脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

右脳と左脳は得意分野が違う-その3

2016年06月17日 | 正常から認知症への移り変わり

FBつながりで、映画の自主上映会に行きました。

映画は期待通り、暖かい感動的なものでした。自然の中で生きること、野菜も私たちも生きている。ありがとうと感謝しながら成長を見守り、その命をいただく…
感動の映写会の後には、映画の北海道佐々木ファームから届いた野菜や、近隣の有機農法の野菜などを使ったランチが待っていました!

短い自己紹介のスピーチで参加者の皆さんのお顔を拝見した後で、同じテーブルを囲んだ方たちとの歓談の時間も設けられていました。
私のお隣に座られた方に「どちらからいらっしゃいましたか?」とお尋ねしました。
「今は小室山に住んでいますが、関西から8年前に移ってきました。実は、私、脳出血を起こしたんですよ。リハビリをがんばった後で、これからの人生を考えました。したいようにしなくっちゃあ…そこで『温泉があって、お魚がおいしくて、暖かい、伊東に住もう』と思ったんです」(6/15の庭の花。デモルフォセカ

食事の時に左手でお箸を使われていましたから、あまり意識もせずに左利きの方なんだと思っていました。
目を向けたときには、右手でお箸を使っていらっしゃいます。ん?問わず語りに話し始められました。
「実はそのときの脳出血で右手がうまく使えなくなったのです。病院の人は『もう右手はだめだから、左手の練習をしなさい』と言いましたけども『私は右利きなので、右手も使えるようになりたい』と、ほんとに一生懸命努力しました。もちろん昔のようにスムーズに使えるわけではありませんが、それでも今はこうして両方使えるようになりました。最初は右足もうまく使えずに車いすだったんですよ」

右半身に運動マヒが出たということは、運動支配は逆転しますから左脳が障害されたということですね。
またもともと「右利き」の方ですから、左脳に言語野があることが想定されます。
とても大雑把に説明すると、右手にマヒが発現した時には、発語に支障を伴うことがほとんどです。つまり「話せない」か「話しにくい」のです。
右足にマヒが起きたときには滑らかに話せる(と、いうか発語できる。言いたいことが正確に言えるわけではありません)のですが、こちらの言っていることの理解に障害が起きることが多いのです。つまり何を言われているかわかりません。
この方は最初は右手右足両方マヒだったのですから、うまく話せないうえに聞き取りも悪い状態だったはずです。今は右手も使えますし、ここまでのお話しもつっかかることなく、うまく運びました。
ミニダリア

でも、いったん脳障害が起きた場合には、全く跡形もなく病気以前の状態に立ち戻ることは、ほとんどありません。
だから、私は聞きました。
「お話しは何の問題もなくよくわかりますが、ご自分ではいかがですか?ちょっと話しにくいとかありませんか?」
すると
「そうなんです。皆さんは何ともないといわれますが、自分ではやはりちょっといいにくいというか、ことばが出てきにくいというか…もちろん最初と比べるとほんとによくなりましたけどね。ことばがなかなか出て来ないというと、皆さん『あら。私もよ』とか『齢をとったらみんなそう』と言われるけど、それとはちがうと思ってました。初めて私の気持ちを理解してもらえたような気がします。
ただ、こうしてがんばってると、私はこれ以上は悪くならないはず。皆さんは齢のせいでだんだんもっとことばが出にくくなる。そうするとどこかで同じレベルになる。ちょっと早めに齢をとってるだけって思ってるんです」

そこで私。
「今のように続けて努力なさっていたら、『もしかしたら逆転だって起きるかも』と思ってらしたりして」と笑いました。(ほんとはこれはまずないと思います。脳障害を受けるということはそのくらい影響が大きいものです)

「お顔はわかるのですが、お名前がなかなか出て来なくて」と言われました。そこで、答えました。
「そんなときも、世の中の人は『私もそう』『私にも起きる!』って言いますよね?でも、違いますよね。そう思ってらしたでしょう?
右脳って、色とか形とか、音楽、感情のようなアナログ情報、言い換えたら言葉で説明できないような情報を受け持ちます。顔は?形がベースですから右脳が受け持ってます。そして右脳は今回の病気の影響は受けていない。
病気になられた左脳は、ことばの脳です。名前というのは、形でも色でもなく言葉そのものでしょ?いくら表面的には誰にもわからないほどに回復したとしても、病気のダメージがゼロということはありませんから、本当に『名前が出てきにくい』ということは理解できますよ。
左脳に卒中を起こした方たちのうち、多くの方は、自分の困っている状態をうまく言葉で説明することができませんから、話すことが嫌になったり、人の中に入っていくことをためらうようになったりします。そうするとますます話しにくくなったり、それを続けていると認知症の兆しが見えてきたりします。
それにしても、今日もお出かけされてますし、ほんとに意欲的に頑張っていらっしゃいますね!」
柏葉アジサイ(今年の新人)

