実際はまだ全然理解できていません。
(1)「武力攻撃事態」
政府の説明の中では、これがまだ一番分かりやすいです。(もちろん、その政府の言い分には賛成なぞできませんが)
北朝鮮が日本近海にミサイルを撃ち込んだ場合などを想定したものです。これは今までも個別的自衛権行使の対象となってきました。
(2)「重要影響事態」
「日本に直接の武力攻撃がなくても、日本の平和や安全に重要な影響を与える事態」。根拠法は重要影響事態法です。これまでは朝鮮半島の有事を想定して「周辺事態」と呼んでいたのを、日本からの距離という制約をなくす為に言い換えたものだそうです。この場合は、自衛隊はまだ集団的自衛権は行使できないが、米軍の後方支援を担う事になるのだそうです。
なお、こんな形で「後方支援」なぞと言って戦闘と区別しているのは日本だけで、国際的には後方支援も、前線部隊に弾薬や食糧の補給を行う兵站(へいたん)活動として、戦闘行為の一部と見なすのが常識です。
(3)「存立危機事態」
「日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」。これが集団的自衛権行使の対象となる事態だそうです。根拠法は武力攻撃事態法改正案です。
(4)「国際平和共同対処事態」
重要影響事態の中でも、国連総会や国連安保理の決議に基づいて各国が治安部隊を派遣する場合を指し、今までその都度、特措法で対応してきたのを、次からは新法の「国際平和支援法」で対応できるようにするのだそうです。イラクやアフガンへの治安部隊派遣がこれに当ります。IS(イスラム国)への対処も、ひょっとしたらこれに含まれるかも。
・・・以上、無理やり整理してみましたが、書いている当の私自身も依然として全然理解できていません。
特に「重要影響事態」「存立危機事態」「国際平和共同対処事態」の3つの違いが釈然としません。「重要影響事態」は「武力攻撃事態」のまだ一歩手前で、自衛隊は直接前面に出ないが米軍の下請けをやる事になるのに対し、「存立危機事態」では自衛隊も前面に出て集団的自衛権を行使し、更にそれに国連のお墨付きが付けば「国際平和共同対処事態」となる。実際は国連のお墨付きなぞ無くても、米軍が勝手にベトナム戦争やイラク戦争を引き起こし、ソ連がチェコやアフガニスタンを侵略したのですが。
実は混乱しているのは私だけでなく、政府も国会で答弁不能に陥っているのだそうです。与党が国会で絶対多数を握っているにも関わらず、岸田外相も中谷防衛相も全然まともに答弁できずに立ち往生し、安倍首相がイラついて野党議員に野次を飛ばしまくっているのだそうで。
そりゃあ、そうでしょう。本来なら憲法9条で軍備を放棄したはずなのに、最初は「個別的自衛権までは放棄していない」という理屈で、実際は米軍の下請けでしかない自衛隊を、「日本国民の生命と財産を守る」という建前で年々増強してきました。
それでも、まだここまでなら、「個別的自衛権行使」「専守防衛」と言って誤魔化す事も可能でした。でも、やがてそれだけでは間に合わなくなり、米軍がイラクやアフガン、中東に派兵するたびに、自衛隊もそれに付き従わなくてはならなくなってきました。その中で、憲法9条と何とか辻褄(つじつま)を合わす形で、無理やりこねくり回して、こんな理屈をひねり出して来たのです。
しかし、この戦争放棄を定めた「憲法9条」と、それを有名無実化してしまう「安保法制」の関係。これって、8時間労働の原則を定めた「労働基準法」と、それを無にしてしまう「残業代ゼロ法案」や「裁量労働制」の関係と、非常によく似ていません?
