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ナショナリズムの限界

2008年09月09日 23時13分06秒 | その他の国際問題
 旧ソ連から独立したグルジアが、域内少数民族居住地の南オセチア自治州に軍事侵攻し、隣国の大国ロシアもまた、それを口実にグルジアに侵攻。この核大国ロシアを巻き込んだ地域紛争が、新たな冷戦・第三次世界大戦に発展する可能性も、一部からは取り沙汰されています。そこで改めて、グルジアを含むカフカス(コーカサス)地方の民族分布図を見て見ました(上記地図参照)。

 この地図は、「飛び地領土研究会」というサイトの中に収録されています。この「飛び地領土研究会」というのは、世界各地に散在する飛び地領土の由来や現状を、かなり詳しく且つ分かりやすく解説したサイトです。その解説によって、往時の植民地政策や今も続く地域紛争の性格が、見事に浮かび上がってきます。

 それを見てもつくづく思う事は、この地域が「民族のサラダボウルであり、また火薬庫でもある」という事です。カスピ海と黒海に挟まれ、古くから諸民族が行き交ってきたこの地域は、またロシア・トルコ・ペルシャ(イラン)周辺三大国の角逐の場ともなってきました。
 現在、同地方は、主要民族分布に従い、グルジア・アゼルバイジャン・アルメニアの三つの共和国に分立していますが、現実の民族分布はそんな三分立に収まるものではありません。それぞれ国内に飛び地を抱え、隣国の多数派民族が、其処では少数民族としての地位に甘んじている、そういう例が数多くあります。その他、その飛び地だけにしか居住しない少数民族も数多く存在します。

 そして、前記三共和国の大半の民族分布が、カフカス地方外のロシア・トルコ・イランにも広がっている事が、下記に示す様に、それら三大国からの介入の、格好の口実にもなっているのです。

(1) グルジア人とオセット人・アブハズ人との対立。カフカス山中を挟んでグルジア・ロシア二国に跨り分布しているオセット人は、グルジア領内では南オセチア自治州、ロシア領内では北オセチア共和国を形成しているが、いずれも反グルジア感情が強く、ロシアもそれを煽っている。グルジア領内の北部黒海沿岸に分布し、アブハジア自治共和国を形成しているアブハズ人も、同様に反グルジア・親ロシアの傾向が強い。

(2) グルジアとロシアの確執。ロシア革命直後に成立したカフカス地方の三ソビエト共和国では、民族の完全独立・対等平等に立脚したソ連邦樹立を主張するレーニンやグルジアの民族共産主義者と、あくまでロシア中心のソ連邦の枠組の中での自治共和国に押しとどめようとしたスターリン・オルジョ二キゼらとの対立が表面化した。これが所謂「グルジア問題」で、最終的に後者が前者を放逐する形で決着し、当初こそ前者の理想を掲げて誕生したソ連も、後者によって次第に「新ロシア帝国」とも言うべきものに変質していく(詳細は下記「れんだいこのHP」参照)。

(3) アルメニア人とトルコ人の対立。現在はトルコ領内に位置するアララト山(ノアの箱舟伝説で有名)を中心とした一帯は、古くからアルメニア人の揺籃の地として知られていた。アルメニアは、かつて第一次大戦直後に、敗戦国オスマン・トルコの領土分割によって、今よりも三倍近い版図で独立を達成しかけた事があった。しかし、その事でトルコ国内における反アルメニア感情が高まり、アルメニア人百万人以上が虐殺される憂き目にも遭っている。この様にして、一時はトルコ分割と引き換えに獲得するかに思われた大アルメニア独立も、新生トルコ共和国の誕生で完全に潰え去った。

(4) アルメニア人とアゼリー人の対立。アルメニア・アゼルバイジャン両国は、それぞれの域内に、ナヒチェバン自治共和国、ナゴルノ・カラバフ自治州という飛び地を抱えている。前者はアルメニア国内のアゼリー人の、後者はアゼルバイジャン国内のアルメニア人の飛び地である。そして両飛び地内では、双方とも相手の多数民族から弾圧を受けていると主張し、両軍が双方の飛び地内に進駐している。

