4月7日に安倍首相が緊急事態宣言を発令した。改正新型インフルエンザ等対策特別措置法の規定に沿って、新型コロナウイルス感染症の拡大を抑えるために、東京・大阪など7都府県に対して、今までより強い形での外出自粛などの呼びかけを行った。但し、この宣言が出たからと言って、欧米のようなロックダウン(都市封鎖)が行える訳ではない。そこまでの強制力は、この法律にはない。
当日夜7時から8時まで、安倍が緊急事態宣言発令について記者会見を行った。その記者会見の中継番組を私も見たが、その時の安倍の発言に心底呆れた。そこで安倍は何と言ったか。「もし、仕事でどうしても出勤しなければならない場合でも、7割以上出勤削減せよ」と言ったのだ。出勤しなくても良いなら誰でも休みたいわ。そんな事出来ないから出勤しているのじゃないか。
テレワークや時差出勤できる仕事ばかりではないのだ。私の仕事もスーパーの物流センターでの商品の検品・仕分け業務だ。私はそこで業務請負会社の契約社員として働いている。食べ物を扱うライフラインを担う重要な仕事だ。その仕事を普段でもカツカツの人数でこなしている。しかも、コロナによる買い溜めの影響で、いつも以上に仕事量が増えている。今や毎日が繁忙期だ。その為、普段でも早朝7時に出勤しなければならないのに、繁忙対応でそれよりも更に45分早い6時15分から出勤して仕事をやりくりしている。
そんな状態なのに、「7割以上出勤削減」なんて出来る訳ないだろう。まして私は非正規の契約社員だ。幾らベテランで現場を任されているとは言っても、スーパー、勤務先企業の意向や勤務シフトも無視してまで「7割以上」も休める訳ないだろう。首相の癖に、そんな事も分からないのか。幾ら世襲政治家のボンボンで流通の現場を知らないと言っても、これでは余りにも酷すぎる。それに対して「言葉尻を捉えるな」と反論されるかも知れないが、それは誤解されるような説明しか出来ない政治家の責任だ。ましてや安倍は一国の総理なのだから、誰でも分かるように説明出来て当たり前じゃないか。
第一、簡単に「外出自粛」と言うが、それがどれだけ大変な事か分かっているのか?安倍のような豪邸に住んで、いつもホテルで美味しい物を食べれるような人間ばかりではないのだ。高い家賃払ってもウナギの寝床みたいな物件しか住めず、安い給料で朝から晩まで働きづくめの人間も大勢いるのだ。せめて、たまの休日ぐらい誰でも遊びに行きたいわ。それでも感染を広めてはいけないからと、皆、我慢しているのじゃないか。それが分かっていたら、同じ事を言うにしても、もっと別の言い方が出来るはずだ。
だから、安倍のやる事は何でもチグハグなのだ。人には「3密(注)避けろ」と言いながら、ギュウギュウ詰めの満員電車や狭い会社の事務所は見て見ぬふり。日本人には早くから渡航自粛を呼びかけながら、2月中頃まで中国人観光客の流入を規制せず。クルーズ船を隔離したは良いが、乗客・乗員を缶詰にし続け、逆に感染を広める始末。感染が広まり始めても、憲法改正やカジノやオリンピックにばかりに熱中し、検査も入院も後回し。体制も整っていないのに思い付きで学校の一斉休校を強行し、学童保育にそのしわ寄せを押し付け。
(注)3密:①換気の悪い密閉空間、②人混みの密集状態、③密接な至近距離での会話・発声。この「密閉・密集・密接」の3条件を指す。この3条件が重なれば新型コロナ感染症発症のリスクが高まると言われている。
コロナ対策で諸外国がロックダウンなどの強硬措置が取れるのも、自粛と補償をセットで行っているからだ。香港では成人全員に一律14万円給付、後に24万円まで引き上げ。台湾では健康保険証を提示すれば誰でも2枚づつマスクが買えるようにした。スペインでは賃金全額の休業補償。他の西欧諸国も賃金の60~84%を休業補償。自国民だけでなく滞在外国人も含めて。韓国はドライブスルーのPCR検査で感染を封じ込めつつある。中国も、強権発動だけでなく、専門病院をいち早く作るなど、やるべき事もきちんとやって来たからこそ、日本の緊急事態宣言発令と入れ替わりに、武漢封鎖の解除にたどり着く事が出来たのだ。