昔は労働基準法なんてありませんでしたから、1日12~14時間労働や児童労働などの「蟹工船」「女工哀史」的な働かせ方が当たり前でした。その中で、世界や日本の労働者が、1日8時間労働制を要求してストやデモに立ち上がる中で、ようやく今の1日8時間・週40時間労働を勝ち取ってきたのです。
ところが、今や、その労働時間の上限規制を骨抜きにする下記のような動きがどんどん進められています。
(1)三六(さぶろく)協定
労使が協定を結びさえすれば、いくらでも時間外労働をさせる事ができるようになりました。これでは、会社の息のかかった人物を従業員代表に仕立て上げたり、御用組合をでっち上げさえすれば、いくらでも会社にとって都合の良い協定を結ぶ事ができます。(労基法36条)
(2)変形労働時間制
1週間や1ヶ月、1年などの一定期間の範囲内で、平均して週40時間の上限さえ守られておれば、1日10時間でも12時間でも働かせる事が可能になりました。それぞれ、適用できる業種や事業所の規模は限られていますが、その制限も年々緩和される傾向にあります。(労基法32条)
(3)フレックスタイム
上記(2)変形労働時間制の一種で、個人で自由に始業時間や終業時間を決める事ができます。仕事が早く終われば早く帰れる代わりに、仕事が終わらなければいつまで経っても帰る事ができませんし、変形労働時間制の一種なので残業代も付きません。実際は仕事が早く終わるなんて事はまずありません。
(4)裁量労働時間制
専門業務や企画業務、営業マンなどの外勤業務で、タイムカードによる労働時間の管理が難しい場合は、1日どんなに仕事をしようとも8時間しか働いていない物として見なされる制度です。実際は、必ずしも労働時間の管理が難しくない場合でも、この制度を時間外労働の強制に悪用する企業が後を絶ちません。これも適用される職種や事業所規模に制限がありますが、その制限も年々緩和される方向にあります。(労基法38条)
(5)「残業代ゼロ」=「定額働かせ放題」法案
上記(1)~(4)の例外規定だけでも「まだ物足らない、もっと労働者をこき使わなくてはならない」という事で、安倍政権が、安保法制や労働者派遣法改悪案と一緒に推進しようとしているのが、この法案です。「労働時間ではなく仕事の成果に応じて賃金を支払う事で、ダラダラ残業を一掃してメリハリのある働き方をしよう」というのが、この法案を出してきた表向きの理由ですが、誰が「ダラダラ残業」なんてしたいものですか。誰でも残業なんてしたくはないわ。でも、人減らしの上に仕事も山積みで、到底定時なんかには退勤できないし、基本給が余りにも安くて残業しないと食って行けないから、みんな渋々残業しているだけです。今は「適用範囲を年収1075万円以上の労働者に限る」なんて言っていますが、その年収制限もどんどん緩和されていくでしょう。
このような規制緩和が行われるようになったのも、「働き方が変わったからだ、世の習いだ」と政府は言いますが、とんでもない。経営者が勝手にそう言って、労働者にゴリ押ししているだけではないですか。夜勤や正月勤務のバイトに若者が殺到するのも、深夜割増手当や元旦出勤手当がなければ、普段の収入だけではとても食べて行けないから仕方なく応募するのであって、決して若者が本心から夜勤や正月勤務を望んでいる訳ではない。それに対し、国が全然歯止めをかけようとしないから、せっかく労働基準法で労働時間の上限を定めても、次から次へと骨抜きにされて、こんな例外だらけの分かりにくい法律になってしまったのです。ちょうど今の安保法制と同じように。今や、ブラック企業がここまで横行するようになったのも、こんな形で、政府も一緒になってそれを煽っているからじゃないですか。
この安保法制も、「例外だらけにして、話をわざとややこしくして、元の原則を骨抜きにしてしまう」「『国民を守る為』とか言いながら、実際は国民を『国や大企業の使い捨ての駒』にしてしまう」という点では、それと全く同じではないですか。実際は米軍の下請けとして、イラクやアフガンに飛ばされて殺されるだけなのに、それをさも「北朝鮮や中国の脅威から日本を守る為」であるかのように宣伝されて、実際は「海外派兵」の「戦争法案」でしかないものを、さも「後方支援」の「国際貢献」であるかのように取り繕っているという点で。その矛盾を誤魔化す為に、性格の異なる10もの法律を、無理やり一本の法案にまとめて一気に通そうとしています。しかし、元々はそれぞれ別個の法律だったので、法律に使われている用語や定義も微妙に異なります。だから、こんなに「何ちゃら事態」だらけとなって、訳の分からない事になってしまったのです。
しかし、我々は人間であって、使い捨ての雑巾なんかではない!米国や日本政府の勝手な理屈で殺されて堪るか!