「いあやー。初めてです。『前と同じようにはなっていない。後遺症がわずかだけど残っている』と言われてスッキリしました。こいうことは病院でも言われませんでした」
私はまたもう少し右脳障害と左脳障害の差の話をしました。
「左脳障害の方たち、後遺症が右マヒということですね。この方たちはことばの障害もあって最初の落ち込みは大きいのですが、その後涙ぐましい努力を始められることがほとんどです。
一方、右脳障害の方たちは、左マヒはあっても、聞き手の右手は使えるし言葉の障害はないのに、ろれつが回らないことはありますが、チャランポランでリハビリの努力などしない人が多いのです。そのくせ勝手な場をわきまえないことを話してしまったり、相手を傷つけることを平気で言ったりします。右脳に障害が起きたために、後遺症としてそんなことが生じていると考えられることはありません。『病気のあと、わがまま、自分勝手になった』と言われますけど」
墨田の花火

私たちの前に座っている方は、今お話した方とお知り合いらしく、話しかけてこられました。
「○○さんのご主人、4月に脳出血起こされたんですって。右手にマヒがあって車いす…」そこで私たちは「同じだ」と目配せしました。お話しは続きます。
「ご主人は大きな方だし、奥さんは小柄。とってもお世話ができないといわれてましたよ。体だけじゃなくて、息子さん二人いるんですけどね、わからないみたいですって。名前も言えないって」ちょっと声を潜めて「認知もあるのかも…」
花の小さな日本アジサイ

右脳と左脳の話を、最初からする時間はありませんでしたから、お隣の方だけにもう少しお話ししました。
「息子さんの名前が言えないということだけで認知症とは言えませんよね。ホラ、あなたも顔はわかるけど名前が出て来ないでしょ。それは後遺症が少しだけ残っているから。
今のお話しの方はまだ2か月くらいしかたっていないので、自分の息子だと顔はわかっているけど名前が出て来ない状態なのかもしれないでしょ。
『ボケちゃったから家族のこともわからない』というのは、名前がわからないという以上に自分との関係がわからなくなるのです。夫のことを「こんなおじいさん知らない』とか息子と夫を間違えるとか、世話をしてくれる娘に『どなたかわかりませんが、ご親切にしてくださって』と挨拶したりするんです。
そんなことが起きてしまっているのかどうか、もっとよくわかってあげないといけませんね。多分違うと思いますけどねえ」
これも日本あじさい(富士の滝)

右脳と左脳の働きが違うということを知っていると、脳卒中にかかった時にできなくなったことと、できることを区分けることができます。普通は「あれもこれもできなくなった」
とできなくなったことばかりに目が行っているものです。そこからリハビリをスタートさせることはあまりにもお気の毒だし、効率的でもありません。
食事会のデザート

この話のテーマから外れますが 、ふろくです。
人に対する見当識が、正常からどのように認知症まで変化していくかをまとめてあります。
正常から認知症への移り変わり―ちっとも顔を見せないんだから」
更にふろくです。
正常から認知症への移り変わり
「今日もコロッケ明日もコロッケ」ー料理作り
http://blog.goo.ne.jp/ageinglife/d/20080517

「部屋で鶏でも飼わなくっちゃ」ー食作法
http://blog.goo.ne.jp/ageinglife/d/20080522

「スピードが遅すぎて怖いんです」ー車の運転
http://blog.goo.ne.jp/ageinglife/d/20080606

「おしゃれだった人が」ー着衣
http://blog.goo.ne.jp/ageinglife/d/20080610

「時の見当識から見る認知症の重症度」ー時の見当識
http://blog.goo.ne.jp/ageinglife/d/20080619

「所の見当識は?」
http://blog.goo.ne.jp/ageinglife/e/64da175c7d0fc46f7983b388f00a3619

「続ー所の見当識は?」
http://blog.goo.ne.jp/ageinglife/e/e1ddb899c8aa76dbc8b138fdf46e7ba9


ブログ村

http://health.blogmura.com/bokeboshi/ranking_out.html