それに引き換え日本はどうか?被雇用者に日額8千円余、フリーランスに同じく4千円余と、わずかばかりの休業補償でお茶を濁すだけだった。それを批判されたら、今度はやにわに「布製マスク2枚を1世帯ごとに配布する」と言い出した。1人住まいでも10人家族でも1世帯に2枚だけ。世帯単位なので、旦那のDVから着のみ着のまま逃げてきた母子家庭や、私のような人間には届かない。そもそもマスクなんて感染予防には何の役にも立たない。マスクなんてしていたら、息苦しくて眼鏡も曇って仕事にならない。それでも花粉症対策と咳エチケットには必要だから、皆仕方なくマスクをしているだけなのに、それをさも「くれてやるから有難く受け取れ」とは。
外国では成人全員に一律の休業補償、それに対し日本で一律にやったのは、1世帯にたった2枚のマスク配布のみ。この「アベノマスク」は不評散々で、普段は政治に関心を持たない人間も一斉に安倍批判を始めた。そこで慌てた安倍が、外国の物真似で始めたのが緊急事態宣言発令であり、次の述べる休業補償だ。被雇用者向けには1世帯当たり30万円の休業補償。中小企業には200万円まで、フリーランスには100万円までの休業補償。これをGDP(国内総生産)の2割に当たる総額108兆円もの予算で賄うようにしたと、安倍は大見得を切った。(その他に雇用調整助成金の助成率引き上げなどの政策もあるが、ここでは割愛)
しかし、ここには重大な落とし穴がある。まず、被雇用者向けの30万円は、収入が半減するか、住民税が非課税となる位まで収入が減らないともらえない。住民税が非課税になる水準とは、単身で大体年収100万円だ。月収ではわずか8万円。そこまで困窮したら、もはやホームレス一歩手前だ。30万そこらの金額なぞもらっても「焼け石に水」でしかない。しかも、ここでも世帯配布にこだわっているので、ホームレスやDV避難者は最初から蚊帳の外。彼らも同じ人間なのに。
中小企業に200万円、フリーランスに100万円の休業補償も、収入が半減するほどの減収にならないともらえない。たとえ月収20万円そこらで、どうにか食っていけてる人たちが、コロナによる営業縮小で月収が19万円に落ち込んでも、半減するほどではないので休業補償の対象にはならない。他方で、今まで散々儲けて来たくせに、コロナによる営業縮小に便乗して、自分から店をたたんだ場合はもらえるのだ。
その上、どちらも自分から申告しなければならない。その為には、何種類もの書類を自分で書かなければならない。確定申告と同じだ。もらえるのも何か月も先で、もらえるかどうかも分からない。そんな事に国の予算をつぎ込むぐらいなら、消費税や社会保険料の減免に踏み切った方がよっぽどマシだ。緊急事態宣言の期間中、対象地域で、消費税や社会保険料の一律減免に踏み切るのだ。そうすれば、何か月も待つ必要はないし、もらえるか、もらえないか心配する必要もない。申告書類も書く必要ない。
私の場合は、それでもまだ仕事があるから良いが、緊急事態宣言で仕事もなくなった人たちは、もう目も当てられない。緊急事態宣言が出ても、今はまだ外出自粛だけで罰則もないが、それでも百貨店や大型商業施設は軒並み休業に入った。派遣業界からは「明日から仕事がない、給料が出ない、給料を払えない」と言った声があちこちから聞こえてくる。もはやリーマンショックの再来とも言える事態だ。それを安倍は本当に理解しているのか?
それが分かっていたら、GDPの2割も意味もないバラマキに充てるような真似なぞしない。そんな事をする位なら、1割の消費税をタダにしたり、月収の2割以上にもなる社会保険料の減免に踏み切る方が、はるかに有意義だ。減免の波及効果が各方面に及び、景気対策にもなる。「国の財政赤字をどうするのか?」と言う反論に対しては、ムダ金に回す金をそっくりそのまま減免に回せば済む話だ。
そんな事も理解できない安倍なら、もう辞めてもらうしかない。外出自粛が広まらず買い溜めが横行するのも、安倍自身が保身に汲々としているからだ。森友・加計問題や「桜を見る会」を見れば分かるだろう。それでも今までは、ニュース番組に圧力かけて御用化・ワイドショー化し、世襲選挙・金権選挙の繰り返しで、安倍自民党は選挙に勝って来た。しかし、その神通力もコロナ感染の前には通用しなくなる。「アベノマスク」は、そのほんの予兆に過ぎない。