※記事のタイトルと説明の仕方を今の形に変更しました。
(参考記事)
安保法制の全条文 与党合意 戦闘参加 厳格基準示さず(東京新聞)
自民、公明両党は十一日、他国を武力で守る集団的自衛権の行使容認をはじめとする新しい安全保障法制に関する与党協議で、関連法案の全条文に最終合意した。政府は十四日に関連法案を閣議決定し、週内に国会に提出する。集団的自衛権の行使を禁じてきた憲法解釈を変更した昨年七月の閣議決定を法制化する与党協議では、日本が戦闘に参加する基準は厳格化されなかった。経済混乱の際に集団的自衛権を行使する可能性も排除しなかった。
安保法制は、集団的自衛権の行使容認のほか、周辺事態法を改正して地球規模で米軍の戦闘などを支援できるようにする重要影響事態安全確保法案、「国際社会の平和と安全」を目的に他国軍の戦闘を随時支援できるようにする国際平和支援法案が主な内容。これらに加え、あらゆる事態に「切れ目なく」対応するとして、海外での自衛隊の活動を大幅に拡大する。
集団的自衛権の行使容認については、武力攻撃事態法改正案で、他国への武力攻撃が発生し「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」事態を「存立危機事態」と規定。自衛隊法改正案は、存立危機事態の場合には武力行使できることを明記した。
集団的自衛権の行使を可能にする主な法改正はこれだけで、何が存立危機事態なのかの明確な基準は示さなかった。安倍政権は、原油や天然ガスが国内に入ってこなくなるような経済混乱は存立危機事態に該当する可能性があるとして、中東での戦時の機雷掃海を集団的自衛権行使の事例に挙げる。
こうした法解釈に基づき、日本に波及する何らかの経済混乱が海外で発生した場合に「自衛」を名目にした武力行使が広がっていく恐れが残った。
与党は、閣議決定では明確でなかった集団的自衛権行使の基準は、法制化を通じて厳格化すると説明していたが、法案には閣議決定で示した「武力行使の新三要件」の要素を盛り込むことにとどまった。
http://linkis.com/www.tokyo-np.co.jp/a/TeABE
ついに国会空転 岸田外相のデタラメ答弁が“戦争法案”を潰す(日刊ゲンダイ)
ついに空転だ。29日の安全保障関連11法案を審議する特別委員会は、岸田外相のデタラメ答弁で紛糾。野党各党が退席したため、質疑は中断したまま散会となった。「重要影響事態」など各法案の定義する複数の「事態」について、特別委に常時出席する岸田外相と中谷防衛相はあいまいな答弁を繰り返してばかり。担当大臣が重要法案の中身を満足に理解していないのに、安倍首相が目指す「夏までの成立」なんて、おこがましい。
審議空転の引き金は、民主党の後藤祐一議員への岸田の答弁だ。安保法案の重要争点のひとつが、米軍などを地球規模で支援する前提となる「重要影響事態」の解釈について。法案は「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」と規定するが、具体的にはどのような状況を指すのか。そこが極めてあいまいなのだ。
後藤議員は1998年に、当時の外務省局長が国会で答弁した周辺事態(新法案の重要影響事態)の概念について、「軍事的波及が日本にない場合は周辺事態に該当しないとする答弁について政府は現在も維持しているか」と聞いた。
すると、岸田外相は「99年に政府統一見解が示され、それを今日まで維持している」と語り、質問に真正面から答えようとしなかった。直接答えないのにはワケがある。前日の特別委で岸田外相は98年の局長答弁を踏襲し、「経済面のみの影響が重要影響事態となることは想定していない」と明言していた。
この答弁にパニクったのが、当の外務省の事務方である。なぜなら、99年の「周辺事態の概念」に関する政府見解では「我が国の平和及び安全」の意義について、<軍事的な観点をはじめとする種々の観点からみた概念である>と説明。いわゆる“官僚作文″で、先の局長答弁を打ち消し、経済的な影響も周辺事態に含まれる余地を残していたからだ。
岸田外相も昨日の今日で自身の答弁の誤りを認めたら、火ダルマになると恐れたのだろう。後藤が同じ質問を重ねても、都合6回にわたって前出の答弁を繰り返したため、審議は中断。口永良部島の噴火も重なり、特別委は散会となった。岸田外相の保身とプライドが審議を止めたようなものだから、バカらしい話だ。
「『周辺事態』の概念について、これまでの経緯の確認を怠った岸田外相のポカです。答弁ベタで野党の集中砲火を浴びる中谷防衛相を尻目に“よもや自分に火の粉は降りかかってこまい″という慢心もあったのではないか」(民主党関係者)
■官僚も閣僚も法解釈を整理しきれないオソマツ
普段の答弁は安定感を誇り、“スーパー政府委員”と称される岸田外相でさえ、関連11法案に盛り込まれた複数の「事態」を一つ一つ理解し、満足に説明できないのだ。今後も特別委に常時出席する2大臣が答弁に窮し、連日のように審議を紛糾させる姿が目に浮かぶ。
「そもそも、国防に関する11もの法案を十把一からげにして一括審議することが無謀なのです。各法案の定義する『存立危機』『武力攻撃切迫』『重要影響』など複数の『事態』を閣僚はおろか、官僚すら整理しきれていない印象です。だから、それぞれの事態への政府答弁がアヤフヤとなり、紛糾させる事態を招いている。安倍首相が米国に約束した手前、重要法案を“エイヤ″と夏までに仕上げること自体にムリがあるのです」(立正大名誉教授・金子勝氏=憲法)
安倍政権がアヤフヤ答弁を繰り返しながら、最後は数の力で押し通すのなら、やってみろ。さすがに国民の怒りは沸点に達するだろう。
夏までの成立は絶対に不可能である。
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/160322/1