近くのSMのCDショップを覘くとキャンペーン中なのか、ATLANTICレーベルのCDがずらりとディスプレイされ、そのラインナップに、なんと本作が。よくぞこの作品が入ったものだ、と感心した。
ハバードの全キャリアの中で異色作の最右翼。
1968年、ベトナム戦争中に起きた米軍のよる「ソンミ村虐殺事件」を題にした抗議、告発作。
1969年、世界中を震撼させた「シャロン テート事件」への哀悼も含んでいる。
当時のハバードのレギュラー・クインテットの演奏をベースに、トルコ人で現代音楽家のイルハン・ミマールオール(ミマログル)がポエム、コーラス、シンセサイザー等々をオーバー・ダビングした作品。
録音は1970年7月20、8月10日(1971年1月20日説もあり)。1971年にリリース。
当時、ハバードはCTIと契約を結び、70年1月、既に‘RED CLAY’を吹きこんでいる。恐らく、3者の間で了解済みと思われ、内容はシリアスです。
一部からそうしたハバードの姿勢をポジティブに称える声も挙がったが、「音楽に政治色を持たせる」行為をネガティブに捉える評論家が多く、それほど話題にならなかった。勿論、難解さが一般ジャズ・ファンに受け入れられなかったのも否定できない。
だが、そもそも「音楽に政治色、メッセージを持たせてはいけない」なんてナンセンスな了見だし、我が国の評論家にはまるで「UFO」みたいに映ったかもしれない。ま、ジャズの範疇で捉える事自体、ムリと思う。
作編曲はすべてイルハンの手で行われ、ハバードの演奏は「従」に聴こえるけれど、ハバードでなければ、果して「音楽」として成立ったか、甚だ疑問です。バック・カヴァの写真がその存在価値を証明している。
かくいう自分も、初めて耳にした際、「難解、理解不能」に陥ったけれど、改めてじっくり聴き直すと、現代音楽からフリーな世界を垣間見せながら決してラジカルさを強く押し出さず、むしろ理知的なプレイを聴かせるハバードを見い出した。制作コンセプトを実に良く理解している。クレバーですね。
ハバードは60年代、多くのレコーディング・セッションに呼ばれて、数多くの名作のアシストをしている。つまり、プロデューサー、相手ジャズ・メンから信用、信頼されているワケです。名を出すのは憚りますが、他のtp奏者達では務まらなかったのでしょう。
後の映画、フランシス・コッポラの「地獄の黙示録」を音楽化した感じ、と言うと解り易いかもしれない。といっても、あの映画もなかなか難解ですが・・・・・・・・・・
それにしても、ATLANTICというメジャー・レーベルからよくリリースしたものです。ゲート・ホールドのカヴァ、ピカソの「絵」、ATLANTICは「本気」だったのだ。ハバードのジャズ・シーンの中での「ポジション」が良く解りますね。
F・ハバードの「知られざる一面」を刻んだ怪作。
他のリーダー作に呼ばれた時、あれほど他人の音楽コンセプトを瞬時に正しく把握して、
音楽全体に貢献したアーティストはちょっと珍しいと思います。
これ、存在は知ってましたが、聴いたことないです、まずはCDでトライしてみます。
コルトレーンの「アセンション」を録音した時、A・シェツプは「コルトレーンが演ろうとした事を本当に理解したのは、オレとハバードだけだった」と語っています。
一部の人達の薄っぺらい「ポピュリズム発言」を鵜呑みせず、本質に聴いて欲しいものです。