労働者派遣法改正案、衆院で可決 今国会提出は「3度目の正直」(産経新聞)
企業が派遣労働者を受け入れる期間の制限を事実上撤廃する労働者派遣法改正案は19日午前、衆院厚生労働委員会で自民、公明両党の賛成多数で可決した。与党は同日午後の衆院本会議に緊急上程。改正案は賛成多数で可決された。民主党、維新の党、共産党は派遣労働者の処遇改善につながらず、不安定な雇用が拡大するとして厚労委の採決で反対した。
改正案は安倍晋三政権が進める労働改革の一環で柔軟な働き方の実現を目指すことが目的だ。ただ、厚労省による条文ミスや衆院解散で、昨年2度にわたり廃案になり、今国会提出は「3度目の正直」。政府・与党は24日までの今国会の会期を大幅に延長する方針で、参院で必要な審議時間を確保できることから、今国会で成立する見通しだ。
派遣労働は現在、企業が派遣労働者を受け入れる期間について秘書や通訳など26職種の「専門業務」は無制限、それ以外の「一般業務」は同じ職場で最長3年が期限となっている。
改正案では専門と一般の業務区分を撤廃し、派遣先企業が労働組合の意見を聞いた上で、働く人を3年ごとに別の人に入れ替えれば、派遣労働者を使い続けられる。働く人の立場からすれば、同じ職場で働く期間は一律3年になることから、派遣期間が無制限だった専門業務は3年で「雇い止め」になるとの懸念が指摘されている。
このため、改正案は派遣会社に対し、同じ職場で3年勤務した人の雇用安定措置として、新たな派遣先を紹介したり、派遣先企業に直接雇用を依頼したりすることを義務化している。首相は厚労委での採決に先立つ質疑で「正社員を希望する人に道を開くための法案だ」と述べ、派遣労働者のキャリアアップにつながると理解を求めた。
http://www.sankei.com/politics/news/150619/plt1506190026-n1.html
上記の産経記事は色々とややこしい書き方をしているから分かりづらいですが、今度の派遣法「改正」で変わったのは次の二点です。
(1)派遣労働者は最長3年で今の仕事を雇止めになる。(別の部署に代わるか辞めなければならなくなる)
(2)今まで3年以上派遣の仕事を続ける事が出来た26の専門業務(秘書やアナウンサーなど)についても(1)と同じようになる。
では、今まではどうだったかと言うと、
(1)3年以上過ぎても契約更新できた。(本当はダメなのだが実際は色々抜け穴があった)
しかし、派遣自体が不安定な働き方なので、いつ派遣先からお払い箱になるか分からず、びくびくしながら働かざるを得なかった。
(2)3年の期間制限のない26の専門業務についても、現実には(1)と同じだった。
しかも、「それではあんまりだ」「本来、派遣労働と言うのは、季節労働など雇用需給が変動する職種で就業する場合の一時的・例外的な働き方であるべきであり、それを正社員などの常勤労働と置き換える事はできないはずだ」という事で、派遣労働者が派遣先で正社員などの直接雇用を希望した場合や、派遣そのものが違法だった場合(警備・港湾など派遣禁止業務への違法派遣など)、ただ違法状態を解消するだけでは労働者は失業してしまうので、そんな場合は、派遣先がその労働者を直接雇用しなければならないという形に、既に法律が改正され、その改正条項が今年10月1日から施行されるはずでした。
ところが、その10月1日が目前に迫るにつれ、直接雇用の増加による人件費コスト増を避けたい派遣先や、雇用責任の義務を免れたい派遣会社からの圧力が日増しに強まり、とうとう、本来なら労働者にとって有利になるはずだった(それでも微々たるものですが)法改正が、逆に「3年で雇止め」の形に事実上「改悪」されてしまったのです。(上図参照)
政府は、その代わりに「新たな派遣先を紹介したり、派遣先企業に直接雇用を依頼したりすることを派遣会社に義務付けた」、だから「改悪」ではなく「正社員を希望する人に道を開くために改正した」のだと言っているそうですが、とんでもありません。いくら派遣会社に「派遣先の紹介」や「直接雇用の依頼」を義務付けても、肝心の派遣先が首を縦に振らなければ、何もなりません。また、いくらそうやって直接雇用先を紹介してもらっても、今よりも更に安い賃金や酷い労働条件の職場ばかりでは、全く意味がありません。むしろ、「名ばかり直接雇用」が労働条件切り下げの隠れ蓑にされかねません。
今度の派遣法「改正」が、実際は「正社員化に道を開く」どころか、派遣会社だけが潤い、労働者にとっては逆に「生涯ハケンから抜けられないようになってしまった」為に、「生涯ハケン法案」と皮肉られるようになったのも、当然の成り行きです。