(5) アゼリー人の親イラン感情と、石油利権に介入する欧米との軋轢。アゼリー(アゼルバイジャン)人は同国以外にも、イラン北部にも版図を持ち、第二次大戦直後はソ連の支援を受けて、双方に跨る地域で一時的に独立を達成した事もあった。しかし、バクー油田確保が至上命題の欧米からの圧力と、その後のソ連の変節によって、大アゼルバイジャン実現の夢は潰え去った。そして時代は下り、今もカスピ海油田確保が至上命題の欧米諸国に、同国は橋頭堡を提供している。しかし、同国をイラン攻撃の前線基地として利用しようとしている米国と、親イランの国民感情の間には、今も深刻な亀裂が存在する。

(6) 石油パイプライン争奪戦。カフカス地域にはバクー油田やカスピ海油田などがあり、そこから黒海や地中海岸の石油積出港にパイプラインが伸びている。その石油を制しようと、ロシアや西側諸国からの政治介入が強まっている。

 以上でも分かるように、この地域では、現在の国家や国境線は、現実の民族分布を反映したものではありません。あくまでも、現時点での国家・民族間の力関係の反映でしかないのです。それが証拠に、現実の民族分布を見ると、もう飛び地だらけなのです。極端な場合は、村の中の道・川・橋一つ隔てた向こう側はもう異民族の文化圏で、その相手の文化圏の中に、更に自民族の飛び地があるという、正に「サラダボウル」とも言うべき状況なのです。
 その中で、昔から対立と共存を繰り返してきたであろう少数民族同士が、今もいがみ合っているのが、この地域の現状です。

 しかも悪い事に、周辺国にも散らばる同民族や、ロシア・トルコ・イランなどの周辺大国が、民族間の積年の恨みつらみに付込んで、排外的な民族主義を煽っているのです。あくまでも自分たちにとって都合の良い様に。
 今世間の注目を集めている(1)のグルジア紛争なんて、その最たるものでしょう。大国ロシアに蹂躙されてきたグルジアが、国内少数民族のオセット人には弾圧を以って臨む。それに対してオセット人は、隣の大国ロシアを後ろ盾に頼む。ロシアもロシアで、近隣少数民族チェチェン人の自決権は認めないくせに、その隣のオセット人には「自決権の擁護者」として臨む。一方で米・英・仏などの西欧諸国も、旧ソ連・東欧圏への勢力拡大と石油利権確保の思惑から、グルジアに加勢する。何の事は無い、ロシアと西欧諸国の双方とも、少数民族の自決権要求を、自分たちにとって都合の良い様に、恣意的に利用しているだけなのです。

 ここまで来ると、「民族独立」「民族解放」「民族自決権」のスローガンについても、無条件で礼賛する訳にはいかなくなります。私は、少なくとも今までは、民族主義とかナショナリズムについては、二種類のものしか知りませんでした。まず第一は、英・米・仏・独・日など帝国主義・抑圧民族の大国ナショナリズムです。これは、私にとっては、あくまでも否定・克服されるべきものです。そして第二に、かつての中国・インド・ベトナム・アルジェリアなど被抑圧民族の、反帝民族解放闘争のナショナリズム。こちらは前者とは違い、基本的には肯定・発展されるべきものという認識です。

 しかし、このカフカス地域のナショナリズムについては、そのどちらでもありません。「被抑圧民族のナショナリズムでありながら、抑圧民族の其れと同様の、他民族排斥へと流れる傾向をも併せ持つ」という、現在この地域に広がっているナショナリズムを、敢えて定義付けるならば、「第三のナショナリズム」と区分されるのかも。
 否、それは何も「第三のナショナリズム」として別途定義されるものではなく、実は反帝民族解放型の「第二のナショナリズム」にも、帝国主義抑圧民族の「第一のナショナリズム」と同様の側面が厳然として存在し、それがこの地域では「第二」タイプとしてではなく、この様な極端な形で表出してしまっただけかも。