そういう意味では、正社員への道を閉ざされて一生涯派遣でこき使われるのは、もはや論外ですが、たとえ仮に「直接雇用」になったとしても、「名ばかり正社員」「名ばかり契約社員」などの「名ばかり直接雇用」で派遣と変わらない低待遇では、何の意味もないのではないでしょうか。
たとえば、私の今の勤め先は派遣ではなく業務請負会社で、大手スーパーの物流センター業務を請け負っています。私は、その業務請負会社に直接雇われた契約社員です。しかし、その業務請負会社とても、スーパーからすれば下請け企業の一つにしか過ぎません。いつ切られても不思議ではない不安定な立場で、常にスーパーの顔色をうかがいながら、仕事をしなければならないのです。その理不尽さについては、今までもこのブログで、業務の具体例を上げて一杯告発してきた通りです。
もちろん、建前上は、下請けと言えども、「より良い品をより安く消費者に届ける」、その下で「会社の利益も社員の生活も確保する」という立場から、言うべき事は言わなければなりません。「より良い品をより安く消費者に届ける」という大目的の前では、元請けも下請けもないはずです。食品の品質偽装なぞ、あってはならない事です。
ところが、昔から「長い物には巻かれろ」の風潮が根強いお国柄の、この日本では、そういう正論はなかなか通じません。現実には、「臭い者には蓋」の論理が堂々とまかり通る社会です。では、そのしわ寄せはどこに行くかとなると、下請けが全部かぶる事になるのです。
そりゃあ、昔のグッドウィルの「安全装備費」「データ管理費」名目のような露骨な賃金ピンハネや、今でも派遣業界に横行しているような「偽装請負」「違法派遣」のような露骨な違法行為こそ、我が社にはありませんが、それでも、第三者行為(加害事故)に名を借りた労災隠しなどは、私も過去に今の会社で実際にされた事があります。
以前、改修工事で作業場が狭くなったにも関わらず、会社が何ら具体的な事故防止策を取らず、ただ労働者個人に「気を付けろ」と言うだけの中で、私が前を歩いていた作業者にドーリーをぶつけてしまった事がありました。その事故原因には、私の不注意も当然ありますが、それだけでなく、前を歩いていた作業者が、狭い作業場で不自然に逆走してきた事や、障害物だらけで視界が確保できないのに作業を続行させた会社の安全管理の不手際も、当然考慮されてしかるべきなのに。会社は知らん顔して、「加害事故なので労災は適用できない」と、全ての責任を私個人になすり付けて来たのです。(当時の詳細記事参照)
多分、会社としては、労災事故を少しでも減らして、請負先の大手スーパーに良い顔をしたかったのでしょう。第三者行為(加害事故)である事をことさら強調する事で、労災適用を免れようとしたのです。
幸い、この時は、私がたまたま、バイトの組合の無い職場でも個人でも加盟できるユニオン(労働組合)に加入していた事で、そのユニオンの尽力もあって、労災適用を勝ち取る事が出来ました。しかし、派遣よりはまだマシと思われている直接雇用の現場でも、一皮むけば、このような「労災隠し」が横行しているのです。
更に言うなら、そもそも、私がなぜ一人でユニオンなんかに加入するようになったかと言うと、これまた、前の配属先(今とはまた別のスーパーの物流センター)で、仕事で使う備品のドーリーが足らなくなっているのに、そのスーパーはドーリーをなかなか発注してくれませんでした。しかも、私の会社もスーパーの顔色をうかがうばかりで、全然物が言えず。その為、カゴ車で納品された漬物や豆腐などの重たい商品を、わざわざバイトがドーリーに積み替えなければならなくなっていました。そんな中で、腰痛を抱えていた私がいたたまれずに自分からユニオンに加入し、この問題について会社と団体交渉する所まで持って行ったのが、きっかけです。(当時の詳細記事参照)
何度も繰り返しますが、「生涯ハケン法案」(派遣労働の固定化)だけが問題ではないのです。派遣社員(間接雇用)であろうと、下請けの契約社員(直接雇用)であろうと、元請けの大企業からすれば、「いつでも切れる」消耗品である事には変わりません。この「いつでも切れる」という奴隷的・搾取的な関係そのものを、もっと民主的でWinWinな関係に変えていかなければならないのと違うでしょうか。我々は奴隷ではないし、仕事も本来は「世の為人の為」にするものであって、決してただの苦役(奴隷労働)であってはならないはずです。