 では、どこで、その歯車が狂ってしまったのか。それはやはり、前記(2)の項目で述べた、ロシア革命以後の「あるべき解放の姿」を巡る権力闘争の帰趨の中に、そのヒントが隠されている様な気がします。その結果、ロシア革命を契機に誕生した各地の民族ソヴィエト共和国が、結局はその後進性を克服する暇が与えられないまま、被抑圧民族(グルジア人)出身の独裁者スターリンによって、再び弾圧を加えられる様になってしまいました。

 もはや、この地域では、ナショナリズムではなく、寧ろインターナショナリズムでやって行くしか、地域での平和共存・経済・民主主義を発展させる道は無いのではないでしょうか。丁度、映画「ホテル・ルワンダ」に示された他民族共存のメッセージの様に。全少数民族の自治権その他の基本的人権や、言語・文化など民族としての独自性を認めた上で、徒に民族間の対立を煽るのではなく、あくまでも平等や連帯に基礎を置いた、緩やかな連邦制を志向する。革命直後のソ連や、独立直後のアルジェリア、第三世界・非同盟諸国の有力な一員であったかつてのユーゴが、かつて思い描き、最後まで実現出来なかった、そういう道に。今度は、挫折の教訓も導き出した上で、再び挑戦して。

【参考資料】

(グルジア関連)
・南オセチア(世界飛び地領土研究会)
 http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Lake/2917/hikounin/ossetia.html
・アブハジア(同上)
 http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Lake/2917/hikounin/abkhazia.html
・「グルジア民族問題」考(れんだいこのHP)
 http://www.marino.ne.jp/~rendaico/marxismco/marxism_gissenriron_roshiakakumeiko_minzoku.htm
・米に乗せられたグルジアの惨敗(田中宇の国際ニュース解説)
 http://tanakanews.com/080819georgia.htm

(アルメニア関連)
・ナヒチェバン ナゴルノ・カラバフ(世界飛び地領土研究会)
 http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Lake/2917/ussr/nagornokarabagh.html
・ナゴルノ・カラバフ(日本アルメリア友好協会)
 http://homepage3.nifty.com/armenia/nagorno.karabagh.htm
・「アルメニア大虐殺」とトルコの憂鬱~忘れられた「ジェノサイド」から90年~(JANJAN)
 http://www.news.janjan.jp/world/0504/0504276336/1.php?PHPSESSID=.

(チェチェン関連)
・チェチェン紛争とは何か?(チェチェン総合情報)
 http://chechennews.org/basic/whatis.htm
・ロシア学校占拠事件とチェチェン紛争(田中宇の国際ニュース解説)
 http://tanakanews.com/e1001chechen.htm

(アゼルバイジャン関連)
・カスピ海石油戦争に勝負あり(JANJAN)
 http://www.news.janjan.jp/world/0411/0411291115/1.php
・アゼルバイジャン自治共和国(世界飛び地領土研究会)
 http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Lake/2917/syometsu/azer.html

(関連記事・他)
・コソボ独立宣言をどう見るか
 http://blog.goo.ne.jp/afghan_iraq_nk/e/c70c441791da25acc69f2ebfe938273b
・漫画「石の花」(坂口尚:作)の解説(ウィキペディア)
 東欧ユーゴスラヴィアのパルチザン闘争を舞台にした長編歴史漫画。「カフカス地方の民族史を考える上でも大いに参考になる」という、ある知人の推薦意見があったのを思い出し、こちらにも掲示。但し私は未だに読めていませんが(汗)。
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E3%81%AE%E8%8A%B1_(%E5%9D%82%E5%8F%A3%E5%B0%9A)
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1 コメント

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果てしなき分離・独立 (バッジ@ネオ・トロツキスト)
2008-09-12 09:46:02
ロシアからグルジアが、グルジアから南オセチアが、南オセチアから非グルジア系民族居住区が、更にまたその地域内から少数派が居住する「飛び地」が、と。

「民族」や「国民」という特殊歴史的・一時代的カテゴリーを固定視すると、世界は果てしなく分離・分割されていかなければなりませんね。
これが民族(自決)主義の愚劣な帰結ですかな(笑)
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